私が決意を固めてから数週間が過ぎ、遂に"弟"が生まれたと聞いたのは昨晩の話だ。

案の定、予想していたようにサカキ自身も子供の存在を聞いたのは最近のことで、もう時期的に産ませるという選択肢以外は残されていなかったらしい。相手はただの性欲処理として呼ばれた下っ端だったのだそうだが、赤子が母乳を離れる時期に彼女の処分も決まっていると聞いた。
勿論、それはサカキ本人からだ。彼は幹部にすら話していないような機密事項を、私には漏らすことが多い。書類では残したくない情報の引き出しとしての役割なのだろうと、勝手に私は認識している。自らの力で身を守り、血という鎖で縛ることの出来る、なんとも頑丈な金庫だ。(自分で言うのも複雑だが)


「お前に目付役をつけようと思っている」


そんな話の後、彼はそう言った。
そして、「目付役に希望はあるか?」と、私に聞いた。

まさか希望を聞かれると思っていなかった私は勿論のこと何も考えてはいなかったので、思わずギンの毛並みを整えていたブラシを持つ手を止める。
希望をと言っても、既にサカキがある程度はピックアップしているのだろう。恐らく、私が何度か顔を合わせてある幹部達の内の誰かだと簡単に予測できる。

しかし、敢えて訪ねたことに意味はあるのだろうか。
サカキの表情からは、何も伺えない。ただ、いつものように、面白そうな顔で、笑わない目で私を見下ろしているだけ。
私の何かを試したいのか、私に何かを求めているのか、それとも単なる気まぐれか。私やギン、そしてまだ見ぬ弟に危害が加わらないのであれば、別にどんな理由でも構わないのだけれど。


「・・・たまには何かねだってみろ。三つになった時も、お前はアイツ等に"何もいらない"と言ったらしいな。
あいつと私の娘であるなら、もう少し欲を見せろ。私の邪魔になる強欲さまでは求めていないが、無欲なばかりではいざと言うときに精神が脆くなるだけだ。それにお前が私の邪魔をするとも思わない。
欲しいと思えば奪ってでも手に入れろ。与えられる選択肢を利用しろ。
お前にはその権利もある、選択を間違えぬ狡猾さも備わっているだろう?」


私の予測はどれも間違っていたらしい。
要約すれば、ただの心配と、何かを私に与えたいサカキの自己満足――"親としての愛情"。

『お前が私の邪魔をするとも思わない』だなんて、私も随分と信用されたものだ。拍子抜けにもほどがある。

――しかし、"親"としての姿をメアリーがいなくなったその日からは絶対に見せなかった彼がそこまで言ったのだから、あえて私は意趣返しをしようではないか。
勿論、彼の歩む道の邪魔にならない物を。彼と私が"使える"カードを。


「・・・・・・水色の髪と目を持つ、優秀な方はいますか?」


私の思い浮かべるその人物が既にロケット団として存在していたのなら、適役は彼しかいないと思った。
サカキを決して裏切らず、サカキという存在を求めて"失われたロケット団を再び作り上げた"彼ならば、サカキの道の邪魔にもならず優秀な駒になり、上手くいけば私の切り札にもなるかもしれない――何より、今の幹部達では少し嫌だった。機械的な会話しかしない彼らを好んで選べという方が難しい。


「・・・・・・もし、その人が叶わなければ、紫色の髪を持つ変装が得意な方。赤い髪を持つ、研究に興味のある勝ち気な女性。緑の髪と目を持つ、冷酷な性質を秘めた方。
それも叶わないのならば、サカキ様が選んだ幹部達の誰かで構いません」


僅かに目を開き、思案するような顔つきになったサカキに、立て続けてそう言った。すると彼は、訝しげな顔で私を伺う――まるで、私の心を見透かそうとするように。
その雰囲気に気づいたのだろう、ギンが心配するような視線を向けてくるが、大丈夫だと毛並みを一撫でして落ち着かせた。

私が晒したのは、決してサカキの痛手にはならないカードだ。寧ろ、サカキならばその内に気がつくだろう、私のカードは彼の茨道を歩きやすくする"者"だと。
私にとって切り札と成りうるという事実までには、行き着かない――行き着かせないが。

サカキと私が見つめ合って数分――いや、数秒の出来事だったのかもしれないが、心情的には随分と間があった気がする――彼は面白いモノを見つけたという相変わらずな表情に戻って、笑った。


「部下に調べさせよう。お前の"何か"が、ただの当てずっぽうなわけではないのだろうからな」


当てずっぽうなわけがない。私が提示した四人は、いずれ失われる貴方を取り戻すことに、いずれ貴方が失う場所を守るために奔走する、筆頭者達なのだから。




四人のジョーカー

(私と彼が出会う数日前)
(私と"宝物"が出会う数週間前の話)




2013.04.05


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