「“運命の赤い糸”というものを信じるかい?」

 そう言って、赤司 征十郎は相田 リコの左手に指を絡めた。

「またずいぶんロマンチックな話を振るわね。どうしたの? どちらかというとリアリストの類だと思っていたけれど」

 ゆっくりと彼の口元へ運ばれる自身の白い手を見ながら、リコは言った。

 小指に口付けられる。彼の緋と橙の目が、ゆるりとリコを見た。

「貴女と僕の出会いが、運命の赤い糸に導かれたものによるのか、それに興味があるんだ」

「ふうん」

 そんな甘い話は似合わないわね、とは、口にしない。

「私はそういうのは苦手だわ。なにもかもを“運命”っていう言葉で表してしまうと、どんな努力も足掻きも無意味に感じちゃうもの。『最初から決まっていることなら、頑張ったところで意味ないじゃない』ってね。そういう諦め方が私は一番嫌い。どうせなら、先の見えない道をひたすらに走り抜けるほうがやりがいがあるわ」

「貴女らしい」

 クスクスと、赤司は楽しそうに肩を揺らした。

「必死になりたいと思うかい?」

 なにを、とは訊かなかった。この話題は、今まで口頭でも念頭でもさんざんしてきた。終着点がないからこそ、無駄な論議は終わりを見せなかった。

「でも、赤い糸で結ばれてるからって、絶対にその二人が結ばれるわけじゃないじゃない? 恋愛にはタイミングやら立場やら年齢やら環境やら、いろんなものが立ちはだかる。うまくいかなきゃ、運命の相手と出会うこともなく終わってしまう。出会ったからといって、その愛が一生続くかはだれにもわからない」

 指先を赤司に預けたまま、リコは目を伏せた。

 逢瀬、秘め事、逢い引き。どの言葉もくだらない。けれど、表すなら、そんな言葉を使うしかなかった。運命なんてものもくだらない。ロミオとジュリエットを演じるのが運命だとしたら、そんな物語は破いて燃やしてしまいたい。狭い空間で雁字搦めになるのは仕方なく、それ以外に方法がないのが現状だ。外側から見れば小さなことでも、学生で、敵対する学校の監督と主将である二人には、まるで互いの間に巨大な川でも流れているかのように、そこには絶対的距離がある。埋めるためのコンクリートなら、きっとこの強い二人の手にはあっただろうが、どちらも強情なので自分から工事に挑む姿勢は見せない。「お前が来い」と腕組みをしながら、かけられない橋を待って、ねだるように指を絡める。

 閉鎖された密事に酔いしれているのかもしれなかった。自分たちの不遇な関係に、「かわいそう」と同情しているのかもしれなかった。

 ともすれば、幼い恋だった。

「ならば、『貴女と出会ったのは偶然ではなく必然だ』というありきたりな口説き文句も聞いてはもらえないんでしょうね」

「当然よ。必然って言い方はさらに嫌いだわ。傲慢すぎる。どうせなら――」

 そこで、リコの言葉は途切れた。赤司が息を奪うように、彼女の唇へ口付けたからだ。背中が床とこんにちはをして、さらに深く指が繋がれるのを感じながら、リコは瞬きをした。

 聡い彼のこと、いつリコの口から否定的な別れの言葉が出るかと危惧しているのだろう。それはリコとて同じだ。

 だれにも言えない。だれにも言えないからだろうか。どうしても、この傲慢な寂しがり屋の手を離せない。





嚼ヤリコは幾度も嘘を重ねて守り続けた、殉教的な恋をしていました。赤リコの指に赤い糸が結ばれているかは誰にもわからないのです。


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診断ネタです。どうやら私はリコちゃんの手にチューする赤司くんが好きみたいです。掌へのキスは懇願。
でも赤司様ならそんな壁「頭が高い」つって蹴り倒しそうですけどね。でも、どっちにしろ赤リコくっつきそうな印象がない。




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