あまりにもしんどそうだったから、助けてあげたいと思っただけなのだ。太田 紗(おおた すず)は、心の中でそう言い訳する。

 もちろん、彼女が降矢 凰壮(ふるや おうぞう)を好きだったことは揺るぎない事実だ。彼を他(た)の人間よりよく見ていたことも間違いなく、それによって彼の気持ちの先に気づいた。いわば不可抗力である。だが、きっとそれだけではない。

 紗は叶わない恋をしている。そしてまた、凰壮も叶わない想いを胸に、長い間悶々とした日々を送っている。

 いったい、どちらの片思いの方が長いのか。凰壮が高遠 エリカに特別な情を抱いたのがいつごろかわからない紗には、なんとも言いようがない。ただ、かなり早い段階から、彼が他の女とは違うものをエリカに感じていたであろうことは、なんとなくわかる。紗も、幼いながらに凰壮に恋をしていて、それからずっと見てきたのだから。その視線の先にだれがいるかなんて、火を見るより明らかだった。

 エリカはきっと、凰壮が自分を好いているとは微塵も思っていないだろう。彼女は愚直なほどまっすぐだ。そのシンプルな性質のためか、なかなか他人の思惑というものを感知することができない。しかし、そんな陰日向のない性格だからこそ、人を惹きつけるのだ。本気で他人にぶつかり、本気で他人を叱り、本気で他人を心配する。喜怒哀楽がハッキリしていて、見ている方も気持ちがいい。

 紗とて、エリカのことは大好きだった。けれどその反面、大嫌いだった。

 エリカは凰壮のものにはならない。彼の兄である、降矢 竜持のものだからだ(ものだなんて言い方をされると、彼女はひどく憤慨するだろうけれど)。

 それが唯一の救いと言えば確かにそうだったが、同時に、紗がエリカを嫌うもっとも大きな点でもあった。エリカが凰壮を選ばなかったことにホッとする気持ちもあれば、彼の恋心を知らずにいまだ縛り付けていることに軽蔑じみたものを抱いたりもする。

 そこにもいろんな紆余曲折があったのだろうけれど、その中にさらに入り組んだ迷宮があったことまでは、エリカには気づけなかった。他人が見ればあきらかなことでも、言われなければ考えもしない。高遠 エリカは鈍感な女だった。

 竜持がいつエリカを好きになったか、紗は知らない。凰壮とどちらが早かっただとか、そんなことにも興味はない。彼が凰壮の気持ちを知りながら、エリカを譲ろうとはしなかったということ。それさえ知っていれば十分だった。

 彼らの間で話をする機会があったのかどうかすら、紗に立ち入れることではなかった。紗は、この三人の恋愛において、驚くほど部外者だ。同じチームでサッカーをしていたわけでも、同じ学校で机を並べていたわけでもない。彼らの所属する桃山プレデターズのキャプテンが紗の兄でなければ、出会うことすらなかったかもしれない。

 その運命を喜ばしく感じながら、「出会わなければよかった」と悔やむのも、いつもながらの矛盾だった。


「おーぞーくんはさー、告白とかしないの?」

「あ?」

「だからー、エリカちゃんに」

 退屈だから適当に言葉を選んだ。そういう体を装いながら、紗は尋ねた。訊かれた凰壮は重い溜め息を一つ吐くと、

「お前がなに勘違いしてんだか知らねーけど、別に俺はそんなんじゃないから」

 紗に目線を合わせずに言った。

 不毛な人だなぁ、と紗は目を細める。そして、不毛だなぁ、と自身を判断した。

 私たちこんなに好きなのに、想いの丈でいうならきっと似たようなものなのに、どうして交わることができないのかな。

 無意識に、紗は凰壮に手を伸ばしていた。ふいを突かれた彼は、目を少し見開いただけで特になんの対応も取れず、抱きつく紗を受け止めるかたちとなった。

「お、おい……」

 頭上から戸惑ったような声がする。低い声。時にはヒールに、時には吐き捨てるように、時には挑発的に、時には真剣に、時にはなんの心積もりもなく正直に。凰壮のものなら、紗はなんでも好きだった。

 浮かぶ涙を見せないように、紗は凰壮の胸に顔を埋めた。手荒に引き剥がさないのは彼の優しさで、紗に対するある程度の好意だった。紗の心に宿るものと意味合いが違うだけで、そのくらいには凰壮は紗を可愛がっていた。自覚しているからこそ、余計に辛いというものである。

 凰壮の心臓の音が聞こえる。彼の生きている証だ。トクトク、トクトクと、規則正しく脈動している。

 ああ、生きている。自分も彼も生きているのだ。

 年下の美少女に抱きつかれているというのに、凰壮の脈には微弱な乱れすらない。“紗だから”というのではなく、たんに“エリカではないから”なのだろう。まったく、憎たらしいことだ。

「あー、凰壮くん安心するなぁ」

「いつまでもそんなこと言ってねぇで彼氏の一人くらい作れよなー」

 ――だったら今すぐ、私の頭を撫でるその手を退けて――

「ん? なんか言ったか?」

「なんにも言ってないよー」


 神様ごめんなさい。わたし、嘘を吐きました。“出会わなければよかった”なんて、真っ赤な嘘です。




―――――――――――――


成長おうすず。gdgd感やべぇ…
ツイッターでcpのお題診断して、全然違う題名だったんですけどそこからちょっと膨らましてこんなふうになりました。
最近の凰紗熱をどうしたらいいかわかりません。

前は普通に「友達の妹に慕われちゃう凰壮さんえいやん」くらいに思ってたけど、竜エリ←凰←紗という前提を打ち立ててしまってからはそればっかりで話を考えるようになってます。でも最後にはちゃんと幸せになっておくれ、凰紗……。

よく凰紗の凰壮さんはロリコンと馬鹿にされてますが、考えてみれば凰壮さん小6だし、三歳差とか全然変じゃないよね。なんでだろうねって考えて、「そうか、降矢三兄弟が小学生に見えないからだ」って理解した。もし竜持×紗だったとしてもロリコン扱いされただろうし、虎太くんでもそうだろうよ。アイツら小学生とかマジ詐欺だよ、嘘だよ。




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