選択その13




あれからというもの、ペンギン姿の優一くんは週に2度はうちへやって来る。




「起きなさい、なまえさん。そして早くこのベルゼブブにカレーを提供するのです!」




しかも決まって寝ている私を無理やり起こし、カレーを要求してくるのだ。
ペンギンの平べったい手が、寝ている私の頭をべちべちと叩く。




「…お願いだから、寝かしてよ…。」




予定のない日はお昼近くまで眠る私はまだ寝足りなく、寝返り打って掛け布団を頭の上まで引っ張り上げた。




「起きろ!寝汚ない女だな。」




痛みから解放されたものの、代わりにひっきりなしに罵詈雑言を浴びせかけられるので、結局私は布団から這い出ることになるのだが…。
意識のはっきりしない頭のまま起き上がると、「まったく…家主が客をもてなすのが常識というものですよ。」と嫌味を言われた。




「不法侵入が何言ってんのよ…。」



「文句言わないでカレーを作れ!」




なぜいつも寝ている私を無理やり起こすのか。
(首しめてやろうか、という物騒な考えが一瞬私の脳裏をかすめた。)



カレーなんて毎回作るもんでもなし、「残りもののホワイトシチューならあるよ。」と言ったら案の定「カレー以外は認めん!」と返ってきた。
起きて早々カレーを食べるなんて無理だ。




「えー…じゃあはいこれ。」




それでも私は食品棚を漁り、出てきたカレーのルーを渡した。
はっきり言って、作る気は毛頭ない。




「カレールーじゃねぇか!調理ぐらいしろ!!」



「嫌だよ朝からカレー食べたくないもの。」



「今は昼だっ!」



「さくちゃんとこでカレー食べてるんだからいいじゃん…。」




人間界に悪魔を呼びだし、その力を行使する代わりに望みの生贄を渡すのだと以前さくちゃんに聞いた。
だから奴が人間界にいるということは、さくちゃんに呼び出され生贄を貰ったということになる。
私の家に来る前にもカレーを食べてきたというのにまだ食べる気なのだ。



同じものばっかり食べて飽きないのかな…味覚異常?
黄金摂取してるくらいだから味覚異常は確定か…。



そんなことを考えていると、目を細めてこちらを見るペンギンと目が合った。




「今失礼なこと考えただろ?」



「別に。」



「職能”暴露”を司る私の前でいけしゃあしゃあと嘘を吐くな!!」




「顔見りゃ何考えてるか大体察しがつくんだからな!」と優一くんの言うことは本当で、私の考えていること(主に彼に対する失礼な考え)はすぐバレる。
考えていることが顔に出やすい性質なのかと自分を疑ったがそうではなく、彼の持つ悪魔の能力”暴露”のおかげで人間の後ろ暗い本性を多く見てきたため、人の考えていることがわかるらしい。



なんて厄介な…。
しかし探偵事務所には非常に活用できる能力なので重宝されているとか。



ていうか必要があって人間界に呼び出されたのにうちに来て大丈夫なのか?
以前それを指摘したら「大学に行ったさくまさんにアザゼルくんが付いて行ってしまうので暇なのですよ。」と返ってきた。
しかしその後小声で「悪魔のような氏と2人きりなんて考えただけで恐ろしい…。」という呟きも聞こえたのだ。



悪魔が悪魔と呼ぶ人って何者だ?
とにかく、さくちゃんが困ってるんじゃないかと思い彼女にも聞いてみたら




「私がいない間なまえちゃんのとこいたんだ。ベルゼブブさんなら余所に出かけてても呼べば戻って来るし、仕事に支障ないから大丈夫だよ。」




と笑顔で返されてしまった。
いいのか?悪魔が契約者から離れて行動して…。



でも本当に支障がないらしく、必要なときは優一くんの携帯電話に連絡が来るので、その時は彼も素直にその呼び出しに応じて帰っていく。



さくちゃんの肩にくっ付いて大学に来ていたアザゼルさんが「えー!」と声を上げた。




「べーやんだけずっこい、わしも女子大生の1人暮らしに密着したイダダダダダダダ」



「アザゼルさんは呼び出しても来てくれないし、なまえちゃんにイヤらしいことして迷惑かけるんだから絶対にダメです!!」



「まだ何もしてへんやんイタイイタイ!お願いもうやめてー!!」




爪を立ててアザゼルさんの口タブを引っ張り怒るさくちゃん。
さくちゃんの信頼するそのベルゼブブさんも私に迷惑かけまくりなんだけどね…。



毎日ではないけど、アザゼルさんはこうやってさくちゃんにくっ付いてくる。
大分前からこうやって大学に来ていたようだけど…なんで最近になってアザゼルさんが見えるようになったんだろ。



アザゼルさんの断末魔により、私の疑問は吹き飛んだ。







「今さらだけど、どうやって部屋に入ってきてるの?」




「意外とイケますね…」と言いながら、冗談だったのに本当にカレールーを齧り始めた優一くんに私は聞いた。



彼が我が家に入り込むときは、いつも不法侵入だ。
鍵でも盗みだされたのかと心配したが、たまたま起きていたときに台所の方面から飛んできたのを目撃したことがあったので玄関から入っているわけではないようだ。
また窓ガラスを割られたのだと思ったが、窓ガラスは全て無事だし…。




「悪魔なら造作もないことです。トイレ借りますよ。」




わけのわからない回答をすると、優一くんはカレールーを齧りながらトイレに行ってしまった。




「…物食べながら用足すって、どうなのよ。」




10年前にトイレを借りた手前、言うに言えなかった。






11.7.25
カレーよりハヤシが好きです。






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