聞いて欲しいことがあります。

私の旦那さんについてです。

彼は、一言で言うなら王子様。柔和な笑顔が似合う爽やかな王子様です。

まっ、外見だけだけどね。

何で外見だけかって?

実はね、中身が中身なんですよ。

彼のテニス仲間の赤也君に「彼、中学時代どんなだったの?」と聞いたら、凄く強かったとか、かっこ良かったとか、絶賛した後、顔を真っ青にして、怒らせたり機嫌悪くさせると『魔王』になったと言っていたし、

丸井君や仁王君に「彼はどんな部長だったの?」と聞けば、暴君と返ってきた。(いったい、彼はテニス部で何をしていたんだ?)

話から分かると思いますが、
つまりは彼の中身は素晴らしいほどの真っ黒なんです。外見の白さが霞んじゃうくらい中身真っ黒なんです。暴君なんです。


まぁ、だからといって彼が嫌いとかそう言ったことはないんだけど、やっぱりやられっぱなしって納得いかないの。

だから、お昼にいきなりカレーが食べたいとメールがあったけど無視して、今日の夕飯は予定通りハンバーグを作ることにします。精市がどんなに圧力をかけてこようが、予定外のカレーは作りません。

小さすぎることだけど、私もちゃんと逆らうんだってこと、我が儘なんでも聞いてやると思うなよ…と知らしめてやるんだから。


決意を込めて右手で胸の前でグーを作った。





暴君に逆らう





「ただいま。あれ、メール見なかったの?」
「えっ、おかえりなさい?」


あれ、早くない?

いつもよりちょっと早めに旦那様がご帰宅なされ、冷や汗が流れ始めた。だってだって、焼いてしまえばこっちのものだ!!と考えていたのに私の手はハンバーグのタネを現在進行形でこねているんだもの、なんかすでに負けた気がしてなら無い。


「めっ、メール?見たけどもう材料買っちゃってたから…ハンバーグ作っちゃった。」
「俺、カレーの材料揃ってることも、ハンバーグ用肉の賞味期限明日な事も知っててメールしたんだけどな。」
「そんなの知らないもん。」
「君が買ってきた食材なのに、君は忘れて僕が賞味期限知ってるっておかしいよね?バカなの?」


なにもそこまで言わなくていいじゃないか。そもそも冷蔵庫の中身いつ確認したの?カレーのルーがあることなんで知ってるの?

じゃあ、カレーのルーの横に隠していた私のプレミアムチョコが行方不明になったのは精市のせいだったの?なに、「まったく俺に隠し事とか生意気だな」とか言いつつ食べたのか?探しまくった1時間返せよ!!


「でもさ、ハンバーグ作っちゃったからカレー明日でいいでしょ?」
「俺はカレーが食べたいの。」
「でも、」
「ハンバーグこそ冷凍して明日とかにまわせばいいだろ?待っててやるからカレー作ってよ」
「やだ…」


余りに横暴な用件にさすがの私も怒った。こうなりゃ絶対、絶対作ってやらない!


「なに?俺に逆らうの。」
「逆らうの。」


唇を固く閉ざして、頬を少し膨らませ、私今怒ってます!!をアピールしてみたら、スッゴいあきれた顔の精市がドアップで現れた。
その顔を見ていたら、なんか私がいけないことしているみたいで、なんともモヤモヤした気持ちが膨れだす。絶対服従の笑みよりも、潰されそうな威圧感よりも、私これ苦手…。


「もう、せっかくプレミアムチョコ買ってきたのに…こんな悪い子にあげるのは勿体無いから俺一人で食べちゃおう」


劣勢になってきた私に追い討ちをかけるように一箱1500円するプレミアムチョコの箱を私の目の前にだしてすっごく楽しそうに笑う精市様に私はとうとう白旗を振った。くそぅ、後で柳君と真田君にチクってやる。何にもならないけど。


「わかったよ、作るから私にもチョコ頂戴…」
「ほら、食後にちゃんとあげるから泣かないの。まったく意固地なんだから…」


意固地はどっちだバカ野郎!!口が割けても精市に言えないから心の中で悪態をつきまくってやる。畜生、カレー私好みの甘くち寄りにするんだから!!


「あっ、あんまりカレー甘くするなよ」


畜生、お見通しか!!










「はい、遅くなったけどできました。」


しぶしぶいつも通りの味付けで作ったカレーに、精市は本日初めての満足そうな笑顔を見せた。


「ハンバーグカレーにするとは思わなかったよ。」


小さなサイズのハンバーグがちょこんと乗ったお皿を楽しそうに見る今の彼に先程の真っ黒オーラは無く、凄く優しいオーラがあふれでている。


「ダメだった?」
「いいや、素敵な発想だと思うよ。」


その言葉にホッとして、食卓についた私は、
目を離したちょこっとの間に起きた変化に目をパチパチとさせた。


「精市?」
「前外食したときに言ってただろ?お子さまライスに付いてる旗が可愛いって。」
「うん、言ったよ。覚えててわざわざ買ってきてくれたの?」


小さなハンバーグに刺さった星が散らばる旗。それは、何気なく私が可愛いって言ったものと酷似してる。

「たまたま昼休み寄った先で発見したんだ。」
「だから、今晩カレーにしろって言ったの?」
「それ以外に理由ある?」
「無いです。」


なんだか、意固地になってた私がバカみたい。
仕方なく、人の良さそうな笑顔を浮かべる精市に「ありがとう。」と素直に言えば、当たり前だと返ってきた。きっと、私が喜ばなかったら「俺がわざわざ…」とか言って拗ねただろう。そんなことを考えたら、精市を許してやる気になってきた。


「冷めちゃうからそろそろ食べようよ。」
「とか言いつつ、デザートのチョコが待ち遠しいんだろ?」
「それもあるけど…」
「ふふ、意地悪しすぎたねゴメン。」
「うん。」


食べる前に旗付きハンバーグカレーを写真に収め、あとで赤也君に送って自慢しようなんて考える。


「赤也に送るのかい?」
「ん。」
「きっとどこで買ったか聞いてくるよ。」
「精市が買ってきてくれたって自慢するの。」
「たまには可愛いこと言うんだな」
「精市の奥さんだからね」
「意味不明だね」
「笑顔で言わないで。傷つくから、一応」


下らないことを話ながら食べる食事は美味しくて、精市が美味いと言う度にどんどん幸せになる。


「ふぅ、」
「どうしたんだ、いきなり」「なんか、精市に振り回されてるから今日こそは逆らってやろうと思ったんだけどね、」
「それで、」
「精市の無茶ぶりは正直ムカつくけどさ、何だかんだで私を喜ばせるためなのかって思えてきたの。」
「ムカつくけどデコピンで許してあげる」
「ありがとう。でもさ、精市だって我が儘の理由教えてくれたってよくない?」
「えっ?嫌だよそんなの。つまらないじゃないか」
「…さいですか。」


デコピンを食らって赤くなったろうオデコを右手でさすりながら、暴君精市には一生敵わないやと諦めた。






(ねぇねぇ、精市。私のプレミアムチョコ食べたの精市だよね?)
(残念ながら外れだよ。)
(はっ?)
(見つけたのは俺だけど、食べたのはこの前遊びに来たブン太だからね。)
(うわぁ、こんど丸井君遊びに来るときいっぱいお菓子買ってきてもらわないと。)






…あとがき……

この小説は、彼と私は家族です。様に提出した作品です。



実はこれが幸村君初書きな小豆です。
きっと親しい人には辛辣な口調なんだろうな。とか、我が儘の裏には優しさがあるんだろうな…とか妄想詰め込んだ作品になってます。

少々無理矢理感が感じられますが、小豆的には魔王様で暴君な幸村君を書けて楽しかったです。

そして、素敵なお題を提供してくださった"彼と私は家族です。"様に感謝いっぱいです。また、機会がありましたら、参加させてください。失礼します。


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