♂リコ(リト)×♀赤司(征華:せいか)です。
黒バスキャラが全員性転換・女子バスケ部を題材にした二次創作、ということになっております。ご注意ください。
リコ(♂)は変わらず誠凛の監督、赤司(♀)も洛山の主将という設定です。




 なんの躊躇も恐れもなく、目上の男をどつくように壁に押し付ける女というのを、相田 リトは初めて見た。

 それも美人である。「クリンとした」とも「グリンとした」とも言える迫力を放つ瞳や、薄くつり上げられた口元の酷薄さを差し引けば、童顔なだけの美少女である。思わず指を通したくなってしまいそうな蘇芳(すおう)色の髪も、対比するように白い肌も、いらない贅肉をすべて削ぎ落とし、必要な筋肉だけに絞り込んだ手足も、美しくはあれど、「粗暴な」だの「メチャクチャな」だのとは形容しがたい。まさか、高校生男子の胸倉をつかんで壁に叩き付けるという所業を行う無法者とは、だれも思わないだろう。

 人は見かけによらないものだ、と思いながら、リトは両手を上げて降参の姿勢をとった。

「あのなぁ、出会い頭にいきなり首締め上げるってどうよ。僕は世間話をしに来ただけだぜ」

 鋭い眼光を宿して微笑む少女――赤司 征華の冷徹な唇が薄く開いた。

「『世間話』? おかしなことを言うのね。『喧嘩を売りに来た』の間違いではないのかしら」

「そんなつもりはなかった、と言ったら?」

 赤司の可憐な双眸がスウッと細められる。

「わたしの中でのあなたの評価が、著しく低下するだけです。女子との会話ひとつ、相手の機嫌を損ねずに運ぶこともできない、不出来な男として」

 リトは黙したまま、じっと赤司を見下ろしている。

「これでもあなたのことは買っていたつもりなの。誠凛高校監督、相田 リトさん」

 失望させるおつもり? とは、言葉にせずとも目がすべて物語っている。洛山高校女子バスケ部キャプテン、赤司 征華のかもし出す空気は、相も変わらず人を萎縮させるなにかを携えている。

「不出来な男は嫌だな、挽回するチャンスをくれ」

 襟首を固定したままの赤司の両手をチラリと見てから、リトは苦笑した。

「まず、なにがそんなに気に入らないのかを聞こうじゃんか」

「そうね。腹が立つことと言えば、あなたがわたしを侮っていることかな。バスケの話じゃない。今現在のこと。いつでもこの手を振り払って、あまつさえ逆にひねり上げることだってできるのに、そうせずに呑気にかまえているところ。勝てると確信しているからでしょう? そして、それは確かに正解だわ。男女の差なんて言うまでもないし、覆せるとも思わない。けれど、だからと言ってやすやすと敗北を認めるような愚行もおかしはしないの。負けることは死ぬことと同じ。わたしはわたしに誓って、負けることなど許しはしない」

 涼しげに述べる赤司の手に、ギリッと力がこもった。

 リトは思わず嘆息する。

「思い込みが激しいというか、自我が強いというか……勝利に真摯な態度は見てて感心するけど」

「かわいげがないって? だからあんなことを言ったのかしら」

 赤司のいう「あんなこと」とは、リトが一番初めに彼女へ放った言葉だろう。そして、そのたった一言のせいで、リトはこんな状況下に陥っている。

 ――『そんなに肩肘張ってどうするんだ』――

「かわいげがないとか、そんな差別的なことを言うつもりはないよ。僕が言ったのは、本当に世間話程度のものなんだ。個人的に、キミの、敵を作りやすい生き方っていうのが気になっただけ。だから、ちょっと話を聞けないものかと思ってさ」

「そうやって情報を引き出すのがやり口? ――愚鈍きわまりない。スパイ行為は相手に悟られず、確実に行うのが定石。あなたのやり方ではすぐに銃を突きつけられるわ。桐皇の桃井に口を利いてあげましょうか?」

 桐皇高校の男子マネージャー、桃井 さつきの名を出されたことで、リトは軽く唇を尖らせた。

 リトは桃井が苦手である。嫌いではない。ただ脅威なのだ。それは無論、桃井の類い希なる情報収集能力にも起因する。しかし、それよりもリトを刺激するのは、彼のコンプレックスをビシビシとつつく、桃井のルックスの良さである。初めて顔を合わせた時、「ギリギリ160cm」と笑い混じりに身長を当てられたことがかなりトラウマを残していた。この身長の低さは、リトにとって悩みの種だ。女子部といえど、バスケ部なら、自然と背の高い者が集まるのも道理。自分より上背のある選手もごまんといる。実際、誠凛にもリトより背の低い女子は黒子と伊月しかいない。火神や木吉などは、もはや見上げなければならないレベルにある。そうして日々、男としてのプライドと戦い、いつか来るはずと信じてはや数年になる急速な成長期を夢見ながら生きるリトが、身長185cm・イケメン・モテ男の桃井に敵対心を抱くのは、致し方ないことであった。

 悲しいことに、今もその現実と直面している。赤司はバスケットプレイヤーとしては小柄な方だが、それでも自分と並べばどっこいどっこいの身長である。リトの、見ただけで身長・体重・スリーサイズ・その他もろもろの身体情報を寸分違わず把握できるという特殊な目のおかげで、赤司 征華の158cmというリアルな数値も確認できている。ここまで身長に差がないからこそ、女である征華が、男であるリトを押さえ込めているのだ。

 ちなみに、見ただけで細かな身体構造がわかってしまうという能力は、誠凛高校でも二年生しか知り得ない。一年生には、「おおよその能力値がわかる程度」とぼかして伝えている。正直に明かすと、いつも女の子たちは真っ赤になって体を隠そうとしたり、責めるような目でこちらを見てくるからだ。バスケ部を発足する際、自身のなにもかもをさらけ出そうと部員たちに打ち明けた時も、しばらくよそよそしい雰囲気が続き、精神的にかなり辛い思いをした。ケロッとしていたのは、幼なじみの日向と、いろいろな意味でおおらかな木吉くらいである。伊月すら、気まずそうに目を逸らして離れていったほどだ。リトはこの能力に目覚めて長いので、いまさら女子のスリーサイズに一喜一憂することもないのだが、やはり女の子としては困るところらしい。その気持ちは、そういったやりとりの繰り返しで痛いほど学んだので、むやみに傷付ける言動は謹んでいる。リト自身、桃井に身長をピタリと当てられた時は、頭から湯気が出そうなほどムカついたのだ。あの感覚を考えると、なおさらこの話を広めるわけにはいかないと思った。

 それに、桃井のように「テッちゃんのスリーサイズ教えてください!」なんて、さらりと変態発言をする男もいるので、かわいい部員たちを守るためにも、迂闊な発言はできない。本当なら、黒子あたりには「もう少し食べたら?」と苦言したいところであるが、デリカシー云々を考えると、とても言えそうになかった。

 そんなことを考えながら、赤司の身体能力値を脳内でデータ化していたのは、けっしてスケベ心などではなく、指導者としての興味本位だ。黙り込んだリトを睨む赤司 征華の、その肢体。細身だが、鍛え上げていることが容易にわかる、筋肉質なボディー。無駄のない、鋭利に洗練された肉体は、普段の鍛錬の厳しさを物語る。勝利を絶対とし、敗北を死とイコールするほどの傲慢さは、妥協のうえには成り立たない。己に甘い人間では、勝ち続ける人生を歩むことなど不可能なのだ。それこそが彼女の信条であり、矜持であり、赤司 征華を赤司 征華として成り立たせる前提事項でもある。

 だからリトは、赤司の手を振り払わない。ひねり上げるようなまねもしない。

 気がかりだった。いつか対峙するに違いない、底知れぬ独裁者の、危うい足場が。

「うちと対戦する前に崩れてもらっちゃ困るんだよ。まあ、今のキミの様子ならそう簡単に負けはしないだろうけど。その分、敗北した時の悔しさは、勝利の充足感の何倍もの力でキミを叩き潰すよ。そうなった時に、心の重要な土台を形成できていないキミは、自分を保てるの?」

「お説教はご勘弁を。わたしは負けない。何故なら――」

 おもむろに、赤司の手がリトの襟から離れた。そのまま彼女は静かに後ろへ下がる。履き物がバッシュであるにも関わらず、床との摩擦音が一切立たない。他者とボールを意のままに操る美しい手を優雅に自分の胸元に添え、赤司 征華は笑顔とは言いがたい歪な表情を作った。

「わたしは勝者だから」

 リトは人差し指でこめかみを叩く。

「うーん……」

 話が通じん。

 リズムを刻むように動かしていた指をふいに止め、その人差し指をついっと赤司へ向ける。

「まあいいや。キミみたいなタイプは言ってもわからないだろうから」

 赤司がリトを見る。唇を横に伸ばしただけの、表面的な微笑。緩まない赤と橙の瞳。

「暴力に訴えてみますか?」

「まさか。それよりもっと効く方法があるじゃないか」

 表情を消す赤司と対照的に、リトはにんまりといたずらっ子のように笑った。

「僕たちは必ず相見えることになる。その時に教えてあげよう、キミの初めての敗北の味と、そこから立ち直る術を」

 赤司の目尻が緩むことはなく、むしろ険しく細まっていく。静寂の殺気を放つような音のない敵意は、暗闇の中で獲物を狙う肉食動物のそれだ。しかし、リトとて呑気に食われているだけの草食動物ではない。彼は目の前の少女の鋭い視線を勝ち気な笑みで迎えると、クルリと踵を返した。

「逃げるんですか」

「逃げるとも。僕だって殺されたくはないからね」

 背中に冷たい視線が刺さるのは、「嘘を吐け」という無言の訴えだろうか。緊迫感のかけらもない、軽い口調で語りかけてしまったことが、彼女のご機嫌を損ねたのかもしれない。

 損ねたついでにもう一つ、と、リトは振り返った。

「よく言われることだけど、僕はお節介なんだ」

 これで彼女の疑問にはすべて答えたことになるだろう。あとは先ほど言ったとおり、コートの上で決着をつける。口に出すお節介は、おそらくそれまでおあずけだ。

 消えかけの白熱灯の下、佇む赤い少女は、いやに恐ろしい迫力だった。くわばらくわばら、と再び歩きだす。五歩分ほど進んだところで、赤司 征華の涼しく通る声が、リトの背中へと投げられた。

「あなた、他人のこと言えないくらい、傲慢だわ」

 ついつい吹き出し笑いが漏れる。リトは今度こそ、別れの挨拶としてひらりと右手を振った。

 そうかもね――とは、さすがにバツが悪くて言えなかった。





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というわけで、赤リコ性転換ネタでした〜!
一度はやりたくなるんですよね、性転換…。
基本的に性転換した時に名前を変えるのってなんか苦手なんですけど、今回はしちゃいました。「名字だけにすれば?」って話ですけど、私いっこの話の中で一度もフルネーム呼ばずに進めるの難しいんですよね…。小説らしい書き方にこだわるので、最初に呼ぶ時はフルネーム表記したい、みたいな。なので、比較的見かけることの多い性転換名をお借りしました。征華さんは征子と迷ったけど、ここまでやるなら少しくらい華やかにしてもいいかな、って…。

にょた赤司様はいろんなバージョンを見るんですが、ロングヘアーのツインテとか、ロングヘアーでカチューシャとか、貧乳とか(リコさんと微妙に気が合いそうだね!もしくは張り合うね!)、ニーソックスとか、ギャルゲ的なスペックの高さを感じます。そして、そんなにょた赤司様がすごく好きです。カチューシャ+貧乳+ニーハイが至高かな…。なのに雰囲気や目つきが赤司様なの。
しかし、肩までの長さのざっくばらんな後ろ髪にパッツン前髪、顔はまんま男の時の赤司様でも全然ありです。でも背は低いのがいいと思います。彼女は口調が一番戸惑いました。

リトくんはリコさんが男になったまんまってかんじ。リコさんもともと男前だから問題ないよね?←背低くても内面のイケメンさでカバーするもんね?←←
「男は最低でも170cmはないとね!」っていうのは「女は最低でもDカップはないとね!」っていうのと同義らしいので、ギリギリBカップはギリギリ160cmくらいになるのかな、って思ってそうしました。本当は170か165くらいにしたかったんですけど、黒バスのすさまじい平均身長の高さに踊らされちゃダメだ…!と心を鬼にして(ぇ
おそらく木吉や火神は175くらいあります。むっくん…いや、むっちゃんは180いくら。190あってもいいかな?

たぶんリトくんとリコさんが同次元にいたら、リトくんはリコさんにめっちゃ煙たがられそうです。「人の胸のサイズなんかはかって楽しいわけ!?この変態!」「うっさい!僕だって好きではかってるんじゃねーっつの、このペチャパイ!」「なんだとー!?」みたいな。ちなみにリトくんは部員の細かい身体情報を、息抜きと称した水泳大会でゲットしました。結構苦労する男体リコさん。
男ばっかの中に女が一人だと女の子が強い場合が多いですが、女ばっかの中に男が一人だと、やっぱりちょっと肩身狭くなったりするんじゃないかな。リトくんもリコさん同様鈍いから、それがよけいに女の子の庇護欲かき立ててかまいたがられるっていうか。木吉あたりの巨乳に顔うずめさせられて「いーこいーこ」されて「なにすんじゃコラー!///」ってガァーッてなりそうです。でもリトくんなら「お前ら今日のメニュー3倍だからな!」とか言っても「わー、カントクったらこわぁい(クスクス)」(←そんな勇者いるか?)ってからかわれてそうです。で、またウガァーッ!ってなる。かわいいね、リトくん。もちろんリコさんもかわいいです。

そんな無駄な設定考えるのがめちゃめちゃ楽しかったです。
特殊設定、失礼しましたorz




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