※現パロ雷シゲ。成長・同棲設定。



「なんだか不思議でしゅ」

「ん?」

 腕の中の自由な小鳥は、背後の恋人を振り返ることもなく、そう呟いた。彼女を抱きかかえて座るソファは、共に暮らし始めた頃にお金を出し合って買った良い品だった。それは、多少無理な体勢をして座る人間二人程度ではビクともしない。不破 雷蔵は、膝の上に座らせた大川 シゲの脳天を見下ろして、再度「なにが?」と疑問符を向けた。

「なんだかずーっと昔にも、雷蔵しゃんとこうしていたような気がしゅるんでしゅよ」

「? こうして、っていうのは一緒にいること? それともシゲちゃんを膝へ乗っけていることかなぁ」

「どっちもでしゅ」

「それは……由々しき事態かも。昨日・一昨日の記憶じゃないんだよね?」

「はい……もっと昔……」

 そう言って、シゲは考えるように中空を見つめた。だがしかし、すぐにふるふるとかぶりを振って、

「いいえ、きっと勘違いでしゅ。昨日・一昨日の記憶でしゅね、たぶん」

「そうなると今度は僕がまいっちゃうなぁ。毎日こうやってシゲちゃんを抱っこしているみたいじゃないか」

「実際しょうじゃないんでしゅか?」

「うっ」

 わざとらしく声に出して、雷蔵は明後日の方向に視線を逸らした。その下で、シゲが頬に手を当てて嘆息する。

「好かれてるのはうれしいんでしゅけどね。雷蔵しゃんはわかりにくいんでしゅ。学校じゃ、全然恋人っぽいスキンシップしないくせに。おかげで周りの方々からは“保護者と幼女”とか言われてるんでしゅよ」

「あはは、それはつらいなぁ……」

 眉を下げる雷蔵の表情をあいかわらずシゲは見ることはないが、十中八九どんな顔をしているかは察されているのだろう。その小さな口から、もうひとつ溜め息が零れた。

「一緒に暮らしてまでいるのに、いまだプラトニックな関係でしゅしね」

 そこで初めて、つぶらな瞳が雷蔵を仰ぎ見る。

「シゲが全然成長しなかったからでしゅか? そういう対象としては見れない?」

「違うよ、そんなんじゃない。ただ、これ以上踏み込んでいいものかどうか悩んで――」

「早くも三年半――っていうんじゃありましぇんよね?」

「………………」

 沈黙はわかりやすい肯定だった。シゲは今度はがっくりと肩を落とした。

「優柔不断なのは雷蔵しゃんの性格だから、今さらどうこう言いましぇんけど、いっそ尊敬しましゅね。優先順位がわからないでしゅ」

「ご、こめんよ。意気地がなくて……」

 その時、シゲがパッと振り向いて、彼をじっと見つめた。そして静かに目を閉じる。どぎまぎとしながらも、雷蔵はなんとか彼女の小ぶりな唇に口付けた。キスだけなら幾度となくしてきたのに、これだけですでに余裕がないのだから、先に進もうものなら彼はどうなってしまうか知れない。こんな小さくて柔らかな体、彼が力を入れれば押し潰してしまうかもしれないのだ。こうして、いつも雷蔵は踏みとどまる。ごちゃごちゃと考えずに勢いにまかせることができればどんなにいいだろうとは思うけれど、それができれば苦労はしない。二十年以上培ってきた性格は、今さらたやすく直せやしないのである。


 シゲの唇の甘さを感じながら、雷蔵は脳裏にふっと横切るなにかを見た。それは遠い過去のような、近い昨日のような、そんな曖昧なもの。輪郭すらつかめないそれは、すぐに途絶えて消えてしまった。

 よくわからないなと、雷蔵は眉を顰める。さらによくわからないのは、自分はどうして今この瞬間を、こんなにも尊く感じているのかということだ。




――――――――――――


転生系で。
ここまでしなきゃ幸せにはなれそうにない気がして…。




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