――神様は、本当に残酷で、悪魔よりも性が悪い。
「ママ?」
前世から、私は神様という存在に相当憎まれているようだ。
「・・・ま、ま?」
美しい金色の髪はそのまま、元より白かった肌は、無機物のように青白くなっている。
「まま・・・・・・・・・」
私の名前を呼ぶ柔らかな声は、答えてくれない。私に向けられる優しい瞳が、開かれることは、もう二度とない。
「ままぁ・・・!」
――メアリーが、死んだ。
私が二歳になる日の、調度一ヶ月前に。
原因は、突然の心臓発作で、メアリーは生気のない青白さを抜けば、まるで眠っているようだ。しかし、それは醒めることのない、永遠の眠りなのだけれど。
『二歳の誕生日プレゼントは何がいいかしらね?パパから貰ったギン、ベニカはとっても大好きみたいだから・・・ギンとベニカのプレゼントには、ポケモン用の道具がいいかしら』タマムシデパートの前で倒れたメアリーの手には、前世から私が好きだったアロマのように、こちらの世界ではお香であるそれ――"きよめのお香"が綺麗な装飾をされて、握りしめられていたらしい。
ゲーム上でお香は買える物ではなかったが、こちらの世界には大型のデパートに行けば普通に売っているそうだ。
明らかに私への誕生日プレゼントであるそれが、悲しみと苦しみを増長させる。
――全てがきっと、神様に憎まれた私のせいなんだ。
私を抱いていたサカキが、随分と長い沈黙を破った。
「・・・私の家族は、お前だけになってしまったな」
「・・・・・・・・・」
「・・・失うことには慣れたつもりだったが、相手によっては異なるらしい」
サカキは、今まで見たこともない表情をしている。
常日頃、恐ろしい程の燃えたぎる炎を宿していた闇色の瞳からは力が失せ、涙は流れていないけれど、泣いているように見える。
――初めて、この男が"哀れだ"と思った。
この強靭な男は、泣かないのではなく、"泣けない"のだ。
――まるで、私と同じ。
生まれ変わる前、私の死を悲しんでくれた親友達のように、心は取り返せない程の悲鳴を上げ、窒息しそうなくらいに涙を流しているというのに。
「・・・めん、なさ・・・」
「・・・ベニカ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・!!」
「!」
――全て、私のせいだ。
私に関わりを持った人達から、一度死ぬ前の両親からは、"私"を奪った。
銀の家族から、銀を奪った。
この、泣くことを忘れた哀れな男から――ママを、メアリーを奪った。
全て、罪深く神様に憎まれた、私のせいなんだ。
人と関わらなければ生きていけないのに、人と関わることが怖い。
これ以上、私は幾つもの命を不幸にして、幾つもの心に傷を付けてしまうのだろうか。
何故?どうして?
普通に生きてきた筈だった。
普通に、普通の人のように、幸せになれることを信じて疑わなかった。
――それももう、生まれ変わって尚、許されなかった。
「まま・・・まま・・・、ごめんなさ・・・ッ」
「ベニカ・・・もう、いいんだ」
強く強く、私を抱きしめるサカキの体が温かくて、優しくて、悲痛で、堪らない。
愛した女を奪ったのは私なのに、この男はそれを許すと言うのか。
「お前の・・・せいじゃない」
どうせなら、罵って欲しかった。
罵倒して、立ち直れなくなる程、怒って、憎んで、傷付けてくれたら、報われたのに。
――かみさま。
そんな甘えすら、私には赦されないのですね。
私を愛して、愛して、私の存在を"幸福"だと笑った美しい女は、私の中にある筈の"大切な何か"と一緒に、白い煙となって天へ召されて逝った。
また、ひとつ
私から、ナニカの壊れる音がする
2011.07.05
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