つまる所、買い物も一時間程で終ってしまったし、折角タマムシまで来たのだからジムに挑戦していこうということらしい。


「ちょ・・・レッド、私リングマと戦った時くらいしかバトルしてないしさ・・・対人戦とか無理だと思うんだけど」

「ミチルのポケモンは強いから大丈夫」

「トレーナーがダメダメだから大丈夫じゃないんだって」

「何事も経験」


そう言われながら、私はレッドに手を握られてジムまで強制連行されております。何事も経験というのは納得できるけど、いきなりジムリーダーとかハードル高すぎる。


「ほら、ついた」


目の前には、威圧感のある建物。レッドが言い出したら聞かない性格だということを、出会って二日目で理解した私は、小さくため息を吐いた。


「エリカさんって、草タイプの使い手だったよね?」

「そう」

「じゃぁ・・・レディは不利だから、先頭はキティで、次はインかな・・・」


生まれて初めてジムの扉を開くと、建物の中なのに植物園のようだった。花のいい香りがする


「あらん?可愛い女の子ねぇ♪挑戦者かしら?」

「あ、はい」


いきなり出てきたのは、私の本来の年齢くらいであろう、色気の漂う大人のお姉さんだった。


「そっちのお兄さんは恋人なの?」

「全力で違います」

「・・・」


即答すると、微妙な顔をするレッド。お姉さんはそんなレッドを見てクスクスと笑う。


「じゃぁ、エリカちゃんの所まで・・・私たちのお相手お願いできるかしら?」

「もちろんです!」






次々とジムトレーナーの女の子達を倒し、何となく技の使い方がわかってきた気がする。最初はひたすら十万ボルトをやっていたのだけれど、相手の人の色々な戦い方を見て、かなり勉強になった。

次は、いよいよジムリーダーのエリカさんだ。

にしても、


「何でレッドがついて来るの・・・?」

「・・・心配」

「そこまで頼りないかなぁ、私・・・」


ここのバッジを持っている筈のレッドが、ずっとついて来る。
若いジムトレーナーの女の子が、頬を赤く染めてレッドばかり見ているせいで、私が軽く圧勝してしまうなんてこともあった。しかも、レッドは全くその様子に気づいておらず、女の子スルーで私への指導。
私が色んな女の子に恨まれたら、レッドのせいだ。別に、"一般人"の女の子と仲良しこよしするつもりはないけど。(最初の大人のお姉さんは別)


「・・・あの・・・?」

「はあーい・・・今日もよい天気ですね・・・」

「そうですね」

「ついウトウト眠ってしまいそうですが・・・可愛らしいお嬢さんを見たら、目が覚めましたわ」

「え・・・?」

「ふふ、本当に可愛らしいですわね・・・わたくし、タマムシジムのエリカと申します・・・負けませんわよ?」

「こちらこそ、です!」


ぽわぽわした雰囲気は一転、力強い瞳に射抜かれる。
グリーン君もレッドも、バトルの時はこんなにも変わるのだろうか。


「使用ポケモンは二匹。挑戦者のみ交換を認めます」


先ほどバトルをしたおとなのお姉さんが、今回の審判らしい。彼女が合図を出した所で、生まれて初めてのジム戦が始まった。


「いってください、ウツボット」

「キティ、よろしくね!」

「チャア!」


初めて見たウツボットは、飲み込まれたら一瞬で消化されそうなイメージの風貌でした。


「ウツボット、痺れ粉」

「キティ、電光石火で近付いて!」

「速い・・・!」

「そのまま至近距離でカミナリ!!」

「ビガァ!」

――バリバリ ドォン


何だか物凄い音に思わず目をつぶってしまったけれど、次の瞬間見たのは、黒焦げで目を回しているウツボットの上、誇らしげに立つキティだった。


「ウツボット、戦闘不能!」

「キティ、ありがとう!」


呼び掛ければ、真っ先に私の胸へ飛び込んでくるキティ。ジム戦の経験に、と私の横で見学させていたレディも嬉しそうだ。


「まだまだ・・・行ってください、キレイハナ!」

「キティ、待っててね・・・インお願い!」

「キィ」


キレイハナ可愛い・・・じゃなくて、今はインが最優先だ。


「キレイハナ、痺れ「イン、驚かす!」

「ハナ!?」


インの驚かすが見事に決まり、キレイハナは目を白黒させている。
状態異常系は厄介だから、先手を打ってよかった。


「怯んでる間にあやしい光で一旦離れて!」


思い切りあやしい光をうけたキレイハナは、キチガイな酔っ払いおじさんみたいになっている。可哀相だ。
ならもうこのゲームを終わらせようとインを見れば、私の意思が伝わったのか、緩く微笑んでいた。


「イン、手加減しながら破壊光線!!」


指示した瞬間、鋭くて太い光がキレイハナを弾き飛ばした。
・・・今更だけど、こんな危なっかしい技を人間相手に打ったワタルさんが信じられない。あの人、チャンピオンとしての自覚あるのかしら。


「キレイハナ、戦闘不能。勝者、マサラタウンのミチル!」

「イン、ありがとー!」

「キィ!」


抱き着くと、嬉しそうにほお擦りしてくるインが愛しい。
審判の人に「シロガネ山のミチル」とか言われなくて、安心したのは内緒。


「キティ、レディ、レッド、勝ったー!!」

「ん、偉い」


キティとレディからほっぺにチューをされて、インは私の背中にへばりついている。レッドも頭を撫でてくれたから、気恥ずかしさよりも嬉しさが上回って大満足だ。


「・・・流石、レッドさんが気に入った子ですわね」

「へ?」


振り向いたら、柔らかく笑うエリカさんがいた。


「ポケモンへの指示も的確、不利な相手に対する技の応用も素晴らしいですわ。何より、貴女とあなたのポケモンの絆の深さに、わたくしは完敗いたしました」

「え、や、そんなこと・・・」

「ミチルさんならば、リーグ制覇も夢ではないでしょう・・・さぁ、これを」


手渡されたのは、向日葵みたいな形のシルバーのバッジ。


「・・・こ、れ」

「タマムシジムに勝利した証の、レインボーバッジですわ」

「わわっ」


落とさないように丁重に受け取り、ギュウッと握りしめる。無料で作れちゃうトレーナーカードとは違って、私が挑み、勝った証。
そう思うと、喜びのブレーキが故障したみたいに、気持ちが溢れた。


「ミチルさん、よろしかったらこれを・・・」

「?」


渡されたのは、小さな紙切れ。これがなんなんだろうと首を傾げたら、エリカさんが教えてくれた。


「わたくしのポケギアの番号ですわ」

「え、え!?でも私、ポケギア持ってないです・・・!」

「いずれ買いましたら、是非掛けてくださいね」

「は、はい!」

「あ!エリカちゃんずるいわよ!ミチルちゃん、これ私の番号、ね?」

「あわわ、本当にありがとうございます」


最初から審判までお世話になったお姉さん(ナツキさんというらしい)にまで、連絡先を頂いてしまった。

タマムシジムの人にお礼を言って、レッドとジムを出る。今外に出しているのはレディだけ。
他の二匹は、怪我はなさそうだけど念のためポケセンに預けるつもりだ。


「レインボーバッジ・・・キラキラしてて綺麗・・・」

「・・・ミチル、落とすよ」

「レッドは何かに入れてるの?」

「・・・バッジケース」

「そっかぁ・・・うん、お金貯まるまではママから貰ったジャケットに着けとくよ」

「買う?」

「ううん、今日初めてファイトマネー貰ったし、その内自分で買うよ」


そうしてポケセンを出た私たちは、買い物の荷物を持ってレッドの家に帰るのだった。






初めてのバトル
(タマムシジムは素敵な所でした)




2011.06.16



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