責任その7


小指の代わりに私を生贄に出そうとするクダリさんと騒いだせいで、
管理人のおじちゃんに2度目のお叱りを受けてから私達は荒れた部屋を3人で片付けた。


暴れたせいで出てきた細かいホコリをホウキで掃いて集めていると、家具の位置を直すノボリさんが目に入る。
帰ってきて早々、バトルの上に部屋の掃除でさすがのノボリさんも疲れた顔をしていた。
明日も仕事だろうに。


「ノボリさん、あとはやっておくんでお風呂入ってきて下さい。」
「ですが…。」
「疲れた顔してますよ。気にしないで入っちゃって下さい。」
「…ありがとうございます。」


ノボリさんが気を使わないよう努めて明るく言うと、素直に頷いてくれた。
けどノボリさんは眉をしかめて「しかし…。」と言ってクダリさんを見る。


「なーに?」


ノボリさんの視線を受けて、ニコニコしながらクダリさんが首をかしげた。


「クダリとなまえ様を2人きりにはできません。
…今度は何をされるやら。」


クダリさんを見るその目は、不審者を見る目に近かった。
実の弟に向ける目線じゃない…。


そんなに頭にくるものだろうか。
確かにクダリさんはスキンシップ激しいけど、それは私にだけではないし。


…嫉妬してるのかな…。
いまいち実感がわかない。


「次は何をしようかな?」


視線の意味をわかっているだろうに、クダリさんがわざわざノボリさんを挑発する。
わかっててやってるからたちが悪い。


ギリギリギリギリギリ…


またノボリさんの歯ぎしりが再開した。
怖いので止めて欲しい…。


「…ということでさようならクダリさん。」
「えー!僕も一緒に寝るー。」


またオノノクスのげきりんをお見舞いされたくはない。
力付くでごねるクダリさんを追い出した。










ノボリさんがお風呂から上がってきたので、きりの良いとこで終わらせた。
残りは明日にでも回すことにして、さっさと寝よう。




「明かりを消しますよ。」


「…あの〜…。」
「どうしました?」


「枕が2つあるんですけど。」


私の布団には、ノボリさんの枕が置かれていた。
私の枕と並んで…。


「あぁ、わたくしの枕です。」
「知ってます。」


私の質問をそのまま捉えた答えを返される。
質問の意図に気付かず答えているのか怪しい。
意外と打算的な人だし。


「そうじゃなくて…ベッドで寝ないんですか?」


そうでないと、わざわざ私を豪華フルーツポンチで釣ってまで布団を移動させた意味がない。
改めて率直に聞くとノボリさんは今、理解しましたという雰囲気で「そういう意味でしたか。」と言った。


「最初はわたくしも布団を床に降ろして、なまえ様と並んで寝るつもりでした。
ですがクダリがなまえ様と一つの布団で寝たのです。
それでわたくし達が別々に寝るなどおかしな話だと思い、なまえ様と布団は一つ、枕は二つで寝ようかと…。」


「恥ずかしいんでそれ以上言わないで下さい…。」


妙なフレーズに私は顔が赤くならないよう必死で心を落ち着けた。
気を紛らわそうとオタマロの顔を思い描く。
平常心、平常心、平常心…よし。


よほどクダリさんのことを根に持っているらしい。
クダリさんめ、余計なことをしてくれたものだ。


頭上からノボリさんの「消しますよ」という声が降ってくる。
見上げればノボリさんが明かりを消そうと、照明から垂れたスイッチのヒモに手をかけていた。
マズイ。
このままでは布団は一つ、枕は二つで朝を迎えなくてはならない。


「私、抱き枕ないと寝れないんです!」


だから狭いじゃないですか!と暗に言ってみた。


「…その抱き枕は今どちらに…?」

「えーと、その、ジャローダが抱き枕がわりになっていて…。」


ジャローダの入ったモンスターボールがカタカタ揺れる。
ジャローダの「抱き枕にされた覚えねーよ!」という驚いた顔が目に浮かんだ。


…最近そんな役ばっかで、ごめんねジャローダ。


「…そうでしたか。」


こんな苦し紛れな私の嘘を信じてくれたらしい。
私の安眠は守られた!


「じゃ、私はジャローダと寝ますので…。」


嘘だったけど、ああ言った手前ほんとにジャローダと寝るしかない。
あげ足取られては困るし。


でもよく考えたらジャローダ3mはあるんだった。
タブンネちゃん辺りにすれば良かったな…。


ジャローダの入ったモンスターボールに手を伸ばす。
しかし私の手がボールに触れるより早く、ノボリさんが腕を掴んだ。


「わたくしに良い案がございます。」


イヤな予感しかしない。
そう言われたからには聞くしかないので、私は「なんですか、その案って…。」と嫌々聞いた。



「わたくしが抱き枕の任をお受け致します!」



「勘弁してください!」



キリッとした顔で言われた。
お風呂入る前の疲れた顔はどこへ行った。


「なぜです?共に寝ることもでき、あなたは抱き枕を得ることができるのですから一石二鳥です。
これ以上の案はございません!」


ノボリさんの纏う雰囲気が輝いている。
本気でイイ案だと思っているらしい。
これが普通の人だったら今頃ドヤ顔していることだろう。


危険を感じた私は本能的にノボリさんから距離を取ろうとするけど、腕を掴まれてそれは叶わなかった。
とにかく何か言わなきゃ、と思った私はあらん限りの理由を挙げてみる。


「私、寝ぞう悪くて!」
「クダリでなれております。」


「歯ぎしり激しいんです!」
「寝付きは良いほうです。」


「よだれたらすかも…!」
「お拭きします。」


女捨ててまで嘘ついたのに、ノボリさんは眉ひとつ動かさない。
ていうか献身的すぎて怖い。
頭をひねってなんとかノボリさんに効果的な言い訳を考える。


「問題ないようですね。明かりを消します。」


ノボリさんが照明のスイッチに手を伸ばした。


「わー!待って待って!あと1分考えさせてっ」
「おやすみなさいませ。」


私の懇願は無視され、非情にも部屋の明かりは消された。


…よく考えたら、初日の夜に私の寝姿を見ているのだから
ジャローダを抱き枕にしていないことはバレていた。











あれから一時間は経過しただろう。
案の定私は眠れなかった。


ノボリさんが隣にいるのもそうだけど、それ以上にいつもするいい匂いが鼻について気になってしまう。
お風呂上がりなせいで余計だ。


どうしよう。
疲れているから眠りたいのに神経が昂ぶっていて寝かせてくれない。


隣にいるのはノボリさんじゃない、黒髪清純派美少女だと思えばいいんだ!



黒髪美少女
黒髪美少女

黒髪美少女
黒髪美少女

黒髪美少女
黒髪美少女…。


ダメだ!それはそれで興奮する!



ノボリさんとは逆の方向に寝返りを打つ。
ノボリさんの色香(?)が感じられなくなった。
くだらない自己暗示よりも、よほど効果がある。
これで安心して眠れる。


一息つくと、掛け布団がめくれて、一気に冷気が入り込んできた。
ノボリさんが起き上がったらしい。
トイレに行くのかと思っていたら、突然部屋が明るくなった。


「…ダメです。」


照明のスイッチのヒモを握ったまま、ノボリさんが重く呟いた。


まさか漏らしたのかノボリさん!?
クダリさんならともかく、あのノボリさんが!


とだいぶ失礼なことを考えながらノボリさんを見る。
明かりの下に立っているノボリさんの顔がなぜか赤い。


「…軽率でした。よく考えもせずこのような行動に移すとは…。
なまえ様の布団が、まさか…。」


ノボリさんは照明のスイッチを握ったまま、ぶつぶつ独り言を言っていた。
私の布団?


「…私の布団、何か問題でもありますか…?」


至って普通の布団なのだが。
恐る恐る聞くと「大有りです!」と力強く言われた。




「…どこを向いてもなまえ様の匂いがして落ち着いて眠れません!」



落ち着いて眠れない…?
つまりノボリさんの匂いが気になって眠れなかった
さっきの私と同じ状態だったということ?


言葉の意味を理解した途端、さっきは我慢できたのに私もノボリさんと同じくらいにぶわっと赤くなった。


「あぁ…そういうことですか…あは、あはは…」


どうすればいいかわからず混乱してとりあえず笑ってみる。


ダストダスの匂いじゃないですか!?


なんて自虐ネタを言おうとしたけど、できなかった。
そんな雰囲気じゃない。

だってノボリさん、本当に顔が赤い。
耳も首筋も赤くて。
目も潤んでいる。


溢れでる色気を抑えられませんって感じだ。
女の私以上に色気があるんじゃないか?


そんなノボリさんに無言で見つめられて、私は息を止める。
鼓動の激しさのあまり動きすぎた心臓が痛い。


ふいに、ノボリさんが赤い顔で溜息を吐いた。
ただの溜息なのにドキドキするのは何故だろう。


何かを払拭させるように軽く頭を左右に振ると、ノボリさんの顔色は正常に戻っていた。


「わたくしのベッドで寝ましょう。」
「…え!?」

「さぁ、早く移動して下さい。
夜も遅いです。早く寝ましょう。」
「え、あ、はい。」


何事もなかったようなノボリさんに、押されるようにベッドへ移動させられるとパチンと明かりが消されてしまった。


「それでは、おやすみなさいませ。」
「…おやすみなさい…。」



…あれ?
流されやすくない?私。


ノボリさんの布団は、仰向けになっても横向きになってもノボリさんの匂いがして。
今度は私が眠れなくなってしまった。







「ノボリさん、こっちに寄りすぎです。
仰向けになれないくらい狭いんですけど…。」
「なまえ様がどんどん壁に寄っていくからです。」
「追いかけてこないでください!」
「…そういえば抱き枕になさらないんですか?」
「しませんっ。」


匂いがダメなのに、抱きつくのは有りなのかノボリさん。






11.3.21

ノボリさんの葛藤。
それにしても長い夜ですね…。





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