責任その4

一通り荷物の整理も終わり、私はすっかり疲れて風呂も入らず布団に潜り込んだ。
長い旅生活になれてしまったおかげで、天井と布団のある生活が落ち着かない。
寝袋さえあれば草の上でも岩の上でも眠れるのだけど・・・。
頑張って寝ようとするのだが、結局寝られず私は寝ること自体を諦めた。

ノボリさん達のマンションはカナワタウンにある。
クダリさんは同じマンションの隣の部屋に住んでいた。
勝手に2人は同居してるもんだと思いこんでいたのでちょっとびっくり。
でかいマンションを見る限り、いいお給料貰っているみたいだし別々に住むのは当たり前なんだけど。

クダリさんて1人で生活できんのかな?
生活能力値マイナスな気がする。
だからこそノボリさんが世話をするために隣に住んでいるのかもしれない。

私に宛がわれた部屋は、狭さを感じないくらいに適度に広い。
私の持ち物が少ないこともあるけど。

お昼に私の荷物の搬入を手伝ってくれたノボリさんは、午後からギアステーションに出勤した。
まだ気を許せていない私は1人になれることに内心ホッとしつつ、忙しい中仕事を抜け出してきてくれたことに感動した。
夕方、早番だったクダリさんが帰ってきて、遊びに来たときはげんなりしたけど・・・。嵐のような男だった。

そんなことを考えながら2,3時間もごろごろしていると、鍵の開く音が響いた。
ノボリさんが帰ってきたのだろう。
お帰りなさい、って言ったほうが良いかな?

でもようやく昂ぶった神経が落ち着いてきて、うとうとし始めた私は布団から出る気がしない。
今日はいいか。1時過ぎてるし。向こうも流石に私が寝ていると思っているだろう。
都合の良い言い訳をつらつらと上げる。
遠くで控え目なノックの音がするけど、落ちかけの意識が「気にすんな!」と言っているので眠ろうとした。

そのとき。
扉が開いた。
正確には扉が開いた音なのだけど、その音で私の意識が覚醒する。

何か用だろうか。
さっき聞こえた控え目なノック音が、私に向けられていたことにやっと気付いたけど遅い。
気配がこちらへ近づくのがわかる。
色んなタイミングを逃して、目を瞑ったままの私は自然と寝たふりをしていた。

眉間に皺が寄らないように、さも自然に寝ているよう必死で私は努力する。
ノボリさんの気配は近づいて、さらに近付いて、止まった。
多分これで目を開けたら、たいして手を伸ばさなくても触れるぐらいの位置にいる。

こんな夜中に、何の用だろう。
・・・いや、まさかな。
まさか、そんな、貞躁の危機じゃ、ないよね。
向こうはだいぶお堅い考え方の持ち主だし。
むしろそーいうことは結婚してからだと思ってるはずだし!

必死に自分を落ち着かせようと、言い聞かせる反面。
いざというときは目を狙おうと、急所を突く準備をする私もいた。
(後から思えば新たな責任が発生するところだった)

ついこの前まで各地を旅していた私の身体能力をなめないでもらいたい!
火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、あのコのスカートの中・・・は止めておいたけど。

しかしこういうときに限って、鼻がかゆい・・・。
前髪が鼻にかかって、ムズムズする。
壁側を向いて寝なかったことに、激しく後悔したのはこれが初めてだわ。

なんてシリアスな場面になれていない女だろう、と思った矢先。
顔にかかる前髪を整えられた。
突然触られてじゃっかんビクついたけど、向こうには伝わらなかったらしい。
クダリさんに乱雑に整えられたときとは大違いに、丁寧に前髪を分けられる。
くすぐったくて身をよじりそうになるのを我慢した。

「・・・。」

手が引っ込んでも、まだノボリさんはそこにいる。
かなり無遠慮に私の顔を覗き込んでいるのだろう。

いきなり目を開いてやったら、あの鉄面皮をびっくりさせられるかも。
しかし私がそう思い始めて間もなく、ノボリさんの気配は遠ざかっていった。

・・・なんだったんだろう、一体。

扉が閉まる音を聞き届けてから、とりあずムズムズしていた鼻を掻いておいた。


[ 8/33 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -