「痛いよ。」
「うん。」


ギュッと握られた右手が痛い痛いと悲鳴をあげてる。
血の通いが悪いみたいで、真っ青になっていく。

なのに、士郎は知らんぷりして私の手を握る。どんどん力を強めながら。


「士郎、私はどこにもいかないよ。いかないから、手を離して?」


痛いの、凄い痛いのよ。骨がミシミシいうんだもの、凄く痛いの。なのに、なんで無視するの?なんでそんなに幸せそうなの?


「離したら、いなくなっちゃうでしょ?こうやって握っていれば離れない。」





怖がりでさみしがりな彼




大切な兄弟を目の前で失ったからか、彼は時おり異様なまでに怖がりになる。特に雪の降る夜は不安になるのか、私を自分の傍から全く離そうとしない。何も言わずにコンビニに出掛けたときなんて、帰ってきた瞬間骨が折れそうなくらい強く強く抱き締められた。あまりに強いものだから肺が圧迫されてすごく苦しかった。でも、彼はそんなことお構いなしで、ただただ私に 置いていかないで と言い続けそのうち安心したのか寝てしまった。


今日もそんな感じに終わるだろう。
一時間前の私はそんな軽い気持ちで、コンビニに出掛けた。缶酎ハイとおでんをただ買って帰るだけの簡単なこと。のはずだったのに、何でこうなったんだろう。



なんで?なんで置いていくの?



帰ってくるなり嗚咽と共に吐き出された言葉。 士郎を置いていくわけないでしょ? と、音を出そうとした私の口は塞がれ、押し倒された私は背中から床に落ちた。
その衝撃で一瞬思考は止まったけれどもなんとか意識を失わず彼を見ると、泣きながら私の首に手を置いた。

床に落ちたビニール袋からこぼれるおでんの汁が床にシミを付けてしまわないかと頭の端で考えながら、私は体にのし掛かる重みにたえる。

きっと士郎は混乱しているのだろう。自分が何をしているか分かってないのだろう。彼はいつも苦しんで悲しんでいる。どんなに近くに居てあげても彼を満たしてはやれない。

そうなのだ。私は彼を満たしてあげられない。いつかいなくなるのではないかと言う不安付きまとい、彼は安らぐことを知らない。ならば、いっそのことすべてを終わらせてしまおうか。このまま、このまま。



「なまえ、怖いよ。また置いてかれちゃうんじゃないかって、すごく、すごく。」



大人の男の癖に泣きじゃくる士郎に私は彼の頭を優しく撫でた。
ソノアト力を込められていない彼の手にそっと冷えたてを添えてやると、士郎はそのままの格好で顔だけ私にちかづけてきた。そんな彼を抱き寄せながら私は小さな声で


「ねぇ士郎。いっそ、二人で死んじゃおうか。」


と、囁いた。
最初私の言葉に驚いた顔を見せた士郎だったが、そのうち優しく微笑んでみせた。

ずっと一緒だよ?
ずっと一緒よ。


目と目で会話をした後、私は彼への愛を狂気に変えた。この世であなたが幸せになれないなら、二人で遠くにいきましょう。そして、安心できる世界で一緒になりましょう。


「すぐ。私も往くからね。」



私は腕を伸ばして士郎の首に絡め、半回転し彼の背中を床につけた。そして、笑う彼の白い首に手をかけ、頸動脈洞を強く圧迫した。

どこかほっとしたような顔の士郎が動かなくなるのを見届けた後、

お休み。

と一言かけまだ温かいおでんを流しに捨て雑巾で床を拭き士郎をリビングへと運んだ。

彼のお気に入りのふかふかのカーペットの上で、私は士郎に膝枕をしてあげながら、お気に入りの缶酎ハイで彼用に処方された大量の睡眠薬を飲んだ。



今行くね。


霞む思考の中満たされる幸せに酔いしれた。






……後書き……


瑠奈様かなりお久しぶりになりますね。青空の下で の拍手ありがとうございました。
遅くなりましたが今回は、他者依存型 愛情独占型 のヤンデレで書かせていただきました。
死ねたに近くなっちゃいましたが、流血シーンはなしにして、世界で君だけは、君だけは僕のそばから離れないでくれ。と強く思ってしまうあまり、何も言わずにいなくなったヒロインに対してとても不安に駆られる吹雪君のお話です。

本当に長らくお待たせしまして申し訳ありませんでした。


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bkm
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