happy birthday.1




「生まれてきてくれてありがとう」


暗闇にたゆたうろうそくが
自分の心を淡く溶かしていくようだった














努力の末が実った、というか、たまたま行き着いた先がここだったのか、というのか。
サブウェイマスターといった職が出来たのは、丁度自分の代からだった。
先代もいない、完全な白紙からのスタートで。
裏を返せば、何色にも染められる自由な仕事に近かった。

しかし、その自由はすぐに相方のものとなる。








出会いは最悪だった。
いや、最悪にさせた。

あいつのガラス玉のような目が嫌いで。
つくった笑みに腹が立って。

こいつとなんか
仲良くしたくなかった。

なのに。


あいつは毎日昼食に俺を誘ってくる。
誘うじゃない、つきまとってきた。時々追われもした。


どこに行っても見つけ出される。見つかれば隣に座られる。

毎日毎日それを繰り返されて、怒るのも疲れていた。





嫌いだった。







特に何もないある日。
こいつはまた近付いてくる。


仕事は何とか上手くやっていた。挑戦者の前で喧嘩することもしょっちゅうだったが。
それでもバトルは楽しかったし、攻撃が二人でテンポ良く決まれば気持ち良かった。







二人で書類の処理をしている時のこと。

駅員は今ここでは数人しかいない。カチャカチャとキーボードを世話しなく打つ音が耳に入る。
隣で書類を書くあいつは、手を休めずに口を開いた。


「あのさ」

少し声を小さく。

「……何だよ」

目は合わせない。

「今日、何か用事ある?」

……急に何を言い出したんだ?
今日の予定は特に忙しいものは無かった。


「…別に無いけど」


それを聞きメグリは少しだけ嬉しそうに、そっか と言った。


「よし、残業にならないようにしねえとな!」


そう言い、右手に持つペンをくるりと回す。

デスクワークを嫌がることが無いのはこいつの唯一の長所…だと思った。










「お客様!お気をつけてお帰りください!」

その日最後のバトルを終え、挑戦者が下車するのを確認する。
バトルサブウェイが終わる時間帯は、普段のトレインの最終電車と何ら変わりは無い。

外は見えないが、今日はカナワの辺りが星で埋め尽くされるのだろう。




乗客が残っていないか見回りの準備をする。


「……お疲れ!」


駅帽を取った俺に、メグリはぽんと肩を叩いた。


「……今日お前5戦目しくじっただろ」

「あっ…あれは…ちょっとなんかこう…な?」

「お前のアブソル…疲れが溜まってんだよ。さっさとブリーダーのとこ連れてって、ケアでもしてもらってこい」

「うーす…」

「自分のポケモンの体調管理ぐらいちゃんとしとけ」


響く滑車音の中を二人で歩きながら話をする。


「んじゃ、俺こっち行くから!」


4両目の中央で足を止めた。


二人で見回りをする際は、4両目から上車両、下車両と互いに別れてチェックをしている。
俺は下車両を落とし物が無いかもう一度確認して、終わればそのままホームに戻ることになっていた。


「……転けんなよ」

「うはっ 心配してくれて「もういい事故れ」ひっでぇ!!」


5両目へと向かう連結扉に手をかける。
回送列車の無人の静けさは独特の空気があって、自分は好みだった。










ゆるるかに走る車両を歩き、しばらくすれば残りは7両目だけとなった。


そろそろ電車もライモンに着くころだろう。先頭から小さなブレーキ音が聞こえてくる。

身体が揺られないように少し壁に寄った。

点検は終了。後は到着を待つだけだ。













ブツッ


「ッ!?」



電車が到着すると同時に車内の明かりが消えた。
それに連動するかのように、窓から見えるホームも次々と照明が落ちる。






………辺り一面の暗闇………



不意に足元が不安になり、手すりを掴んだ。

…何が起きた?…故障か?

大きめの声でメグリを呼ぶ。

返事はない。





「……ったく…何だってんだ…」




その時、電車のドアが音をたてて開いたことに気付いた。



そして、開いたと同時に、扉の前に揺らめく淡い光を見た。



小さめで、青い炎は…










「……モシッ」






「……は?」




ヒトモシはよちよちと近付き、俺に手を差し伸べた。





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