・現パロ
・文化祭中らしいよ




 心臓が耳元で鳴っているようだった。頭の中を血が駆け巡り、目の前がグラグラと煮え立つ。

 ――何をしているんだろう、俺は。

 その問いに自答するのであれば、久々知 兵助は恋人の亜子を保健室のベッドに押し倒していた。亜子は顔を真っ赤にして呆けており、状況を飲み込むことができていないようだった。白い肌は赤く色付き、黒を貴重としたメイド服によく映えた。――そう、“メイド服”だ。

 昨今、文化祭などの行事事でそういったコスプレをするクラスは多くいるらしいが、それを自分の彼女がしているとなれば話は別だ。まったく似合っていなかったなら、まだ気持ちも高ぶらなかったかもしれない。だが、残念なことにというかなんというか、周囲から一目置かれる美少女の亜子が、メイド服を着こなせないはずがなかった。オーソドックスな型のメイド服は、亜子のひかえめな雰囲気を少しコケティッシュに魅せる。スカートから伸びる足はすらりと華奢で、ニーソックスが悶絶ものの絶対領域を生み出し、ふわりとした明るい茶の髪が愛らしさを添え、しまいに大きな瞳をパチリと瞬いて「おかえりなさいませ、ご主人様」などと恥じらいながら言われようものなら、そこらの男共は皆一瞬でKOされてしまう。実際、亜子目当ての男性客で、彼女のクラスの「執事&メイド喫茶」は長蛇の列だった。

「あ、く、久々知先輩……。来てらしたんですか」

 困ったような照れたような表情で亜子がそう言った時、久々知の頭の中でなにかがプツリと音を立てて切れた。世界が遮断され、目の前にいる亜子の姿だけを、久々知の網膜はとらえる。そうして思った。

 ――これをここに置いていてはいけない――

 脳ではなく体がそう命令した刹那、直結した肉体は素直に亜子の手首をつかんだ。普段、壊れ物に触るように優しい久々知の手が、初めて男性らしい乱暴さを見せたことで、亜子は目を見張った。そのまま、クラスメートや客の目も気に留めず、久々知は人混みをかき分けて亜子を教室から連れ出した。

「あ、あの、久々知先輩っ?」

 うろたえる彼女の声など聴覚を介さず、

 ――そうだ、保健室だ。あそこなら今日は使われていないし、先生も出払っている。亜子を隠す絶好の場所になるだろう。

 ぼんやりと本能の赴くまま、久々知は保健室へと足を向けた。

 そうして、今に至る。

 亜子を隔離したのは、下世話な目を向ける男共から彼女を隠したかったからだ。ならば、今こうして彼女をベッドに押し倒してその上に跨がっているのはどうしてだろう。

 背中を汗がつたう。駄目だ駄目だと諫める心と裏腹に、体はいやに高揚していた。

 大切に、とても大切に扱ってきた。柔らかで細い肢体は、少し力を入れれば砕けてしまいそうで、そんな妄想に足止めをくらっていまだ手も握れていない。それなのに、自分はこれまでの我慢を壊して彼女に触れようとしている。

 駄目だ駄目だ、と心が叫んだ。しかし、肉体に灯された火は全身を焦がし、血液は沸き、体温は上昇する。抗いようのない衝動が、このまま彼女を食ってしまえと囁きかける。

 警報が頭の奥でガンガンと鳴り響いている。なのに、久々知の手は無意識に亜子の白い肌へと伸びた。ビクリ、と体を揺らす亜子は、けれど声一つ上げずに久々知を見返した。

 頼むから抵抗してくれ……。

 願いはもちろん口を突かず、むしろ本当に思っているのかも怪しいところだ。これが最後の警告だと思いながら、久々知は亜子に顔を寄せた。甘い香りが鼻孔をかすめて、さらにたまらない気持ちになる。ここまできても亜子は潤んだ瞳で彼と目を合わせているので、もうどうにでもなれと、久々知は押し付けるように亜子の唇を塞いだ。

 ガラガラと崩れていく音がする。己の理性と、今まで築き上げてきたもの、関係、彼女からの信頼。そんな、大切なはずのいろんなものたち。

 もう引き返せないのだと、久々知はこの時理解した。堪えていたものが一気に押し寄せて、逸る指先は性急に亜子の体をまさぐった。それでも、亜子は嫌がることなく彼の背中に手を回したので、もしかしたら彼女はずっとこうされるのを待っていたのかもしれないと、吹っ飛んでいく意識の中でぼんやり思った。




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久々知は気持ち悪いくらい亜子ちゃん大好き。欲目バシバシです。




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