「ひっひっひ、見たよ大野くん」

「うわ! さ、さくら!?」

「かわいい子なのになぁんでフッちゃったのさ。もったいないねぇ」

「……別に、彼女とかいらねぇもん」

 自身の吐いた台詞が妙に格好をつけたそれのように感じて、大野は顔が熱くなるのを感じた。さくら ももこ――通称まる子の反応を見るかぎり、どうやら終始盗み見られていたようだ。事の顛末を知っているということは、大野の「悪い、今そういうこと興味ねぇから」という、これまた格好つけた台詞も聞かれていたのだろう。嘘を吐いたわけでも、格好をつけたかったわけでもないが、己の言ったことがそういう部類にとられることを大野は恐れた。特に相手はあのまる子だ。さぞかし愉快そうに笑い、嫌みったらしいからかいでせついてくるのだろう。その前に立ち去ってしまおうと、大野は足を校舎の方に向けた。

「あー、それわかるわかる」

 流れるように同意したまる子に、大野はちょっと面食らって瞬きを繰り返した。鷹揚に頷いていたまる子は、大野の視線にちょっと首を傾げてから、「なんかめんどくさいよねぇ」と言った。

「好きだのなんだのってよくわかんないし。だからと言って嫌いってわけじゃあないけど、付き合うとかそういうのとは違うじゃんねぇ」

「そう! そうなんだよ!」

「あたしもまだ恋愛なんかわかんないからさ。大野くんの気持ちは理解できるよー」

「お前わかってんじゃねーか!」

 ふふん、と鼻を高くするまる子を、普段なら呆れたような顔で見るのだろうが、今日ばかりは大野も輝いた目で彼女を称えた。まる子のこういう女の子女の子していないところは、大野が彼女と親しくする大きな理由であった。

「まあ、さくらはそういうことに縁がなさそうだしな」

「むっ、失礼だねぇ。あたしだってあと5年もすれば、百恵ちゃんみたいな美人になるんだから」

「あーそう。もしそうなったら、さくらのことは俺がもらってやるよ」

 だから、こんな軽口も吐くことができる。ここでまる子が頬を染めて俯くような女ではなく、「ふん、その時はあたしの周りにゃいーっぱい色男がいるからね」と笑うような女だから、大野は彼女の傍にいても嫌になることがない。

 もしかしたら、何年か後、こうして隣にいるのはやはりまる子なのかもしれない。それならそれでかまわないや、と思えるそれが恋の蕾だとは、大野もまる子もまだ知り得ないのだった。




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