ロケット団によるコガネのラジオ塔占領事件から、約半年が経った。


「海が綺麗な街ですね、クロバット」

「キィ」


クロバットをボールに戻し、心地好い潮風に吹かれながら歩く。
船着き場にちょうど停泊している大きな船が、噂に聞くアクア号なのだろうと思いながら、長い階段を上がった。

丘に建つ高い灯台を眺めた後、視線をずらした先に見える小さな背中。
その傍らにいるオオタチが、私に気づいて驚くように飛び跳ねた。


「きゅきゅう!」

「んー、どうしたの、茶々?」

「きゅう!」

「なによー、そんな幽霊でも見たような顔して・・・」

「一応、足はついているんですけどね」

「・・・は?」


途端私を見上げた彼女の方が、幽霊を見たような顔になっているだろう。
久し振りに見た間抜けな表情に、私は思わず笑ってしまう。


「・・・らん、す?」

「貴女に名前を呼ばれるのは久々ですね」

「・・・、・・・本物?」

「確かめてみますか?」


そう問い掛けた次の瞬間、私の背中は地面に着いていた。


「・・・痛いですよ」

「・・・」

「ナナシ、」

「うそつき」

「・・・」


私の上にのしかかり、胸に顔を埋めたナナシ。
何となく、半年前の光景と重なった。


「うそつき・・・っ、さよならって、言ったくせに・・・っ」

「・・・ええ、そうでしたね」

「あんた、帰ってこないし、家にいたら思い出して、涙止まんなくて・・・」

「ああ・・・だから解約されてたんですか、あのアパート」

「うそつきは・・・きらいよ」

「・・・嘘のつもりではなかったんですけどね」


本当に、嘘を言ったつもりは微塵もなかった。
もう二度と会わないという覚悟も、固まっていた。

ただ、ロケット団の企みはヒワダで私の任務の邪魔をしたガキによって失敗したのだが、私を始めとした幹部達は誰ひとり捕らえられることなく逃げ出せたというだけの話で。
ジュンサーの無能さに呆れながら、第三の選択肢を与えられた私は、それならばとロケット団によるあの事件の噂が風化するまで身を隠していた。


「なんで・・・来たのよ・・・」

「・・・」


身を隠したからといっても、ロケット団が世間から忘れられたからといっても、私は彼女へ会いに来るつもりはなかった。

――あんな夢さえ、見なければ。


「茶々が心配で」

「!、このとーり、げんき、よ!」

「それに・・・ナナシが泣いてる気がしまして」

「・・・!・・・泣いて、ない!」

「おや、私のシャツはこんなに湿っぽくなかったんですけどね」

「・・・っ、きらい!きらいきらい!ばか!」

「・・・私は、ナナシのそんなあまのじゃくなところも愛してますよ」

「・・・ばか」


本当に素直じゃない口だと、苦笑い。
ナナシはそのまま私の上で暫く泣いた。漸く落ち着いて茶々を抱きながら立ち上がったのは、三十分も後だった。

さて、これからどうしようかと考える。
海が綺麗なこの街は好みだが、ジョウトに長く居座るわけにはいかない。いくらロケット団の存在が風化しようと、私が指名手配の犯罪者だということに変わりはないのだから。


「・・・ランス」

「?」


ぼんやり考えていると、袖をくいと引かれた。振り向いた先には、目元を赤くさせたナナシ。


「・・・もう、置いてかれるのはいや、よ」

「・・・」

「・・・・・・本当は大好きって言えなくて、後悔するのも、もう・・・いやなんだから」

「・・・、」


思わず笑ってしまった私の手を、真っ赤な顔でナナシがつねった。






(気付いてましたよ)
(強がりも意地っ張りも素直じゃない言葉の数々も)
(貴女なりの愛情表現なのだということ)




2011.11.08
TITLE BY 透徹


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