♂リコ(リト)×♀火神です。
黒バスキャラが全員性転換・女子バスケ部を題材にした二次創作、ということになっております。ご注意ください。




「理想もなにもかも、この手に得るのは至難の技だよ」

 相田 リトは、そうっと手を持ち上げる。かすかな衣擦れの音だけを連れて、彼の指は火神 大我の目元に触れた。下睫毛をかすめて、零れていた火神の涙をすくう。

 火神は、女子の中でも特別に高身長である。一年生ながらにして、誠凛高校女子バスケットボール部のエースと言える彼女の身長は182cm。対して、同じ高校生ながら、誠凛高校女子バスケットボール部の監督を担うリトの身長は160cm。火神の涙をぬぐうリトは、精一杯の背伸びをして彼女に手を伸ばしている。男女が逆転すればそこそこ理想的に見える身長差だが、残念ながらリトは間違いなく男で、火神は間違いなく女だった。

 けれど、どれほど体格に恵まれていなかろうが、我らが相田 リト監督の懐は誰よりも大きい。愛らしく背伸びをする様や、自然と上目遣いになるその目線を見ても、今の火神には「小さい」とは思えない。

「でもキミには、それを得るための力がある。実力がある。根性がある。そのことは僕がよく知っているし、だれよりもキミ自身がよく知っていることだろ」

 リトの視線は、いつでもしっかりと相手を見据える。まっすぐに逸らさない。また、そこにひとつの濁りも邪気も混ざっていないから、どれだけ見つめられても居心地の悪さは感じない。浄化されるような安心感があるだけだ。

 そして、火神もその部類だった。ド正直で一本気、好きなものを真っ向から好きだと宣言する気持ちよさ。だからこそ、敗北の悔しさも怒りも、微塵も隠すことがない。それは涙も同じことだ。“女の武器”とは到底言えない、涙も鼻水も遠慮なく垂れ流す素の泣き顔。ボロボロと泣きじゃくる姿は、正直な彼女の無念の叫びだった。

「でもカントク……負けちゃった。負けちゃったよ」

「うん、そうだな」

 火神はズビッと音を立てて鼻をすする。

「悔しい。悔しい、カントク。あたし悔しい。自分に腹が立つ。なんで、なんで勝てなかったんだ。なんでなんだ」

「それをこれから考えるんだ。キミと――そして僕もね」

 隠すことなく号泣する火神に、リトは言った。自分の顔がひどく痛ましげなものになっていることに気付いた。火神のログアウトした敬語も正しい日本語も、今は知ったことではない。そんなものは今必要ない。

「泣いてもいい。その涙はきっと無駄にはならない。させるもんか。キミが泣いてまで勝ちたいと言う、その気持ちを、僕は絶対に汲んでみせる」

 ふいに、盛大に歪んでいた火神の表情が呆けた。頬から顎から涙でビショビショにし、鼻水まで垂らした顔はとても女の子のものではなかったが、リトにはなによりも愛おしく思えた。

 背の低いリトのために屈んでやるような気遣いが、火神にはできない。リトとて、年下の異性に「仕方ないな」と目線を合わされるのは男として最高の屈辱だ。だから、その後ろ首になんとか手を回して、彼はグイッと火神の頭を引き寄せた。

「うわっ!」

 突然のことに声を上げながら、火神の頭はリトの肩へと着地した。下から抱え込まれている。リトの手が、火神の背中をポンポンと叩いた。それが再び涙腺を刺激して、火神は自分より背の低い男に抱きついて、嗚咽を漏らしながら泣いた。自分よりも小さいくせに、その掌は自分より大きく骨張り、引き寄せた力は今まで対戦したどの選手より強かった。

 リトの腕の中はひどくあたたかくて、安心した。

「だけどな」

 リトの、少し高めのハスキーボイスが、火神の耳元で囁く。彼は火神を抱き締めたまま、真剣な声音のまま、こう言った。

「困ったことがあるんだ。僕は、女の涙にはめっぽう弱い」

 本当に“困った”と言わんばかりに告白するリトに、火神はしばしキョトンとした。ポロリと頬をつたった雫を最後に、火神はこみ上げてきた笑いをこらえきれず、べそをかいたボロボロの顔で豪快に笑った。無性に目頭の熱くなる笑いだった。





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というわけで、性転換火リコでした〜。
リトくんは前の赤リコ性転換とたいして設定変わりません。
これ別に性転換しなくてもよかったですね、正直。ただ、「性転換書くぞ!」と勇んで書いたからこうなっただけであります。すみません。

にょた火神ちゃんの名前迷ったけどそのままです。とらドラ!の大河思い出したら「変えたくない!」ってなった。かわいいやん…女の子で“大我”やで…

にょた火神ちゃんは素直でかわいらしい子な気がしますね。身長のあたりに悩みましたが、アレックスと似たようなもんでいいだろってことに(笑)
この二人は性転換するとなかなかおいしい組み合わせになるんじゃないかなと思われます。女子としての自覚があんまりない大我ちゃんと、それに「もうちょっとしとやかにしろ!」とか言いつつ、「まあ僕はそんな火神さんのが好きだけどな」とかさらっと言っちゃって火神さんを赤面させるリトくん。彼は天然です。




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