ママが夕飯の買い物に行くというので、レッド君の部屋に来た。コンコンとノックをすると、無言でドアがカチャリと開いて、私のおでこにぶつかった。
痛い。


「!」

「・・・レッド君・・・せめて一声欲しかったです・・・」

「ご、ごめん」


そうして招かれた部屋は、予想以上に綺麗でビックリだ。向こうの世界の弟に見習わせたい。


「レッド君の部屋、いい匂いする」

「・・・そう?」

「うん、レッド君の匂い」

「・・・・・・」


何故か顔が赤くなってしまったレッド君。初ぃ奴め。


「あれ、うちの子とかピカチュウとかはいずこ?」

「庭で遊んでる」

「ふーん・・・」

「・・・母さんは?」

「ママはお買い物ですよ」


そう言いながらレッド君のベッドにダイブした。ふかふか。お日様の匂いとレッド君の匂いで、なんだか眠くなる。


「ママ・・・?」

「今日からレッド君の家の子なんだから、って」

「ああ、」

「レッド君はお兄ちゃんですね」

「・・・・・・」

「おにーちゃん」


ベッドへもたれ掛かって座っていたレッド君の背後から抱き着いて、そう言ってみた。いつもの仕返し。


「どうしたんですかお兄ちゃん」

「・・・・・・レッド」

「ん?」

「レッドでいい」

「そうですか」


お兄ちゃん呼びは気に入らなかったようです。いつぞやの元カレは「危ないことしてるみたいで燃える」って言ってたのに。レッド君改め、レッドに燃えられても困るけど。


「あと、敬語もいらない」

「そですか?」

「・・・妹、なんでしょ?」


今度はレッドがくるりと反転して、いつの間にか押し倒されたみたいな感じになっていた。


「どうしたのレッド」

「どうして欲しいの?」

「え、」


いつもの微笑ともとれない笑顔じゃなくて、怪しげに笑ってる。悪戯っ子みたいに。
あれ、ツンデレな上にSなんですか。


「靴が欲しい」

「・・・・・・」


年上のお姉さんを舐めちゃいけません。斜め上の返答を返してあげると、レッドははぁ、とため息を吐いて、そのまま覆いかぶさってきた。
重いよレッド。平均よりは軽いけど。


「もー・・・欲求不満なら私みたいな凡人じゃなくても、その変に綺麗なお姉さんゴロゴロ転がってるでしょ。レッドが誘惑したらイチコロリンだよ」

「・・・興味ない」


うわぁ。モテ過ぎ男の常套句だ。久々に聞いたよこの台詞。


「あ、そういえば、ママが夕飯ご馳走にするから食べなさいって」

「・・・いらない。帰る」

「どうせ携帯食ばっかり食べてるんでしょ?栄養失調で倒れても知らないわよ」

「・・・」

「だそうですよ」


レッドはため息を吐いて(図星だったんだ)、ママのご馳走が揃うのは時間が掛かりそうだということで、目的である靴を買いに、リザードンとインと私とレッドでタマムシデパートへ向かうことにした。






「はわー・・・」


タマムシデパートは、想像以上に大きい。向こうの世界の伊勢丹みたい。


「・・・迷子にならないでね」

「抱っこされてる状況で迷子になれるような特殊能力ないから」


それにしても、こうも人が多いと視線が痛い。主に女性から。
レッドは誰もが認める美形だし、そんなレッドに姫抱っこされてるちんちくりんが妬ましいのだろう。でもごめんよ女性達。不可抗力なのである。


「とりあえず、靴欲しい」

「ん、」


レッドも買い替えるらしく(ボロボロだったし)、二人で靴屋に向かった。
色んな靴が置いてあって、一人の女としてはキラキラなサンダルとかパステルカラーのミュールに心を奪われつつも、やっぱり主な活動範囲がシロガネ山なので、店員さんにお勧めされたランニングシューズにした。
軽くて、足早に歩ける、防水加工もバッチリな優れものだ。
レッドもお揃いで買うらしいので、私はその間ぶら下げられていたバラ売りの靴紐を見ていた。


「・・・レッドのは赤と黒にして・・・私のは水色と銀・・・グリーン君にも緑買ってこうかな・・・」


全部ラメラメが入った綺麗な靴紐。


「・・・何してるの?」

「ひゃう!」


靴紐を吟味していたら、レッド君に後ろから声をかけられた。無意識か意図的にかは知らないけど、気配を消すのはやめていただきたい。心臓三秒止まったよ。


「靴紐選んでたの」

「靴紐・・・?なんで?」

「だって、みんな同じランニングシューズでしょ?だから、この靴は私のだよ!って主張とお洒落心」

「へぇ・・・」


微妙に感心してるレッド。
お洒落に無頓着そうだもんね。


「黒と赤がレッドで、水色と銀が私で、緑がグリーン君の」

「グリーンにも買うの?」

「うん、今日の荷物運びのお礼を兼ねたお土産」

「そう」

そう言って、私の持っていた靴紐を引ったくり、レッドは会計まで持っていってしまった。


「ミチル、他に欲しいものある?」

「あ、ママに教えてもらった紅茶と、下着と・・・生ピッピ人形みたい」

「じゃあ・・・先に下着見てきて。僕は違う店行く」

「待ち合わせは?」

「二階のエスカレーター」

「了解」

「・・・あ、ミチルって何色好き?」

「黒と白と赤と銀かな」

「わかった」

「?」






サイズを計ったり色々可愛い下着を吟味していたら、すっかり時間が経ってしまった。
慌ててエスカレーターの所まで向かうと、大きな紙袋と小さな紙袋を持ったレッド。


「お待たせ!遅くなってごめんね」

「そんな待ってない」

「随分荷物多いけど、何買ったの?」

「・・・後でのお楽しみ」


今度はいやらしい方の笑顔ではなく、本当に悪戯っ子みたいな笑顔だった。


「はわー!ピッピ人形かわいい・・・!この限定ミミロル人形も可愛い・・・!!ポケモンに投げるなんてもったいなさすぎる・・・!!」

「・・・」


元の世界にいた時は、ぬいぐるみとかさして興味がなかった。けれど、このポケモン人形達は可愛すぎる。
限定ミミロルは、人形会社の社長さんと社長婦人の色違いミミロルが卵を産んだ記念らしい。故に、限定ミミロルも勿論かわいらしいピンク色で、女の子のミミロルにはブーケとヘッドドレス、男の子のミミロルは白いタキシードが着せられていた。


「・・・あ、ごめんレッド。あまりの可愛さに夢中になっちゃった」

「別に」

「つまんなかったら屋上で休んでていいからね?」

「ん、」


雑貨屋みたいな此処には、他にも可愛いものが沢山ある。私はレッドから貰ったお小遣で、目的の紅茶、ピッピ人形を二つと、キティとレディとインにつけてあげるリボンを購入した。


「あれ?」

「・・・おかえり」

「屋上行かなかったの?」

「待ってた」


店の外で待ってくれていたレッドは、本当に優しいと思う。元カレはレッドの爪の垢でも飲ませて貰った方がいいんじゃないか。

そうして二人で屋上に行き、ベンチに座って、二人でサイコソーダを飲んだ。これは美味しい。


「・・・ミチル、ポケモン持ってきた?」

「え?うん、みんなボールに入ってるよ」

「まだ時間あるし、これ飲んだらジム行こう」

「・・・・・・What's?」


予想外過ぎるレッドの発言に、私の思考回路はショート寸前だ。




脈絡はどこですか
(最初のジムってニビじゃないんですか)




2011.06.14



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