「お嬢さん。」
私はごく普通の女の子で、ごく普通の生活をしているただの人間です。
「お茶でもいかかですか?」
そんなただの女をお茶に誘うなんて、この男はバカだろう。
もっと美人誘えよ
バカじゃなかったら、私をからかっているのだろう。
なんかイラッときたから、無視して通りすぎてしまおう。私じゃないかもしれないし…そうよ、きっと私じゃないから関係ないわ。
金髪スーツなお兄さんの横をさっさと通りすぎてしまおうとしたら、甘い香りがして思わず少し止まってしまった。
あぁ嫌だわ。この食いしん坊…はやくこの男から離れちゃいなさい。
足をもう一度動かして、彼から距離をとろうとしたら、腕を捕まれた。
「何か?」
「お嬢さん、お茶でもご一緒にどうですか?」
「あら失礼、興味ないです。」
断りを入れても解放してくれない。
「だから、なんなんですか?」
「お茶に誘ってるだけですよ。」
「もっと美人さん誘いなさいよ」
「誘ってますよ。」
「私は、ただの村女よ」
「そうは見えませんね」
「意味がわからないわ」
睨んでやれば、気にした風もなく笑みで返された。
何なんだこの男!!ムスッとして黙ってれば、男は口を開いた。
「俺にとってお嬢さんは特別なんですよ」
「特別?」
「この島に来てからずっとあなたを見てた。朝早くに起きてパンを焼き、頼まれればどんなに忙しくてもケーキを焼き、夜遅くまで誰かのために料理をする…素敵な料理人だ。」
「そりゃどうも。」
「俺は、今夜ここを立たないとならない。」
「それは、お気をつけて」
「だけど問題がある」
「あら、大変。」
「君をどうしても欲しくなった」
「あら、お断り。」
「言われると思いましたよ」「それじゃあ、諦めてくださるかしら?」
「それはできませんね。何せ俺は海賊ですから。」
文句を言おうと開いた私の口にさっきの甘い香りの正体であるマカロンを放り込み、彼は私を抱き上げると船着き場に走った。
さっきまでの私なら、文句を並べてわめき散らしただろうけど、不思議にそんな気は起きなかった。
甘いマカロンがほどよく溶けながら、私の舌に遊ばれる。
彼の走る振動が私の体に伝わってくる。
毎日が同じことの繰り返しだった私にとって、これだけで刺激的だ。
「ねぇ、何で私なの?」
「さぁ、」
「ねぇ、何でマカロンをくれたの?」
「甘いもの好きそうだったから。それに、誰かに何かを作ってもらいたそうな顔してたから」
「ねぇ、名前は?」
「サンジ。お嬢さんは?」
「○○…。○○よ。」
「○○、俺の船長の胃は怪物なみだ。どんだけ作ったって足りやしない」
「作りがいがありそうね。」
「トナカイの獣医に、お調子者、変態大工に骸骨音楽家に方向音痴くそマリモ剣士がいる。」
「サンジさんは、剣士が嫌いなのね。」
「あと、2人美人がいる。」
「あら、妬いてしまいそう。」
「それは、困るな…」
風に引っ張られる髪。
塩の香りを含んだ空気。
「私、拐われるの嫌じゃないかも」
「困ったお嬢さんだ。」
近づく海に、胸が跳ねた。
マカロンマジック
「サンジ君、いつから私を見ていたの?」
「市場で横を通りすぎたときから」
「何それ。」
「人はそれを一目惚れと言う」
「サンジ君の一目惚れは、星の数と一緒でじゃない」
「○○の時は太陽並み」
「意味わからない…」
「唯一無二の一目惚れ」
「そんな一目惚れないでわよ」
お茶の時間、マカロンをお茶菓子にしながら、私たちは笑いあった。