風が吹いた。
私が陸部の見学に行ったとき、はじめに感じたこと。
その風の正体は、風丸先輩だと分かったのは入部してすぐのことだった。
そして、風は過ぎ去っていった。
「先輩は、私にとって風なんです。」
「風?」
サッカー部のユニフォームに身を包んだ風丸先輩は、私の発言にハテナマークを浮かべた。
言ってる私も突拍子もなく思ったことを口にしただけだから、よくわかってない。
あぁ、私何してるんだろう…先輩に久々に会えて嬉しくて思わず声かけて、話すことなくて焦ったからって、先輩は風って…意味分からなすぎでしょ。
「私、部活に入るとき迷ってたんです…ても、風みたいに早く走る先輩見て、入ろうって決めました。先輩は、私の背中を追い風みたいに押してくれたんです。だから、サッカー部でも、チームの人の背中を押してあげてくださいね。応援してます。」
もうなに言ってるのか分からなくて、真っ赤な顔を隠すようにうつ向いた。
ギュッと握った両拳に汗がにじむ。
「ありがとう。○○は、俺の追い風だな。」
「えっ…」
私の分からない話を聞いてくれたばかりか、私が追い風だと言う先輩に驚いて顔をあげると、真剣な顔の先輩が私をジッと見てた。
「悩んでいたんだ。サッカー部は助っ人のはずだったのに、今俺はチームの一員としているのが当たり前だと思っている。陸部の皆を裏切ったようで苦しかった。でも、○○は俺の背中を押してくれた」
ポンポンと私の頭を撫でる先輩は、心なしか苦しそうに見えた。きっと優しい先輩の事だずっと悩んでたんだろう。
「私は応援してますよ。だって先輩のこと好きだもん」
「えっ」
「あっ…」
なにも考えずに出てしまった本音に風丸先輩は驚いて顔を真っ赤にしてしまった…うぅ、ごめんなさい。真っ赤な顔と早鐘を打つように早い心拍数を押さえて、
「ごめんなさい。気にしないでください!」
そう言って走って逃げた。
押された背中。
「ひゃっ」
当たり前だが、私の足では風丸先輩にすぐに追い付かれてしまう。
追いかけられるとは思わなかったのもあってほんの数秒で私の逃亡劇は幕を閉めた。
「えっ、あの先輩…」
「何で逃げるんだ?」
「いや、だっていきなりあんな事いったら迷惑だとおもって…」
「迷惑なわけない…俺もお前の事好きだから。」
奥手だと思っていた先輩のまさかのお返事に私は驚いて固まった。
捕まれた腕がやたら熱くて、頭はクラクラする。これは、夢じゃないかと思うくらい私に好都合な展開。
「夢じゃないですよね?」
「ないよ。」
ギュッと抱き締めてくれる先輩の温かさはきっと夢じゃない。幸せを噛み締めながら私は先輩に体をあずけた。
柔らかい風が私たちを包むように吹く。