夜更け


夜が更ける。

厚めに着た衣服でさえ、その熱を持とうとはしなかった。



「……さみー」



ふっ、と息を吐く。

家の中だからか、その空気は白く無かった。



今日は自棄に眠れない。
毎日の部活練と自主練で、
身体はここぞとばかりに疲れきっているはずなのに。




何をしてんのかねぇ、本当に。

明日普通に学校だっての。



身震いに驚く。
まだ冬に入ってもいないのに、今年は寒さが特別か否か。


否って言葉格好いいな。
どうでも良いか。



そう言えば、あの格好いい我がエースは
マフラーを持ってきていた。


早くね?と思いつつも、冷え性なのか重装備。



「今日のラッキーアイテムはマフラーなのだよ。」



とは言っていたが。
季節を少し外れている。



端正な顔立ちからは思いもつかない可愛い趣味に
最初は興味の対象だった。

それと同時に、倒すべき存在が此処秀徳に居たことに驚愕した。



負けられない。そう思って
日々の自主練に付き合う。

今日も、きっと明日も。





「…っぇくしょい!!」



夜中の寒さは格別だ。
日中の、段違いの気温に振り回され
人間は自然を淘汰出来ないことを再認識した。




布団に潜っても、いまいち眠気は襲ってこない。
退屈のあまり雑誌を読んでみるが、
何度も読んだから中身を覚えてしまっている。


本当にやることが無い。





と、ふと自分の携帯が光っているのに気付いた。
メールが来たことを知らせる点滅光。


中を開けば、最も親しい友人、緑間真太郎からだった。



送られたのは9時頃。
多分飯か何かを食べていた。



中身はなんてことはない、部活の連絡網だった。


一応、ありがとうの返事を返す。

もうこんな時間だ。来ても起きることはないはずだ。







「♪」




突然鳴った着信音に身体がびくつく。


もしかして、起こした?


携帯に飛び付き、手早く受信ボックスを表示した。



『起きていたのか』



単純かつ明解で拍子抜けな一文。


これをわざわざ送りにきたのかと
なんとも意味が分からなかった。




『ごめん!起こした?』



返信に困ったのでとりあえず謝る。


返事はすぐに来た。



『眠れない』



俺と一緒かよ。
何これ偶然?



『運命なのだよ』



と、ふざけて返してみる。



『馬鹿め』



大分心に刺さった。
やだ真ちゃんの馬鹿。



その後も、細々と簡単な会話を交わしていく。
宮地先輩が怖かったとか
スポドリのメーカーのこだわりとか。



大した会話でも無いのに、なんだかすごく楽しくて。

やっぱ親友だからかなーとか考えて。



『今日は冷える』



時間を見れば、もう四時頃だった。

時が経つのは早い。



『朝はつらいねー』



だんだんと白んでくる空を眺めながら
窓をこっそり開け深呼吸。

冷たい大気が身体を巡る。


『今日はマフラーを持ってこい』



……?

急に何を言い出したのだろう。



『何で?』



わりとすぐに返信がくる。


『朝イチのおは朝占い、蠍座はマフラーがラッキーアイテムだ』



四時頃には始まってるのか。
ちゃっかり自分の星座を見てくれていた。

そしてマフラーがもうラッキーアイテム入りしているのは本当だった。


でも。



『俺マフラーまだ出してない』



確か冬物はまだクローゼットの中にある。
あの中から探しだすのは困難の極みだ。



『そうか』



その一言で、話題が消えた気がした。

もうメールは終わりだな。
パチリと携帯を閉じた。










「♪」



先程と同じ感覚に捕らわれた。

びっくりするから!



内容は終わったつもりだが、一応表示。



『俺のマフラーを使わせてやるのだよ』




頬が思わず緩む。
朝の匂いが、より一層心地よく感じた。








夜更け


ちゃんと寝ないと身体に悪いです
次の日宮地先輩に怒られる1年コンビ



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