油断ならぬ買い物



「…ノボリさん何処行ったんだろ。」




休日。
買い物に来ていた私たちは早速はぐれた。
はぐれたと言っても本屋内なので、すぐ見つかるかと思えば私はかれこれ20分はウロついている。
変な具合にすれ違ってしまったのだろうか。



20分前、私は買いたい本があったのでノボリさんと別行動を取っていた。
本はすぐ見つかり、レジを通して目的を達成した私はノボリさんを探すが何処にもいない。



ライブキャスターで連絡を取ってもいいのだけど、ノボリさんも本を読みふけっているのかも。
時間もたっぷりあるし、急ぐ必要もないので諦めた私はのんびり雑誌でも読もう、と雑誌コーナーへ向かうことにした。






…しかし問題のノボリさんはすぐ見つかった。



何故なら、女性雑誌コーナーでゼ○シイを読んでいたからだ。



いつもの如く眉間に皺を寄せ、険しい表情でゼ○シイを読みふけるノボリさん。
禍々しいオーラを放っている。
周囲の女の子たちがススス…と静かに身を引いて行った。



…なんてはた迷惑な…。




「あのー…ノボリさん?」




近寄りたくない…と思いつつこのノボリさんを回収しないと店員に文句を言われそうなので意を決して声をかける。
私に気付いたノボリさんがこちらを見ると「…大変です、なまえ様。」と呟いた。




「何がです?」




どちらかと言うと、自分が大変なことになってるノボリさんは愕然とした表情で




「ウェディングドレスが…白しかありません!」




と、力をこめてそう言った。




「……でしょうね。」




力こめて言うことかそれは。



入籍はしても式については私達の間でまったく話題にものぼらなかった。
私としては式を挙げられるなら嬉しいことだけど、現実的に考えると私側の親族ってこちらの世界にいないし…。
それならやらない方が良いかもと思っていたのだけど、どうやらノボリさんは考えていたみたいだ。


…そう思うとちょっと恥ずかしい。
私の顔は薄らと赤くなってきた。




「由々しき事態ですよこれは!?」




照れる私と違ってノボリさんはゼク○イを握りしめてエキサイトしている。
(またいつかの時みたく雑誌が縦に裂けそう)
どうやら赤くなっている場合ではないようだ。



しかし一体何が問題なのか、話が見えてこない。




「ウェディングドレスが白以外の色してるほうが由々しき事態ですよ。何が問題なんですか?」




そう聞けば「白ですよ?」と当たり前のことをノボリさんが言う。




「ク ダ リ の白をなまえ様がわたくしとの結婚式で身にまとうんですよ!?」




カッと目を見開くノボリさん。
そういうことか…。
ようやく私は合点がついた。




「そこはしょうがないじゃないですかウェディングドレスですし。」




ていうか「白=クダリ」の図式は世間一般の常識ではないのだから、本当にそこはどうしようもできないだろう。
しかしそれでもノボリさんは納得いかないらしい。




「わかっています…わかってはいるのですが、どうしても納得いかないのです。何故黒のウェディングドレスはないのか!」




黒のウェディングドレス、と聞いた私の頭の中で、空は曇りカラスが飛び立つ暗黒の結婚式が浮かんだ。




「…そんな悪魔の結婚式みたいなの、嫌です。」




式の日取りはまだまだ先になりそうです。








ゼクシ○を放さぬノボリさんを引っ張り、やっとの思いで本屋から出ると生活用品のコーナーへと向かった。




「なまえ様。このお玉、計量もできますよ。」




私以上にキッチン用品に興味を示すノボリさん。
婚姻届の夫と妻の欄、間違えた気がする。



私も私でノボリさんから離れて店内をウロつく。
特に目ぼしいものもなくて、飽きてきた頃ノボリさんが「何か良いものありましたか?」と近付いてきた。




「これと言って特になかったです……ん?」



「そうですか。ではそろそろ帰りましょう。」




私に背を向けレジに向かおうとするノボリさんのカゴの中には、デカイ枕が押し込まれていた。
私もノボリさんも枕は健在なはず。



何か機能的枕か、と思ってよく見ると…その枕にはでかでかと「YES」とプリントされている。
嫌な予感がして、カゴから引っ張り出して裏返すと今度は「NO」とプリントされていた。



これは…まさか…。




「…YES/NO枕…。」



「レジ通しますよ。」



「これは通しちゃダメです!」




渡せとばかりに手を伸ばすノボリさんから枕を取り上げた。
いつの間にこんなの見つけたんだ。




「なんてもの買うんですか!元あった所に戻しましょうよ。」



「新婚には夜の意思表示が必要かと。」



「買っても私は使いませんよ。」



「いえ、それはわたくしが使いますのでお気にせず。」



「そんな主張されても困ります!!」




お願いだから止めましょう、とノボリさんを説得するが「もう一つ必要ですか?」とか言いだして二つ目を取りに行く始末。
知ってますよ、そうやってわざと話題そらそうとしてるの。



しかしノボリさんは手強い。
私の手から例のYES/NO枕を奪い、二つ目もカゴに入れてしまった。



無表情でYES/NO枕をカゴにいれるノボリさん。
激しく似合わない。




「そんなのにお金使いたくないー!」



「レジの順番が回ってきましたよ。」




そして無情にもYES/NO枕はレジを通過していった。



帰り道。




「…ノボリさん。」



「なんでしょう。」



「………”NO”の意思表示したら引き下がってくれるんですか?」




よく考えたら”YES”があるのなら”NO”だってあるのだ。
むしろ始終”NO”の意思表示だってできるのだから必ずしも良い方向に事が運ぶわけではない。



と、そう思ったが。




「なまえ様の意思にそぐわぬこともございます。」



「私 の 意 思 は 無 視 で す か。」




とうとうここまできたか…と頭を抱えたくなった。




夜。




「…YES/はい枕になってる…。」




ノボリさんは料理だけじゃなく、お裁縫も得意なようだ。
……泣きたい……。






11.7.3
2つセットで安いものは2000円くらい。
この話のためだけにYES/NO枕をググりました…。







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