双子ちゃんその2
気を使って(?)部屋を出て行こうとしたクダリさんを連れ戻し、とりあえずリビングで話し合うことにした。
リビングにはテーブルを囲んで2人掛けソファーと1人掛けソファーがある。
先頭のノボリさんが2人掛けのほうに座ったので、2番手の私もその隣に座り…何故かクダリさんも同じソファーに割り込んできた。
おかげで2人掛けのソファーに3人してぎゅうぎゅうに詰めて座っているので狭い。
…話し合うのになんで横一列に座るんだ。
ピッタリくっついている2人の体は丸みを帯びていて、柔らかい。
「ノボリ、狭い。そっちの1人掛けに座って。」
クダリさんが私達の座っているソファーとは別の1人掛け用のソファーを指差す。
「ソファーに近いあなたが移動なさい。」
「1人ヤダ。ノボリがあっち行って。」
「恋人と弟を隣同士に座らせて何故わたくしが1人なのですか!
クダリ、ここは空気を読んであなたが移動するべきです。」
「僕、空気読めないこだから無理。」
「あ、じゃあ私がそっちに…。」
「ダメです。」
「ダメ。」
「くそぅ。」
さっきまでケンカしてたくせに、私が介入すると途端に意見が合うのはなぜだ。
「…クダリ、何か心当たりはございませんか?」
ようやく本題に入ったノボリさんの問いに、クダリさんはふるふると頭を振った。
長くなってしまった髪が当たってくすぐったい。
「僕は昨日普通に帰ってきて、ご飯食べて、お風呂入って、お布団入って、何かに怯えるなまえをおかずに白米をかっこむ夢を見ながら寝たよ。ノボリは?」
「今なんて?」
「わたくしは…。」
言葉を切ったままノボリさんは静止した。
私もクダリさんもノボリさんの言葉を待つが一向に続く言葉が出てこない。
心当たりでもあるのだろうか。
左に座るノボリさんを見ると、なぜか顔が赤かった。
「…昨夜なまえ様と夫婦の営み後、就寝致しました。特に変わりございません。」
「今なんてぇぇ!?」
夫婦の営み!?営んだ覚えがありません!
まさかの爆弾発言に私は思わず立ち上がろうとしたけどぎゅうぎゅうに座っていてそれはできなかった。
「え!嘘!僕気付かなかった!」
「最後まで致しておりませんので…Bまでです。」
「ズルイ!じゃあ僕はなまえとZまでする!」
「いいえ、なまえ様のZはわたくしのものです!」
「どうなっちゃうのそれ…。」
Zってなんだ。何処まで行っちゃうんだ。
…2人が女体化してて良かった、と心底思う。
「…とりあえず、今日は通常業務は無理でしょうね。」
「僕、今日休み。」
「えぇ、わたくしはギアステーションに連絡して休みにしていただきます。」
不毛な言い争いを終えて、ノボリさんは溜息混じりにリビングを出て行った。
真面目なノボリさんのことだから余程のことがない限り仕事を休みたくないのだろう、少し憂鬱そうな顔をしていた。
ぼんやりノボリさんのことを考えていると、二の腕にぷにぷにと弾力のある何かが当たっていることに気付き、私は無意識の内に肘を曲げてそれを押し返す。
「なまえ、くすぐったい。」という声にハッとして我に返る。
クダリさんの爆乳を肘で突っついていた。
「うわ、ごめんなさい!ついマコモちゃんにしてるようにやっちゃって…!」
「それもどうなの。」
よくひっついてくるマコモちゃんの胸をふざけて肘で突っついていたから癖になったらしい。
すごく自然にしてたよ…危ない。
クダリさんが自らの胸を興味深げに下から掬い上げて揺らす。
「おっぱいって重いねー。女の子ってすごい。」
「クダリさんのが異常にデカイだけですよ…。」
見たとこG以上はありそう。
頑張れば凶器になりそうな爆乳さだ…触りたい…。
「なまえ、触る?」
「え!?な、なに言ってんですかそんな…!」
いきなりの申し出に、心の声がバレたのかと私は声が上擦ってしまった。
触りたいって声に出してたかな。
「すっごいガン見してるけど。」
「…すんません、触らして下さい…。」
女の子だっておっぱいは好きだ!(多分)
「どうぞー。」と言ってクダリさんが胸を張って乳を差し出してくれた。
下から胸を持ち上げると、かなり重量があることが伝わる。
しかもブラジャーを着けていないので布一枚越しだから、温かい。
これはマコモちゃん以上にあるな…。
調子に乗っておっぱいを上げ下げしてるとクダリさんが「くすぐったい〜。」と笑った。
「…じゃ、今度は僕の番ね。」
「え」
おっぱいに伸ばしていた私の腕を掴み、クダリさんがニコーっと笑った。
私の腕を掴むその指は細長く、確かに女の子の指なのに非常に力強い。
「まさか最初からそのつもりで…」
「わーい、なまえのおっぱいだ!」
「やめて減っちゃううぅ!」
ギアステーションに就職してからというもの無遅刻無欠席のノボリだったが、今回ばかりは仮病を使ってでも休まざる負えない事態に遭遇してしまった。
いたって健康体であるのに病気の振りをすることに心を痛めながらギアステーションに連絡を入れると疑われることもなくあっさり受け入れられる。
代わりにクダリを出勤させるよう言われたときは2人して風邪をひいた、と言い訳を用意していたがそれも無い。
「お大事に!」という労わりの言葉までいただいてしまって更に良心が痛む。
日頃の行いが真面目な分、信じてもらえたのだからここは喜んでおこう。
前向きに考えながらリビングの扉を開く。
「くすぐったい〜。」
ソファーに座っているなまえとクダリが不穏なことをしていた。
なまえがクダリの胸を揉んでいる。
実際は揉んでいるのではなく、なまえなりに配慮して下から掬い上げているだけだったのだがノボリにしてみればどちらも同じこと。
なまえの目がきらきら輝いているのは気のせいじゃないはず。
ノボリは自分の胸を見おろした。
ストーンという効果音が似合いそうな、平坦さ。
脱げば男にはない確かな女の胸の膨らみがあるのだが服を着こんでしまっては以前と代わりなかった。
自分の胸を揉んでいるときはどうだっただろうか。
いや、あんな嬉しそうに揉んではいなかった。
そのなまえの様子にノボリの暴走スイッチが入った。
胸の大小で女性を区別したことはないし、胸でなまえを選んだわけでもない。
ていうかなまえならなんでも良い。
女になった今でもその考えは変わらないので、貧相な胸の自分に劣等感も抱かなかった。
だからノボリにとっての一番肝心な問題は、なまえが女性の豊満な胸が好みだということ。
思い返せばなまえは女にも関わらず女性の胸に興味津々だった。
ある時。
たまたまノボリが雑誌を読んでいたとき、ジムリーダー特集のページを捲るとカミツレとフウロが載っていた。
「あ、カミツレさんにフウロちゃんだ!」
隣に座っていたなまえがそれに気付くとテレビから視線を外し、自分の手元の雑誌を横から覗き込む。
がっつり覗き込んでくるなまえのおかげで雑誌は見えないが、なまえが密着するほど自分から近付いてくることはほとんどないのでノボリ的にはむしろ幸せ。
後頭部かわいい…というよくわからない悦に浸るノボリの耳に、聞き逃せない言葉が入った。
「フウロちゃん胸デカ。」
その途端、手に力を入れすぎて雑誌が縦に破けた。
まさか縦に裂けるとは思わずノボリも驚くがなまえはもっと驚いてオドオドしている。
「すみません!思わず!」
思わず。
つまり無意識に零れでた本音ということか。
黙りこむノボリに怒っていると勘違いしたなまえは「もうこんな下品なこと言いません!」と弁明するがノボリには聞こえていない。
「…なまえ様。」
「は、はい!」
重い声で名前を呼ばれたなまえは、自然と背筋が伸びる。
「わたくしが女性でしたらフウロ様にも負けません!!」
「あ、はい…って、えぇ!?」
まさかの告白になまえはひどくウロたえた。
あの流れから何故ノボリの「わたくしが女性だったら!」発言に繋がるのか理解できない。
「フウロ様にも負けぬ豊かな胸に、カミツレ様にも劣らぬ美脚であること間違いなしです!!」
なまえには理解できぬ思考回路を持つノボリだが、彼自身は無茶苦茶なことを言っているという自覚はなかった。
もうなまえの興味を自分に向けるのに必死過ぎて自覚など何処ぞに捨ててしまっている。
「そ…そうですね!すっごい絶世の美女になると思いますよ…!?」
この爆弾発言の意図がわからず、なまえは取りあえずノボリを落ち着かせようと話を合わせるのだった。
思えばこんな不謹慎な発言がこの事態を招いたのだろうか。
…挙句の果てに、胸は貧乳…。
ぼんやり過去の回想をしていると、クダリがなまえを襲い始めた。
逃げようとして倒れこんだなまえの胸にクダリの胸が乗っかっている。
ノボリの頭の中でプチン、と音を立てて何かが切れた。
「クダリさん…胸、重い…凶器ですよこれ…!」
「なまえが逃げるからだよ。」
「…クダリ。」
名を呼ばれると同時にクダリの頬にひんやりとした金属が当てられた。
幼い頃より聞きなれた兄の声は、今では女性の澄んだ声音になってしまっている…が、クダリには兄が相当頭にきた時の声音であることがわかった。
「胸をお出しなさい…抉ります。」
振り返れば、頬に当てられた金属はノボリの持つ出刃包丁であった。
「わぁ、その包丁で?」
刃物を突き付けられてもなお、クダリは怯えの表情など知らないとでも言うようにいつも以上に口角を吊り上げた。
ノボリさんがついにヤンデレ化した…!
整った顔立ちに怒気を含ませ、美女が包丁を持っている姿は凄まじい。
ついに恐れていたノボリのヤンデレ化になまえは震えが止まらない。
クダリは震えるなまえにギュッと抱きつくとノボリから距離を取った。
もちろんノボリの神経を逆なでするために。
「クダリ!なまえ様に胸を押し付けるのはお止めなさい!!」
「当ててるの。自分の胸がかわいそうだからってひがまないで!」
眉間に皺を寄せ、歯ぎしりするノボリに対してクダリは余裕の表情で笑っている。
ブチ切れる美女と輝くような笑顔を振りまく美女に挟まれたなまえは嫌な汗が止まらない。
「落ち着いてノボリさん!おっぱいに罪はないです!」
どんなセリフだ、と自分で自分にツッコミながらも必死の思いでなまえは言った。
するとノボリの目にじんわりと涙が溜まってゆく。
「ですがなまえ様は豊かな胸が好みなのでしょう!?」
「否定はできない…!」
「…なのにわたくしは…!」
涙こそ零さないが、かなり感情が昂ぶっている。
体が女性化してしまったせいもありノボリはいつもより神経が過敏になっていた。
今がチャンスとばかりになまえは包丁を取り上げる。
「落ち着きましょう、ね!?(ヤンデレだけは困る…!)」
包丁を取り上げられたノボリは俯き加減に無言で数秒思案すると、なまえ達に背を向けてリビングを出て行こうとした。
「…わたくし、豊胸手術して参ります。」
「いやいやいやいやいや…!!何故そうなる!?」
あの数秒の間に大きな決意をしたらしい。
ドアノブに手を掛け出て行こうとするノボリの腰に抱きついて阻止しようとするが、たいして意味もなくなまえは引きずられる。
「待ってー!行かないでー!」
「必ずやなまえ様の理想とする女性になってみせます!」
「やめて!私そんなの望んでないぃー!!」
「それまでどうかわたくしに時間を下さいませ!」
「お願いもっと冷静になって!思い切りがよすぎる!!」
「ねぇ僕まだなまえのおっぱい揉んでないー。」
「クダリさんも止めてよぉ!」
この地獄絵図のような状況に飽きたクダリさんがぶーぶー文句たれながらソファーに寝転がる。
頼りにならない…!
あんたのお兄ちゃんにおっぱい付いちゃうんだぞ!?
「豊胸なんかして、体が元に戻ったときどうするんですか!?」
ノボリさんの細腰に抱きつきながら、私は説得を試みる。
が、何を言ってもノボリさんは「大きな胸が好みなのでしょう!?」の一点張り。
ノボリさんの中で私っておっぱい好きで固まってるの!?
どちらかと言えば好きだけど、だからってノボリさんにおっぱい付いても嬉しくない!
どうすればいいんだこの思考回路ぶっ飛びな頑固者。
ノボリさんの言う理想の女性がなんなのかわからないけど、とにかく豊胸手術だけは止めなくてはいけない。
「ハァ…ハァ…あの、聞いてくださいノボリさん。わ、私、小さなおっぱいだって好きですよ!?」
ポロポロと大粒の涙を零し始めたノボリさんを逃がさないよう両腕を掴み、言い聞かせるように言う。
この息切れ具合が変態さを加速させている…。
「……本当ですか?」
アホみたいなセリフのせいで恥ずかしさから顔を真っ赤にして言えば、ノボリさんがようやく別の反応をしてくれた。
もうひと押しだ。
「えぇ本当です!クダリさんが巨乳担当なんですから、ノボリさんは貧乳担当です!だからそのままのノボリさんでいて下さい!」
「なまえ様…!」
あんなヤケクソ気味なセリフのどこに感動したのか、ノボリさんは嬉しそうに微笑むと私の両手を力強く握りしめた。
「わかりました。わたくし、なまえ様専用の貧乳担当をお受け致します!」
微笑む美女の長い睫毛にかかった涙がキラキラと輝く。
「わぁ〜嬉しい〜…。」
人として大事な何かを失った気がする。
あれなんだろう涙出てきた。
「隙あり!」
「ぎゃ!?」
やっと場が落ち着いたのも束の間、背後からがっつり胸を鷲掴みされた私の口から女とは思えない叫び声が上がった。
背中にクダリさんの爆乳を感じる。
振りほどこうにも両手をノボリさんに握られている私は完全に無防備だった。
しかもノボリさんは…
ぎりぎりぎりぎり
人としての尊厳を犠牲に払ってまでヤンデレ化を阻止したのに歯ぎしりと共に再発してしまった。
「包丁…出刃包丁はどこです!?」
「それよりクダリさん止めて下さい!…あ、ちょ、あ、やめ、指動かさないでぇぇぇ!!」
ちなみに次の日になったら2人とも元に戻ってた。
この騒ぎのおかげで私の胃はストレスに負け、穴だらけとなる。
「…なまえ様、ご一緒にお酒でも嗜みませんか?」
「遠慮させていただきます。」
「では明日など如何です?」
「暫くお酒は控えます。」
「…これではB以上進みませんね…。(ぼそ)」
「!?」
そしてあの一件以来、妙にノボリさんがお酒を勧めてくるようになった。
誰がZまでさせるものか。
…平穏な日々を過ごしたいです…。
11.4.23
おっぱいがいっぱい
[ 4/33 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]