闇だ。

     
暗い真っ暗な闇に溶け込んでしまったようにその少年は、存在した。
今まで感じたことのない恐怖に、私はただただ震え、素人のように背中を敵に向けて逃げた。



     危険な行為。



そうは思ったが、その少年を直視する事の方が恐ろしかった。





この一ヶ月、一日に何度見たのだろう…端正な顔立ちに歪んだ光を帯びる両眼。日の光に浴びてないのか青白い肌。いつも暗い所から私を監視する彼に、私は恐怖以外の何も覚えない。


今も、恐怖で押し潰されてしまいそうだ。





「なんで逃げるの?見つけたのに…」




何百回も聞いたその言葉は、呪詛のようにいつでも私の頭に響いてる。狂ってしまいそうなほど、その言葉は私の中で常に渦巻いている。





「いや…」





無我夢中で走る私はけして足が遅い部類には入らない。仕事柄、身を守る力は備えてる。だが、この少年の前に立つと恐怖で体は言うことを聞かない。逃げる以外に何もできない。





走る私は少年がどのくらい近づいてきているか分からなかったが、いきなり肩を捕まえた事から、あぁ、追い付かれたと判断し、身体中に震えが走った。





なおも逃れようとそう思ったとき、背中に激痛が走った。





そして、私の意識は恥ずかしながらそこで途切れた。






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