――彼女との出逢いは、ある意味最悪で、ある意味最高だった。
今になって思い出しても、思わず笑ってしまうような、そんな出逢いだ。

――昔から、僕には奇妙な力がある。
生きている筈のない者が見えたり、なくした物の場所が頭に浮かんできたり。
おかげで、"千里眼"という雄々しい二つ名までついてしまったくらいだ。

小さい頃は、それこそその力を憎んだ。
他人には怖がられるし、家族の中でも理解者はいない。探し物をする時、体よく利用されるだけの存在だ。

僕のことを他人は怖がるが、そんなものが見えている僕自身が、一番恐怖を感じていたというのに。

――想像してみて欲しい。
夜中に目を覚ましたら、天井に見知らぬお婆さんが立っていたりするのだ。そしてその数日後、親戚の家にある遺影にそのお婆さんが写っていたりするのだ。
外を歩いていても、生きている人間と死んでいる人間の区別がつかない。幽霊は足がないなんて、嘘っぱち。足しかない幽霊だっているのだから。

そんな僕の一族は、ホウオウというポケモンと、そのホウオウが降りて来るらしいスズの搭を、代々守っている。
次期当主の地位を生まれた時から決定されていた僕は、「僕の代でホウオウが現れたら、この力をどうにかしてもらおう」と、必死に修業に打ち込んだ。

ただ、その修業が幸をそうしたのか、力を自分の意思で制御出来るようになり、ホウオウに対しては、"願望"よりも"強い憧れ"だけが残った。
そうして、僕はあれ程憎んだこの力を逆手に取り、副業として幽霊に纏わる悩み相談やら、探し物・探し人の相談やらを受けている。
本業は勿論、エンジュシティのジムリーダーなのだけれど、ここだけの話、ジムよりこっちの方が忙しかったりもする。笑えない。

――彼女と出逢ったのは、ジムへの挑戦者も副業の予約もない、珍しく何もない休日の真昼間だった。

朝起きた時から、妙な違和感を感じていたんだ。こういう時は、大体近くに"何か"がいるのだけれど、生憎そんなのは家にいなくて、首を傾げたのを覚えている。

遅めの朝食を食べ終えて、ポケモン達にもご飯をあげようと相棒のゲンガーをボールから出したら、彼は真っ先に部屋を出て行った。


「・・・どうしたんだい、ゲンガー」


ゲンガーの後を追って行くと、彼は玄関の前で困ったようにうろうろしている。何事かと思ったが、玄関に近付くにつれて、今朝から感じている違和感が強くなることに気がついた。


「・・・・・・・・・・・・」


思い切って玄関の扉を開けた先には、思いもよらない物体がいた。

大きくて真っ黒なモヤモヤに包まれている、何か。
下を見ると、小さな裸足の足が、モヤモヤから二本生えていた。
このモヤモヤの正体は、知っている。死んだ人間やポケモンの残留思念――つまり、幽霊の成り損ないみたいなもの。じゃあ、この二本の足は人間なのだろうか。ここまで取り憑かれている人間を、僕は今まで見たことがない。
・・・それにしても、大きなモヤモヤから生えた二本の足。物凄くシュールな光景である。


「・・・えーっと、」


何て声を掛けていいものかわからず、言葉に詰まる。


「幽霊関係の相談・・・かい?」


そう聞くと、モヤモヤの中から「・・・はい」と、返事が聞こえた。それは、少女特有のソプラノ。モヤモヤのせいでわからなかったけれど、二本足の子は少女らしい。


「ごめんね、相談は予約制なんだ・・・」

「あ、はい。知ってます・・・」


知っているなら、何故ここにいるのだろうか。しかも、違和感を感じていたのは朝からだ。朝からここにいたというのなら、インターフォンでも押してくれればよかったのに。


「ゲゲッ!」


少女(多分)の横に浮いていた相棒が、悲しげに僕を見てくる。悪戯好きでやんちゃなゲンガーにしては、珍しい表情だ。


「・・・あの、すいません・・・予約制なのは知っていたのですが、何分私は予約できない体で・・・」


僕への相談は、電話での予約制だ。つまり彼女は、電話を出来ない体だということ。
鳴らされなかったインターフォン、そして、悲しげな相棒の表情。


「・・・もしかして、君は、」


この副業を始めてから随分と経つけれど、こんな相談人は初めてだ。

幽霊に取り憑かれた、幽霊だなんて。




2011.04.12


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