ごめん。今日は帰れそうにない。
LINE画面に浮かぶ文字をみて、スマフォをソファーに投げ捨てた。
泣き笑い。
毎年、誕生日は二人で祝ってた。大学の時も、社会人になってからも。そりゃ、日にちがずれたりはするんだけど、練習とか試合の合間を見つけて二人で過ごしてきた。
「ドタキャンとか、初めてじゃん。楽しみにしてたのに…。明後日から京治合宿だし…」
今年の春から京治がプロとしてバレーに打ち込むため、今まで以上に会える時間が少なくなるんじゃないかと不安に思っていたから、よけいに今日会えないことが悲しい。
「はぁ、誕生日に一緒にいられなくて拗ねるなんて、子供みたいよね。」
テーブルに並べた食事も、冷蔵庫で冷えてる大好きなケーキもどうでもよく思えた。京治がいないなら、なに食べても変わらないもん。
「楽しみにしてたのにな。」
京治がいない。
京治と祝えない。
その現実がむしょうに悲しくて、涙が溢れてきた。
あーもうなんか、腹立たしい。京治が悪いのよ。試合の打ち上げ参加するのは別にいいけど、帰れないって何よ。どうせ酔っぱらいどもの面倒でもみてるんでしょ。私の面倒見に帰ってきてくれたっていいじゃない。
「京治のバカ。」
既読無視していたLINEに"了解。酔っぱらいどもに絡まれるなよー"と、心にもないことを書き込んで、またソファーに投げ捨てた。そのままふて寝をしようとカーペットに寝転がってうだうだしていたら、コツンと頭を叩かれた。
「けーじ?」
「まったく。こんなところで寝たら風邪引きますよ。」
「なんで、ここにいるの?酔っぱらいどもは?」
ガバッと起き上がると、会いたくて仕方なかった京治がコートを着たまま立っていた。
「少し驚かそうかと思って嘘をついてみたんですが、
まさか、泣かせるとは思わなかったよ。」
「だって、京治が私より酔っぱらいどもを優先したと思ったら、悲しくなったんだもん」
「あー、ほら泣かない。」
「年下の癖に生意気なのよー」
「年下に面倒みられてる人に言われたくないですよ。」
ぽろぽろと止まらない涙をハンカチで優しく京治は拭いてくれた。
あぁもう、ムカつくくらい優しくてカッコいいんだから。ムカつくな。
「なんで、嘘つくのよ。」
「たまには…と思ったんだけど、ちょっと後悔してる。」
「後悔して、反省しろ。バカ。」
「はいはい。」
私の横に静かに座った京治の肩に頭をあずけて、寂しかったのよ。と、抗議した。
「怒ってる?」
「怒ってない。帰ってきてくれて嬉しいだけ。」
「よかった…。
○○、誕生日おめでとう。」
「ありがとう、」
怒ってないと伝えると、京治は少し力を抜いた。
そのあと、ごそごそと鞄のかなかを探して、可愛らしい箱を引っ張り出した。あぁ、誕生日プレゼントだ。ちゃんと用意したくれたんだ…嬉しいな。幸せだな。
「これ、受け取ってくれる?」
「開けていい?」
「どうぞ。」
片手に収まる大きさの箱形のプレゼント。ラッピングは可愛らしいローズピンクで、振っても音はしなかった。一体なんだろう…。
「ねー、何くれたの?」
「開けたら分かるんじゃないですか?」
「そうだけどさ…」
私こういう…包み紙剥がすの苦手…。せっかくもらったし綺麗に開けたいんだけど、な。
「あーけて?」
「どうして、そんなに不器用なんですか」
「京治が器用だからいいの。」
京治の手元をワクワクしながら見つめた。去年は、仕事でも使えるようにって万年筆で、一昨年は私が欲しがってたネックレスだったな。今年はなんなんだろうと、箱を覗いて、驚きのあまり涙が溢れた。
「俺も、今年から社会人になります。」
「うん。」
「なので、その…落ち着いたら、結婚してくれますか?」
箱の中で輝く指輪。
なんのサプライズよ。意味わからない。嬉しすぎて、頭が回らない。
「○○、返事は?」
「嬉しすぎて、なんかもうわからないよ。
」
と、泣き笑いした。
(京治、ありがとう。)
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赤葦君は、とても良い子だと思います。