exchange swap #1



忘れてくれ、あれはただの悪夢。
神様が気まぐれでいたずらかましただけだから

いやマジで。








青空がやけに澄んでいるとある日。

意味深な雰囲気、というか
異様な雰囲気、と表すべきか

今日は朝からギアステーションが騒がしかった。

その日騒いでいたのはバトルトレインの駅員達である。

誰しもが不安そうな表情と同時に、どこか楽しそうな顔をしていた。



「ヤバくないか、アレ」

「ちゃんと戻れるのかな」

「つーか、何が起きた?」


皆が話しているのは一つ。










「ボス、中身が入れ替わってるってマジ?」







Centre&クスポント。
彼らはバトルサブウェイの車掌であり
また、サブウェイマスターという特殊なバトルの代表者であった。



駅員が親しみを込めて呼ぶ名は"ボス"。


そして、今日そのボスが入れ替わっている(?)という知らせを聞きつけて、非番の駅員まで飛んでくる始末である。

ギアステーション内が、全てその話題で持ちきりとなった。






そして、当の本人達だが




管理室で見事な険悪ムードに包まれていた。



「…あぁあぁ、マジ、マジ、俺クスなの?え?」

「おっま、俺とか泣きたいんだけどほんとどうなのよコレ」

「知るか。…うっわあ…クスのくせに髪さらさらだ…」

「俺がさらさらじゃ悪い?
お前のコンタクト入れるの苦労したんだぞ馬鹿野郎」

「経験が無いだけだろこの童貞」

「どっ」


髪を誉められつつ罵倒されたクスポントの堪忍袋の尾が切れる。


「俺は童貞じゃねえよ!!!何なら今からお前を犯してやろうか!!!!」

「ボスー、挑戦者が最終列車に乗りまし……
やだ、そう言う関係だったんですか!?
失礼しました!!」

「「逃げるな待て!!!」」



管理室に入った駅員がクスポントとCentreに襟首をつかまれてもだいている間、ざわざわと扉から数人の駅員が顔を覗かせた。



「すげえ…ほんとだよ…」

「白ボス…なのか…えと、クスポントさん?え、あ、Centreさんですか?」

「でも案外似た者同士だから何時も通りで……」

「「いいわけ(ねえだろ)ないだろう!!」」



地下を二人の声がこだまする。

今日が最も不幸な日になるであろうことをひしひしと感じ取っていた。







「えーと、じゃあ、まあ、とりあえず準備をしてください」

やっと手放されて安堵する駅員。
また同時に緊張感を巡らせたCentreとクスポント。


駅員達はともかく、大切な挑戦者かつお客様にこの事態を知られたら面倒である。
いや、逆に良い経営になるかもしれないが、なにぶん彼らには女性ファンがとても多い。
下手をすれば自分たちの身が危ないと判断した。



一通り互いのセリフを練習し、手持ちは交換をする。


クスポントがCentreのサザンドラを出してみると勢いよく噛まれた。

Centreはそれを見、不安そうに口を開く。


「…これは…バレるんじゃないか?」

「私たちが頑張って食い止めますから!」

「もう来てるけどな。行くぞCentre」



黒いコートをひるがえしたCentre(クスポント)が靴を鳴らす。

白いコートをはたきクスポント(Centre)は立ち上がった。











「さて、次の車両からサブウェイマスターとのダブルバトルとなります。ご健闘をお祈りします。」

6両目の車両内に立つ駅員が連結扉に手をかける。

緊張している風に息を飲んだ二人のトレーナーが、7両目と足を踏み入れた。


「……!!?」


進み込んだトレーナーの先には……
ポケモンを周りに白コートの男と黒コートの男が怒鳴りあう状況である。


「なんっで俺の言うこときいてくんねぇのお前のレックウザは!!!」

「知るか!!お前の態度が悪いんだろう!!もっとレックウザに敬意を示せ!!」

「でも俺のシャワーズはお前にべったりだな!!何でだよ!!」

「……フッ」

「普段の俺よりよくなついてんじゃねぇか!!おいこら笑うな」

「!?…えっちょっとボスッ!?
お客様申し訳ございません少々お待ちくださいませ…!!」


ボス達の事態に驚いた駅員が早口でトレーナーに待機を促す。

トレーナーはおずおずと後退りをした。








「……お二人ともサブウェイマスターならもう少しコンビネーションというのをですね…」

「………自分の顔と喧嘩するのが辛い…」

「もう諦めるしかありませんよ。受け入れましょう」

「…………無理…」


そこで彼らの愚痴が届く訳もなく、朝から挑戦者とのバトルは始まる。

今日に限って着実に挑戦者が連勝を繰り返し、そのぶん二人のサブウェイマスターに出会った者は誰しも違和感を感じていた。

セリフを間違える、技名を間違える、自分の名前を間違える。客の中では様々な憶測が飛び交った。








正午。
昼休みの為に一旦仕事場から抜け出す。

ホームの中を歩く二人に、どことなく客は距離をとっていた。
しかし視線は止まない。
それをかき分けるようにCentreとクスポントは歩き続ける。




すると、不意にCentreは辺りをきょろきょろと見回し始めた。


「………どうした?」

「……いや…子供の泣き声がする」


そのまま人混みに混ざるように消えたCentreは、しばらくして小さな少女の手を引いてきた。

少女は泣きべそをかき、ヴォーグルのぬいぐるみを大切そうに抱きしめている。

Centreいわく、ホームで母親とはぐれてしまったらしい。
再び泣き出した少女に、Centreはしゃがみこんで慰めるように話しかけた。


クスポントがそれを眺めていると、後ろからすっとんきょうな声が聞こえた。


「おや!珍しいですねぇ!クスポントさんが迷子の面倒を見てらっしゃる!」


後ろを振り向くと、そこにはジャッジの姿があった。
クスポントは一瞬自分の事だと思ったが、自身の姿がCentreであることを思い出し、ジャッジの隣に立つ。


「…そう見えますか?」

「えぇ!普段はCentreさんがやってらっしゃるのをよく見ますから…今からお昼ですか?」

「…えぇ」

「そうですか!お疲れ様です!…いやー…ああいうクスポントさんも素敵ですね!」

「……そうですね」


軽く返事をしたクスポントの頭に、ジャッジの言葉は入ってはいなかった。
それは、自分自身が今までギアステーションに集う乗客と関わりを持ったことがほとんど無い、ということに違和感を感じた瞬間だった。


しばらくすると、少女と母親は再開を果たせたようで、Centreに笑顔で大きく手を振りながら去っていった。




昼休みも終わり、昼食を済ませた二人はデスクワークに取り掛かる。

Centreとクスポントは慣れた手つきでカタカタと打ち込んでいく。すると、クスポントは急にキーボードを叩く手を止めた。
そして、椅子から立ち上がりコートを羽織った。


「……クス?どこに行くつもりだ?」

「サボる」

「は!?何で…」

「いっつもサボってんじゃねえか。
じゃあな、仕事頑張れよ、"クス"」


そう言って、クスポントはCentreを一瞥し仕事場から出ていった。


「……なんだよそれ」


Centreは不機嫌そうなため息を洩らし、再びデスクワークに取りかかる。
が、しかし、普段からクスポントに任せきりだった書類作業は、やり方は分かっていても相棒の分までこなすにはかなりの重労働を強いられた。


…あいつは、これを俺の分も…毎日やっていたのか…




思わず手元が急ぐ。
急かされる指先にキーボードが小刻みに揺れた。








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