※性転換、謎のパロディ




 目の前で真っ赤な絹糸が踊った。日常ではなかなかお目にかかれない純粋な赤髪だ。髪や衣服がバタバタとはためく音がやけにうるさい。

「なんの魔力もない平々凡々な子どもじゃないか。ぬかったな」

 冷静に、静かに、無表情に、彼女は言った。ビュンビュンとまるで喚くような風の音の中、その声はひどくハッキリと彼の耳に届いた。

「しかし――、なるほど、その眼はおもしろい。他人の能力値を測るスカウターになっているのか。このまま死なすには少々奇異だな」

 その美しき赤髪の少女は、彼と同じように宙を舞いながら、空に足を向けながら、重力に従って落ちながら、互い違いの色をした瞳に強い光を宿した。

「選べ、相田 リト。今ここで死ぬか、私の玩具となってその血肉を捧げるか」




 悪い夢から覚める時のように、相田 リトはハッと意識を取り戻した。全身がガクリと震える強烈な覚醒で、目覚めた後も体は不自然に強張っている。額や背中に冷たい汗をかいており、ゾクゾクと皮膚が粟立った。突然、肉食獣の住む暗闇へ投げ出されたような恐怖と不安が駆け巡る。

 ――なんだこのかんじ。

 起き抜けの頭が混乱していると、視界の端からぬうっと覗き込む顔があった。

「おはよう」

 鈴を転がすように清らかなのに、一度聞いたら二度と忘れられないようなねっとりとした甘い声だった。

「気分はどうだい?」

 数センチの距離にまで近付いて、彼女は訊いた。まっすぐな長い髪が、彼の頬をさらさらとくすぐった。

「僕……なにを」

 普通に出したはずの声は、だいぶしゃがれて掠れていた。舌が喉にはりついたように、うまく呂律が回らない。やけに口の中が乾いていた。

 少女が絵画のようになめらかな笑みを浮かべる。ひどく、嘘っぽい。

「覚えていないのか? 君は一度死んだんだ」

 ザッと、右から左へ抜けるように映像が駆け巡った。ビルの窓ガラスに反射する街のネオン。一瞬だけ、真ん丸な月を視界に入れた気もする。ジェットコースターなど比ではない、圧倒的な落下感。縋るものがなにもない、驚くほどの不安定。ただ、落ちているのだ、とは認識できた。だというのに、浮かぶ言葉は「マジか。嘘だろ」と、自分でも笑えるほどのあっけなさだ。そういうものなのかもしれない。

 相田 リトは、誠凛高校二学年に通う17歳の少年である。身長160cm、体重55kg。高校生男子としてはかなり小柄なほうに分類される。それは彼のコンプレックスなので、軽はずみに口に出してはいけない。

 学力を言うなら、学年で3位以内に入る程度。その優等生ぶりが買われて、二年生ながら生徒会副会長という役職を任されている。

 部活内では「カントク」と呼ばれている。あだ名ではない。彼は正真正銘、誠凛高校女子バスケットボール部の“監督”を勤めている。選手を鍛え、教え、諭し、導き、勝たせるという立場に就いている。その結果を述べるならば、先の全国大会でチームを優勝させるに至った手腕である。最初は、小柄な体躯――しかも男子学生で女子部の監督をしているというリトを、嘲笑の目で見る者も多くいた。それが今や、大柄な女子たちを率いて先陣を切る身長160cmの少年に、うっとりと熱を上げる女さえいる始末である。

 そう――彼は外見こそ少しばかり冴えないが、持ち前のスペックたるや、それだけで数多の女性の好意を集めてしまうほどのハイっぷりだ。彼自身は色恋沙汰にはさっぱり無頓着なので、言い寄る女子を悪気なく一刀両断している。本人の言によると、「彼女はほしいと思うけど、今は部活が一番大事だからなぁ」とのこと。これには、バスケ部員たちがじーんと胸を熱くしたものだ。だが、その後にすぐさまリトは目をギラリと光らせて、

「……というわけで、愛しい愛しいバスケ馬鹿たちよ。さあ、走れ! 打て! 飛べ! 練習中に無駄話してんな!」

 と、モードを一気に監督に変えて激を飛ばした。部員たちも、ひとたびボールを持てば目の色を変える。飛び交う怒号のような声と、ボールが激しく床を叩く音、バッシュが地面を踏みしめる音、そしてリトの指示。すべてが混じり合い、体育館は春先とは思えない強烈な熱気に包まれた。

 そんな、いつものように白熱した部活の帰り道のことだった。


 相田 リトは帰路を急いでいた。部活終了の時刻も遅かったが、その後に部員たちの新しい個別メニューを練っていたことが遅い帰宅に拍車をかけた。いつも部員たちにいきすぎた自主練は禁物だと説いているのに、自分もあまり人のことを言えない。けれど、自分はまだ動いているわけではないからいいのだ、と言い聞かせている。指示をしているだけの自分と違って、彼女たちの運動量は熾烈を極めているし、根の詰め方も尋常ではない。目先に練習試合がひかえているからなのだが、まさに全員が烈火のごとく燃えたぎっている。やる気があるのはよいが、やりすぎは体を滅ぼす種になりかねない。特にリトの部員たちにはバスケ馬鹿が多いのだ。怒鳴るくらいしないとボールを離さない。そのたびに彼は、自分より身長の高い女子たちを懇々と叱りつけるはめになる。

(アスリートは体が資本。壊しちゃ元も子もないからな)

 そう、何度も部員たちに告げた台詞を脳内でも反芻しながら、彼は暗い道を歩いていた。自らにも言い聞かせておかなければ、つい彼女たちの熱意に負けて時間を伸ばしてしまいかねない。体を大事にというのももちろんだが、なにより彼は、女子の帰宅時間が遅くなることに懸念していた。夜道は危ない。どこに妙な輩がいるか知れない。かわいい部員たちを危険な目に遭わせるのだけは絶対に避けなければならない。そんなリトの心配も、彼女たちはわかっているはずなのに。

(ほんと、バスケが好きなんだよなぁ、アイツら。まあ、僕も人のことは言えないけど)

 ふぅと嘆息しながら苦笑して、集団下校をさらに徹底させなくては、などと考えつつ、リトは空を見上げた。


 異質な光景が見えた。


 リトは一瞬、状況に思考がついていけなかった。異変が起きていることはわかるのに、頭が理解をできない。

 視線を上げた先、見慣れた景色、寂れた雑居ビルのひとつ。その屋上。手すりよりも下界に近い端っこに、少女が一人立っていた。

 リトはドサリと鞄を落とした。数秒間、その光景に目を奪われる。少女の長い髪が風に舞い、月明かりに照らされていた。抜けるように赤い。非現実的だ。しかし、風に揺らされるということは、幽霊や幻覚などの類ではない。実体だ。夢ではない。これは夢ではない。そう実感した瞬間、ゾワッと背中に悪寒が走った。

 落とした鞄もそのままに、リトは走り出していた。ビルの横に付いた非常階段を二段飛ばしに駆け上がる。早く早く早く。急げ急げ急げ。出来うるかぎりのスピードで、鉄製の階段を登っていく。カンカンと音を立て、緊張と混乱でゼェゼェと息を上げ、踊り場で足をもつれさせながら、彼は必死に屋上へと走った。

 屋根がなくなる。転げるように、屋上へ出た。ビュウと横殴りの風に煽られてぐらりとふらつく。頭を左右に振ってこらえながら、顔を上げた。

 ――やはり、先ほど見た位置から寸分違わず、少女が立っていた。星明かりすら霞むネオンに照らされて、こちらに背を向け立っていた。夜の闇の中、その作り物めいた赤髪が踊る。ビルの隙間を抜ける強風をもろともせず、その身は凛と起立している。なのに、今にもバラバラと崩れてしまいそうなほど朧気だった。細すぎる肢体がそう思わせるのかもしれない。

 弾かれるように、リトは地を蹴った。少しでも早く少女の元へ行けるように、最大限に足を伸ばして大股に駆ける。小さな体躯を、彼は今までで一番悔いた。

 足音を聞いてか、少女が小さく首だけで振り返った。浮き世離れした、真っ白な肌の少女だった。一瞬、時が止まる。風になぶられる赤髪が夜空に散るさま、その中心で宝石のように鎮座する紅と橙の瞳。静謐としているのに、彼女の目は何者にも支配されない確固とした強さを持っていた。

 ――自殺をしようとする人間の目とは思えない――

 しかし、リトのそんな刹那の思考をぶった切るように、少女はゆっくりとその身を前へ倒した。後ろへ流れていく艶やかな髪、閉じられる宝石のような瞳、ネオンに照らされてひときわ輝くその全身。

 うわっ、と飛び上がるのが早かった。そして、リトは半ば飛びつくように少女の腕へ手を伸ばした。手すりのこっち側から、あっち側の彼女へ。奇跡的に、彼の掌は彼女の細腕をつかんだ。しかし――

「う、あ、あっ」

 こんなスレンダーな少女の体でも、重力が伴うと計り知れない重みになる。小柄なリトでは、その圧倒的な力に逆らうことができなかった。

 少女の足が完全に地面とさよならした。ガクンと、いきなり経験したこともないような圧力がリトの腕を襲った。必死に反対の手も出してみるが時すでに遅し。リトの足もふわりふわりと地面から浮く。ジタバタと、なんとか床の接ぎ目にでも引っかけようと試みるが、まるで氷の上のようにツルツルと滑る。そうするうちに、勢いづいた体が手すりにめり込んだ。衝撃をすべて受け止めた腹と胸が鈍い音を立てる。瞬間、痛みと呼吸停止に意識が途切れた。

 リトの体は荷物のように手すりの外へ引っ張られ、ぽいっと下界へ放り出された。あっという間の出来事だった。

 体が宙に浮く。浮遊している。だが、決して上昇することはない。下降の一途をたどるばかりだ。下から吹き付ける風――いや、常ならばただの空気なのだろう――が、リトの全身をくまなく叩く。

 落ちている。自分は今、はるか先の地面へ落ちているのだ。先と行っても、そう高いビルでもない。確か5、6階くらいしかなかった。ならば、この滞空時間も、そう長くはあるまい。その後は――その後は?

 死 ぬ のか

 リトはようやく、はっきりと意識した。このままいくと、自分は地面に叩き付けられて死ぬのだと。

 嘘だろ? 本当に? こんなあっさり?

 しかし、事は現実で、リトにこの状況を打開する方法はない。彼はただの高校生で、魔法使いでもなければアクション映画のスタントマンでもない。落下していく運命を回避する手段など持ち得ていない。彼は全身の血がぞうっと引いていくのを感じた。

 ああ、自分はこんなところで死ぬのか。家族にも、友達にも、部活のみんなにも、さよならひとつ言えないまま。

 恐怖の後は、急に悲しみが込み上げてきた。こんなふうにお別れもできないまま、いきなり死んでしまうなんて。そりゃあ、まさか自分だって今日こんなふうに死ぬなんて想像もしていなかった。けど、せめて心の準備くらいさせてくれたって。

 死というのはそういうものなのだと、リトは初めて理解した。不可避で突然で一瞬で簡単。人が死ぬことは、こんなにもあっけないことなのだ。

 唯一の救いは人助けをして死ねたことだろうか。一緒に落ちてしまっては、助けたとはとても言い難いが。そう思えば、すこしは気も晴れる。名も知らぬ少女。救うこともかなわなかったけれど、たった一人で死なせることにはならなかった。もしも自分がここで見て見ぬふりをしていたら、おそらくあの冷たいコンクリートの上にあるのは、グチャグチャの彼女だけだったのだろう。生前の美しさも知らぬまま、崩れた肉塊だけを見ることになったのだろう。そうならなかったから、まだ後味は悪くないかもしれない。ただの強がりだということは彼自身理解していたが、仕方がない。意地っ張りは性分だ。

 それにしても、はからずも心中のかたちになってしまったこの少女は、どうして自ら命を絶とうとしたのだろう。まだ若くてこんなに綺麗なのだから、きっとこの先いくらでも生きようはあっただろうに。それほど辛いことがあったのだろうか。大切な人に先立たれたのだろうか。学校でいじめられたのだろうか。家庭内で問題が起こったのだろうか。それとも、最近の若者にありがちな「なんとなく」というやつなんだろうか。最後のだったら嫌だなぁ、とリトは考える。自分の命を投げ打った相手の死ぬ理由がそんなものだったら、なんだか死に損だなぁと。彼らしくもなく、とてもネガティブな思考だ。けれど、これほどネガティブな状況もないだろうから、最期くらいいいかもしれない。

 ようやく地面が近付いてきた。なんだ、死ぬにはこんなに時間がかかるのか。こんなにあれこれ考えていたのにまだ到着しないぞ。そう思って、はたと気付いた。これが噂に聞く走馬灯かと。死の間際にすさまじいスピードで脳内を駆け巡る追憶。走馬灯というにはすこし内容がずれている気がするが、似たようなものだろう。今までの思い出を巡るには、自分には良い記憶が多すぎる。見て回っている時間がないのだ。

 リトはとうとう諦めて目を閉じた。諦めないのが売りの自分のこんな姿、部員たちには見られたくないなぁと思いながら。

 あぁ、寂しいなぁ。もう一度だけでいいから、みんなとバスケ したか った な ……


「なんの魔力もない平々凡々な子どもじゃないか。ぬかったな」

 突如、彼の耳に声が届いた。えっ、と思い、目を開ける。真正面。向かい合う、赤髪の少女。自分と同じように頭が下で足が上になっているのに、ちらっとも動揺した素振りがない。作り物めいた白い顔。えらく無表情だ。赤と橙の瞳だけが、爛々とほの暗い輝きを放っていた。普通ならばカラーコンタクトの類だろうと思うのに、何故だろうか。彼女のそれは、そんな俗物的雰囲気をすこしも出していなかった。この世に産まれた時からその色をしていて、そうなるために産まれてきたようだった。吸い込まれるような、鮮やかな瞳だった。

 少女は落ち着いた厳かな声で、まっすぐにリトへと言葉を投げた。

「選べ、相田 リト。今ここで死ぬか、私の玩具となってその血肉を捧げるか」



 ハッと、再びリトは大きく震えた。あらゆる衝撃で頭の中がぐらりと揺れる。

 ――ここはどこだ? 周りを見渡す。

 ――さっきと同じ、屋上にいる。

「……おい」

 声を震わせながら、リトは額に手を当てた。

「どうなってるんだ……? 僕とキミはついさっき、この屋上から落ちて死んだはずじゃなかったのか?」

 ――そうだ。自分は一度、このビルの屋上から落ちた。そして死を覚悟し、固い地面に叩き付けられるはずだった。それなのに、こうして生きている。冷たいコンクリートも、ネオンのせいで薄明るい夜空も、街の喧騒も、なにひとつ変わったところがない。まるで先ほどのことは夢だったのかと錯覚するほどに。

「僕は夢でも見てたのか? それとも、すでにここは死後の世界だとでも言うのか?」

 だとしたら大発見だ。死んだ後に行く場所が、美しい花々咲き乱れる天国でも、血の池や針山になぶられる地獄でもなく、こんなありふれた日常の景色だなんて。

 混乱しつつ面を上げると、少女の白い顔が目に入った。状況に不釣り合いなほど、静かな微笑をたたえている。そのアンバランスさに、リトはゾクリと寒いものが走るのを感じた。

 少女の細い指先が、音もなくリトの首筋に伸びる。肩を震わせただけで、リトはそれを受け入れた。縫い付けられたように、身動きがとれなかった。

 彼女の手は、まるで氷のように冷たい。そっと、壊れ物に触るように、リトの首を撫でる。心なしか、愛おしげに目を細めていた。

「死後の世界なんかじゃないさ。無論、夢でもない。これは現実だよ、リト。言っただろう? 今ここで死ぬか、私の玩具となってその身を捧げるか。そして君は選んだじゃないか。『死にたくない』と――」

 ね? とその瞳が語りかける。けれど、リトにはうまく記憶を繋げることができない。確かにその台詞を聞いた覚えはあるが、そこから先のことはすっかり闇に包まれて、ひとかけらも思い出せない。てっきりその後は、地面に叩き付けられて頭を柘榴にしていたものかと思ったのに。

 リトの表情から困惑を読み取ったのだろう。彼女はことさらニッコリと笑った。

「まあ、得てして人間の記憶というのはアテにならないものだ。仮に君が覚えていたとしても、そらとぼけない可能性などどこにもない。そのための契約だ」

「契約……?」

「そう。契約だよ、リト。君は私と血の契約を交わしたんだ」

 少女の顔がずいと近付いた。膝を付いたリトを、赤と橙の瞳が上から覗き込む。きめ細かな肌、白く、どこか青くも映る不健康な色。それを覆うように流れる赤髪は、対比効果でチカチカと目に眩い。大量に噴き出した血液のような、そんな危険性を孕んでいる。するりとリトの頬に手をかけて、少女はその掌を彼の首元に滑らせた。ゾクリと、リトの背に鳥肌が立つ。少女の目線はリトに合わされ、しかしリトを見てはいない。ねっとりとした視線を感じるのは、リト自身より、彼女の撫でている首筋にだった。形のよい唇が、どこか淫猥に蠢く。

「人を生かすもの、人の命たるもの。なくなっては生きていけないもの。操られたらすべてを奪われるもの。それはその心臓……そこから送り出される、あまやかな雫。どんなワインより芳醇なジュース。――君は捧げたのさ。君が人であるために一番大切な、命の源をね」

 吐息を吹き込むように、彼女はリトの耳元で囁く。首筋を撫で上げていた手が鎖骨をたどり、輪郭に沿って左胸へ下りた。この時リトは初めて、いまだ心臓がしっかりと鼓動を打っていることに気付いた。少女の掌が胸の上で止まる。全身を這う悪寒は、その淫靡さゆえの羞恥か興奮か、または純然たる恐怖か。

「相田 リト。ここに血呪(けつじゅ)の完成を誓おう。君はこの私が完全に支配した。今からお前は私のものだ」

 躊躇いもなく寄った美貌の面立ちが、リトの首元へ埋まる。首筋へ感じる柔らかな感触はまさか彼女の唇か。恥じ入るのもつかの間、先ほどまでとは比べ物にならないほど心臓が強く脈打った。すでに鼓動したというよりは、無理矢理ポンプを押されているというかんじだ。AEDでも当てられているのではないかと錯覚するほどだった。キィンと高い耳鳴りがして、視界が急にクリアになる。瞳孔が開くように、眼球が圧迫される。身じろぎすることすらできないまま、彼は自然に口を開いた。

「――はい、我が主(マスター)」

 自分の口から出た言葉に、リトはハッと我に返った。力任せに腕を振りかぶり、彼女へと放つ。ひらりと、少女は舞うように距離をとった。くるりとターンして、踵を揃える。彼女の履いたヒールが、カツッと高い音を立てた。

 リトは息を乱していた。おそらく今、自分に理解できないことが起こっている。それだけはわかった。いきなり見知らぬ異世界に連れてこられたような“ズレ”が、彼の平常心を奪う。

「なん、なんだよ、お前……ふざけるのもたいがいにしろよ! わけわかんねぇよ! イタズラにしちゃ度が過ぎてるだろ。こっちはお前みたいなのの妄言に付き合ってるほど暇じゃ――」

 リトの言葉はそこで途切れた。彼の視線が、相手の動きに従ってゆっくりと上に行く。唖然と口を開けたまま、リトは固まった。目の前で起きていることが信じられなかった。この世界はどうしてしまったというのだ。ついさっきまで見知ったいつもの毎日だったのに、いつからこんなおかしなことになってしまったんだ。

 ―― 人 が 空 を 飛 ぶ な ん て ――

 ぶわりと風が舞う。少女の背からにょっきりと生える、コウモリ、もしくは悪魔のそれに似た、なめらかでまがまがしい黒い羽。夜の闇と白く濁った月をバックに、それはひどく非現実的に羽ばたいた。足元に散らばるカラスのような羽根だけが、今わかる唯一の現実だった。

「なんなんだよ……お前……」

 震える口が、脳より先に言葉を紡いだ。頭が働かない。体に備わった最低限の本能のみが、現在の彼を動かしている。

 少女は、この場に不似合いなほど静かな面持ちで、そっと息を吐いた。

「何年、何百年経ようと、古今東西、人間が私を見て浮かべる表情は、皆同じだな」

 ガッカリしたような、退屈そうな顔をしている。自分とのあまりの温度差に、リトはそれ以上言い募る意欲をなくした。

「では改めて自己紹介をしよう。私はヴァンパイア。君たちが“吸血鬼”と呼び、恐れる、ひどく時代遅れな不死身の化け物さ」




――――――――――――


飽きた。

そんなかんじの吸血鬼パロディでした。怪物王女なのかロザリオとヴァンパイアなのか、よくわからない謎パロ。
赤司さんは下僕捕まえるために自殺未遂かましてリトくんのような好青年を釣ったのです。実は吸血はまだしてなくて仮契約だったりとか。
「そうだな。――アカシ、とでも呼べ。いつかに呼ばれていた名だ」という台詞がこの後たぶんきます(笑)

んで、哀れアカシの下僕になったリトくんは半不死身になって、実は狼女だったりする火神♀とか淫魔黄瀬♀とかとバトルんじゃないでしょうか。誠凛女子バスケ部は実はみんな怪物だったりとかね。で、アカシさんが誠凛に転校してきて「リトとは将来を誓った仲だ」とか言って、みんなカントクのことを心配して(あと契約のことも気付いて)アカシを殺しに行くんじゃないでしょうか。で、盾にされるリトくん。

とゆーラノベ的な展開ですけど、自分的には結構血で血を洗うグロ描写も混じったR-18ゲームみたいなのでもいいなぁとか思います。
なんせ『悠久のcadenza』(※元ネタR-18につき注意!)聴きながら考えたのでそんなんばっかなんです。




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