恥ずかしい。

三郎と出掛けるのは嬉しいし楽しいけど…たまに凄く嫌なときがあるんだ。



「ちょっ、三郎やめて…」



甘えてくる三郎は好きだけど、こう言う公共の場でやめて欲しいとつくづく思う。

今だって、
顔を近づけたり、じっと目を見てきたり、ここ電車なんだよ?って思う。
うぅ…思うと恥ずかしさが増してくる…


我慢できない。あぁ、やめて!
僕は、思わずファーがたっぷりついたフードを深く被った。
そうしたら、三郎の意地悪が止むと思ったんだけど、どうやら違ったみたいで、フードの中を覗き込んでキスしそうなスレスレで顔を止めてきた。息がかかるその微妙な距離に僕はどうしようもない焦りがジワリジワリと沸き上がってくる。
恥ずかしさと隣り合わせで、大好きな三郎の唇にこのままそっとつけてしまいたいという欲求がせめぎ合う。


このままとろけてしまいたい。



だけど、ここは電車なんだ。誰が見てるかわかりやしない。

一時ふわふわになった意識が恐ろしい現実にビクリと体が反応した。


「三郎、怒るよっ」


ポカポカ。
止めろという意味を込めて殴ってみる。結構本気なのに、三郎はニンマリと笑って僕を抱き締めてフードにキスをした。


「ぁっ…なぁ…バカっ」


恥ずかしさにビクビクとなってしまう。
それがまた恥ずかしくて、フルフルと震える僕を知ってか知らずか、膝を撫でるなどセクハラまがいの事を平然としまくる三郎に正直底知れぬ怒りが沸く。
我慢の限度を過ぎた頃、僕の何かがプッツン切れた。キレたと同時に固く、固く右手を握りしめた。


「いい加減にしろ。」


握りこんだ拳を空中に持ち上げ、勢いよく降り下ろす。

グギッと謎の音がしたけど僕は気にせず勢いをつた拳を降り下ろしきった。


「ぐっ…」


痛々しい呻き声が換算とする車内に響く。その音は生々しくて、きっと八がいたら血相を変えて三郎の顔面を心配するかとだろう。

怒りの鉄拳をどこか濁った音を発っしながら顔面で受け止めてくれた三郎だけど、僕の怒りを受け止めてくれなかったらしく、セクハラ行為は依然として続いている。


もう、誰かに見られてたら…バクバクする心臓の音色を感じながら、そぉーとフードの外を覗いて見ると、可愛らしいお姉さんと目ががっしりあった。


「ぁ……」


まさか本当に見られてた!
見られてた!?

見られてたぁっ





ガバリ。

と、フードのなかに顔を隠し、お姉さんをシャットアウト。
あぁうそ、どうしよう見られてたとか恥ずかしすぎて死にそうなんだけど、
てか、全部三郎が悪いんじゃないか!!三郎のバカバカバカバカ!!

僕は何回も三郎のバカと心の中で叫びまくった。




(そんなことをしてる間に、三郎がお姉さんに"羨ましいか?"を含んでニヤリと笑っていたことを僕が知るすべはなかった。)





ガタン、ゴトン。





ちょっとイジメ過ぎたかな?

動かなくなった雷蔵を見ながら少し焦った私だったが、雷蔵が「僕にかまわないで!!」の合図のようにipodを取りだし、イヤホンで外の音を断ち切ろうとしたことで焦りは消えた。

なんだ、恥ずかしくて固まっていたのか。
まったく、相変わらず可愛らしいんだから…これはもう少しイジメてしまおうか。

落ち着くことの無い悪戯心のままに雷蔵が手にしたイヤホンの片方を手に入れ、


「私には聞かせてくれないのか?」



然り気無く自分の耳に片方をおさめた。


ふふ、
きっと、可愛らしくムッと口を尖らして怒るか、
顔を赤くして睨み付けられるんだろう。


それが私を喜ばせることともわからずに…




が、

そんな私の予想は、あっさりと崩された。


想像と違う鋭い目が、私の持ったイヤホンに注がれたのだ。

どうしたのだろうか?疑問は浮かんだがそのまま放り投げ、自分を優位に立たせるべく


「いいだろう?私にも聞かせくれ、」


甘えるような、だけど強気な音を出す。
雷蔵が弱いことを百も承知だからな。

これで無事私は雷蔵から切り離されることなくずっと同じものを共有できる。




はずだったのに、



「そこじゃないよ!!」


またもや予想は大外れ。



(この時、さっきから私たちのことを心配そうに見つめる可愛らしい人がビクリとなったことに私はもちろん気づいている。)



「もう、三郎の慌てんぼう。これ右用でしょ?左右間違えていれると痛くなっちゃうじゃないか。はい、こっちが左用だよ。間違えないでよ…もう、」

「えっ…あぁ、すまない雷蔵」


なんだこの可愛さ萌え禿げる(私はけして禿げてないぞ)。

なんだ?雷蔵は私をキュン死にさせたいのか!?

そうか、そうか、私と同じ音を共有することが嫌だった訳じゃないのか。(一瞬心臓が止まるかと思った。)







「ん…」


音楽を聴きながら、前に座る可愛らしいお姉さんが携帯パチポチしているのを視界の隅に入れながら、雷蔵と流れ続けるメロディに心を酔わせていたら、今日の疲れが出たのか雷蔵がうつらうつらし始めた。


「………」


寝るための音楽にしては激しすぎるこの曲と雷蔵を切り離すため、俺は仕方なく雷蔵の耳から小さな機械を抜き取った。


「…さぶ、なんで取るの」


不機嫌な声さえも愛しい。
寝ぼけ眼で、でも自分だけ音の世界から外されたことが不満な声が私に文句をいう。

その顔をもう少し見たかったけど、雷蔵のためだとフードを被せ、優しくフードの上から撫でて「雷蔵寝てていいよ。ついたら私が起こしてあげるから。」と言うと、心配そうな声で「いいよ、三郎だって眠いでしょ?この前みたいに二人で寝ちゃうことになりそうだし」と返してくる。

その言葉に思い当たる節がいくつかある気がする。ここに八がいたら、的確にどの場面か教えてくれるんだろうな…疲れた顔をして。

一瞬思考を八にずらしていた隙に、眠らないようにとフードを外そうとする雷蔵の右手を私の左手で絡め、抑止する。


「いいから雷蔵はおやすみ。終点まで行っても私がちゃんと送るから…いや、私の家に泊まればいい。」

「ばか…もう知らないから…おやすみ、」


絡む指が気になって耳まで赤くして、眠れなくなってしまったのか暫く顔を背けられていたが、顔を隠しように伏せながら私の肩に頭をのせた。


ガタン、ゴトン

ガタン、ゴトン



揺れる車内が揺りかごになったのか次第に緩む絡めた指の力を感じた。

じょじょに夢の世界に旅立つ雷蔵を感じながら、幸せな気持ちに浸る。


そして、完全にほどけた事を確認した後、優しく左手で雷蔵頭を撫でた。「おやすみ、雷蔵」と添えて。




「………っ」
「…くす、」


あぁ忘れていた。さっきから気まずそうに携帯をいじるお姉さんの事…ぎゅっと携帯を握りちょっと困ったように目線をさ迷わせ、ほんのり顔を赤くさせた彼女は、私と目が合うとビクリとして申し訳なさそうに眉を下げる。そんな彼女の行動が可愛らしくすこし笑ってしまった。それに反応した彼女が、可愛らしく小さな口を開きかけたから、私は 「しー」 と指を自分の唇の前に持っていった。








…後書き……

こんなんでどうですかね?完全自己満で書き上げました落書き文章ですが、クリスマスプレゼントとして勝手に捧げます!!


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