ナナシは、ボクの双子で唯一だったノボリとは、違う意味で唯一の存在。
ボクには、その"唯一"とか、"特別"が、よくわかんなかった。

だから、ノボリに話してみたけど、ノボリも首を傾げるだけ。物知りなノボリにわかんないなら、ボクがわかる筈がない。

電車に興味を持ち、ハマりこんで、もともとバトルが大好きなボクたち双子にとって、サブウェイは昔ノボリから聞いたことのある"サンクチュアリ"みたいだと思った。
ナナシとバトルしている時、ボクは確かにサンクチュアリ――ダブルトレインが"理想郷"みたいに、思えたんだ。

ナナシとのバトルは、すっごく楽しい。
ナナシの手持ちはジャローダと、エンブオーと、ダイケンキと、チラチーノ。
ことごとくボクのポケモンの弱点を、狙ったかのように出し、勝利を掻っ攫っていく。

いつだったか、「スーパーダブルトレインは来ないの?」と、聞いたことのがあった。
でもナナシは、「そこまで行ける程の実力は持ってないです」と、悲しそうに笑う。
ナナシが来てくれるんなら、スーパーダブルトレインも"サンクチュアリ"になるのにな。ボクはただ、そう思った。

だから、ボクは良いこと思い付いた。

週に一回、絶対日曜日に来るナナシ。(仕事の定休日なんだって!)
今日は日曜日。ナナシが休日返上で働いてなければ、もうすぐ来るはずだ。

ちなみに、ボクは今ダブルトレインでギギギアルと戯れてる。ワクワクが抑え切れなくて、ギギギアルでごまかしてた。
ギギギアルもナナシが好きだから、心なしか嬉しそう。


『ボス、挑戦者が六両目を突破しましたので、スタンバイをお願いします』

「はいはーい」


インカムから飛んできた駅員の声に、平常心を保ちながら返事を返した。

やっと、ナナシが来た!

ギギギアルをボールに戻す瞬間、何だか悲しそうな顔をしてたけど、すぐナナシに会えるから我慢してね。

ウィーンって音がして、七両目に人が入って来る。それはやっぱりボクの予想した通りのナナシで、飛び付きたいけど、我慢がまん。
バトルビデオがあるから、そんなことしたら後でノボリに怒られちゃう。ノボリに怒られるのは慣れたけど、やっぱりイヤなものはイヤ。ボクは怒られて喜ぶまぞ?だっけ?じゃないもん。


「一週間ぶりです、クダリさん」

「うん!一週間ぶり!」

「今日も、バトルをお願いします」

「もっちろん!」


ボクはいーっつも笑顔だけど、ナナシに向ける笑顔と、他のお客さんに向ける笑顔とは、気持ちがちょっと違う。なんだか、ナナシに笑顔を向ける時は、胸がほわーってあったかくなるんだ。
ボクの笑顔の違いがわかるのは、ノボリくらいだと思うけど。

――ナナシにもわかって欲しいな、って思うのは、なんでだろ?




――結果は、ボクの負けだった。

悔しいとかそんなのより、ナナシとのバトルがすっごく楽しかったから、なんだか嬉しい。

ライモンシティのホームに戻るまで、ボクとナナシは二人きり。こうやって、座席に並んで喋るのは、初めてじゃない。
ボクにとっては、この時間も、"特別"。


「あそこでドリュウズの地震がきたときはひやひやしましたよ」

「ボクだって、エンブオーの・・・あ!」

「へ?」


そういえば、さっき良いこと思い付いたんだ!
急にそのことを思い出したボクに、ナナシはキョトンとしてる。
ナナシはボクより背がちっちゃいから、ボクの顔を見上げる感じになった。

・・・なんだか、ドキドキする。なんでだろ。
教えてノボリ!

ボクはそんなドキドキを押し殺して、ナナシにさっきの提案をしてみることにした。


「ナナシ、実力ないから、スーパーダブルトレイン来ないって言ってた」

「・・・そうですね」

「でね!ボクいいこと思い付いた!」

「え!なんですか!?」


キラキラ、キラキラした目でボクを見上げるナナシ。
ドキドキするからやめて欲しいけど、やめて欲しくない。ボク、自分で自分がわからない。


「ナナシ、ボクと特訓すればいい!」

「・・・は、ぇえ!?」

「だから、特訓!ボクと特訓すれば、ナナシ強くなる!ボクはナナシとバトルできる!一石二鳥!」

「え、え、え」


いい案だと思ったんだけど、ナナシは困り顔。その表情は初めて見たから嬉しいけど、困られるのは寂しい。


「・・・で、でも、クダリさんサブウェイマスターだから忙しいじゃないですか・・・私も日曜日しかお休みないし・・・」


あ、そっか。
今更気付いたけど、ナナシは定休日が日曜。ボクはサブウェイマスターだから、お休みは不定期。
日曜日は大体混むから、お休みになることなんて滅多にない。


「・・・あ!ナナシって、お仕事何時まで?」

「残業がなければ、大体定時・・・十七時ですよ」

「なら、ボクと一緒に住めばいいよ!ボクのお休みにナナシがお仕事から帰って来たら、特訓!」

「・・・・・・・・・え?」

「・・・・・・あ」


・・・ノボリ、ボク、気付いちゃったや。
ナナシの"特別"とか、ナナシに感じるドキドキは、バトルとかそんなんじゃなくて、





(ク、クダリさん・・・?)
(ナナシ・・・お願い、見ないで・・・ボク、今、多分真っ赤)
(・・・・・・!!!!!!)

君といる時間が、ボクにとってはサンクチュアリ!




2011.05.21
初なのに天然パワーで色んな壁をすっ飛ばしたクダリ


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -