三歳の誕生日を過ぎたある日、私は昼食を運んでくれた団員から新たな情報を得た。
それは、もうすぐサカキの息子――私にとっては、腹違いの弟が生まれるという話だ。

私が二歳であったあの日、サカキから直々に合格を貰ったギン。あれから、私たちの元へ下っ端が食事を持ってくることは、日を追うごとに減少した。
その代わり、今ではおそらくロケット団幹部である数人の決まった顔ぶれが食事を運び、模擬バトルをする日々が続いている。
正式なバトルをしないのは、幹部にしろ私やギンにしろ、失うのが痛手になるだろうサカキの意思だ。自分でも理解している――私は既に、サカキやロケット団にとっての"最終兵器"のようなモノに成り果てたのだと。

ロケット団の幹部というのは、勿論各々の能力に秀でた人材で、サカキから直々に選ばれるので、その基準は高い。
そんな人材が大量に存在するわけがない。
すると勿論、一度この部屋へ訪れた人物と再会することも普通であり、顔見知りとなればある程度の会話も交わすのが人間だ。
――ただ、人間らしい会話はなく、私と交わす言葉の全てが彼等にとっては義務であり、感情がなく、つまらないものであったのだけれど。

そんな日々を過ごしていた数日前――幹部の中で最も顔を合わせているだろう男が言ったのだ。


「お嬢様・・・いよいよ、サカキ様の意志を継ぎし第二の子が生まれるのです。きっとお嬢様のように美しく聡明で・・・」


続いた言葉は、忘れてしまった。
というよりも、何故そのように重要であろう事実を今まで聞かされていなかったのかなど、疑問に思うことが多過ぎて、耳に入ってこなかったのだ。

サカキが再婚したと言う話は聞いていない――曲がりなりにも血を分けた家族である私に、彼が告げないでいるということなど、サカキの性格を知っている現状では有り得ないのだ。

メアリーの面影を残した私。
まるで忠実なペットか人形のように私を扱うサカキでも、心底にある彼なりの、父親か、もしくは夫である"愛情"故に、私に対して沈黙を通すことはない。
隠すことも必要ない――私とサカキの間に、"子供"や"大人"である理屈は、既に存在していないのだから。

そうなると、今回の弟が生まれるというサプライズのようなこの知らせは、もしかしたらサカキ本人すら最近になって知ったことなのかもしれない。相手の女性は知らないが、息をすることにさえ打算を持って生きていそうなあの男に、計画には存在しなかった命を与えるなどとんだ勇者もいたものだ。


「おとうと、か・・・」

「なぁん?」

「ちょっと、たのしみだね」

「うなー」


そう、そこまで色々と思考しても、私に新しい家族が出来るという事実は変わらない。幹部たちが知っているならば、その"弟"をサカキは正式に息子として認めるのだろう。
――もしかしたら、単純に"私のような"駒がもう一つ欲しいだけなのかもしれないけれど。


「・・・おとう、と・・・サカキ・・・」


はっ、とする。
あまりにもこの世界に溶け込んでしまって忘れていたが、元の世界では公式にサカキの息子が存在していたはずだった。
ストーリーを重ねるごとに、閉じ込めていた心を開いていく、生意気で負けず嫌いな少年。


「・・・」


彼は、サカキの一人息子。
主人公と出会うことで、色々なことを知って成長していく。

けれど、ここには既に私というイレギュラーが存在してしまった。彼の未来は、"私"という不確定要素のせいで、何かしら変わってしまうかもしれない。

サカキがいつまでも私をここに押し込め、存在を隠蔽すれば未来は変わらないだろう。ロケット団が筋書通りに解散すれば、私はここを抜け出して身元を隠して生きていく。
だが、現実はそう簡単にもいかないだろう。私はサカキの――ロケット団の"最終兵器"。遅くても、レッドによるロケット団壊滅の危機がデビューだ。それより前の危機なんて、私は知らない。レッドの歩む予定であるストーリーは予想できても。

まだ、この世界で産声すら上げていない弟。
サカキの子供であるというレッテルを同じく背負う身である彼には、私のように"駒"という立場にはなって欲しくない。サカキの中での存在価値がそうであっても、せめて彼を道具などではなく、たった一人の人間なのだと教えてあげたい。


「・・・ねぇ、ギン」

「なぁ?」

「私に、できるかな・・・?愛してあげられる、かな・・・」

「うな!」


肯定という意味を示すよう擦り寄ってきたギン。
まるで真綿で締められているような錯覚を起こしそうなほどに不安だらけの心を抱えて、それでも私は私なりに、誰かを愛してみたいと思う。

例え愛することを許されなくても、私の存在がもたらす不幸から何も知らない小さな家族を守りたい。

――決意は、固まった。




儚くも、固く

誓おう、
必ず君を愛すると




2011.11.04


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