南沢の髪は、いつも本人が自慢げにかき上げているだけあって、サラサラととても手触りがいい。横に流した長い前髪は、顔にかかって少し邪魔くさそうにも見える。しかし、彼が俯いたり振り返ったりするたびに、その濃紫は、陽に焼けた彼の肌をちらちらと隠したり晒したりするので、何故か見る者は背徳的な気分に誘われる。南沢の髪を指先で梳きながら、これが俗に言う“チラリズム”か――と、葵は見当違いなことを考えたりしていた。

「知ってます?」

「知らない」

「んもう、まだなんにも言ってないじゃないですか」

 話を無碍に一刀両断する南沢に、葵は口を尖らせて不満を露わにした。だが、対する南沢も、どことなく不満げに目を細める。

「こんな雰囲気で口を開く奴が悪い。今は黙って、キスのひとつでもするとこじゃなかったのか」

 覗き込むように顔を近付ける南沢に、葵は目を瞬かせた。ふと気付くと、葵の毛先をくるくると弄っていた南沢の手が、引き寄せんとするばかりに後頭部に回されていた。なるほど、あとわずか葵が声を出すのを遅らせていれば、南沢はこの手に力を入れて彼女を抱き寄せたのだろう。空気を読まなかったことと、そういう“気分”に南沢がなっていたということで、葵は顔を赤くした。

「まあ、それはいいとして」

「よくない」

「髪を触る癖がある人って、甘えたい願望があるんですって。髪を触るのって、頭を撫でるのとおんなじことで、つまり自分で自分を『よしよし』してることになるらしいの」

 何も聞こえていなかったように、葵は自分が話そうとしていた内容を彼に伝えた。南沢は不服そうな表情から、訝しげな表情へと変わった。ちょっとだけ首を傾げて、葵を見ている。「なんだそれは」と目が訴えているが、別に葵の言ったことの意味がわからないわけではないだろう。彼は頭のいい人だ。ただ、葵がなにを伝えようとしていたのか、それが不明なのだ。葵は南沢との距離をさらに詰め、空いていた片手も彼の髪に突っ込んだ。両手で地肌に軽く爪を立て、茶色い眼球に己の空色の瞳を映す。

「先輩って髪かき上げるの癖でしょう。甘えたい願望があるんだと思って」

「なに、甘えさせてくれるつもりなの」

 南沢は、葵の片腕に手をかけた。拒む手ではない。むしろ、もっと来い、というような、指先から劣情が染み出てくるような熱い手だ。

 「そう」と、葵は答えた。

 後頭部に添えられていた南沢の手が、ふいにその強引さを垣間見せる。乱暴ではないが、有無を言わせぬ力の強さで、葵の頭は自然と南沢の方へ傾いた。導かれるまま、葵の唇が南沢のそれと重なる。

「なあ、知ってるか?」

 至近距離で、南沢が伏し目がちに見つめてくる。ひどくエロティックな――いや、彼がエロティックなのは今に始まったことではなかった。南沢 篤志という人は、発育途中なその体には抱えきれないようなフェロモンを持ち合わせているのだ。当てられてクラクラとする葵は、先ほどの仕返しに話を断つこともできずに彼を見返した。

「キスには、モルヒネの10倍の鎮痛効果があるんだって」

 南沢はクスリと笑うと、ボッと顔を赤くした葵の頬に自身の頬を擦り寄せた。

「これで葵の方からキスしてくれたら、10倍どころの騒ぎじゃないんだけどな」

 意地悪にそう言って、言うわりに、彼の唇はまた自分から葵の唇へとその道を辿った。




▽Twitterで見たなるほど情報詰めてみた。甘えたい南沢さんかわいいけど表現できなかった。南沢さんは必死になってボールに食らいついてる姿が一番情熱的でエロティックだと思います。




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