歩き続けて少し経ちます。
広すぎる真っ白な廊下は、果てまでがかなりの長さでした。
また、そこも連続して大きなガラス窓が並びます。
よくよく観察して気付きましたが、これらの窓には開けるための鍵がかかっていませんでした。
はめ込んだだけのガラスの向こう。ここは3階辺りなのでしょうか。
下を覗けば、気の遠くなるような広大な森がうっそうと黒く生い茂っていました。
やはりポケモンの姿は見受けられません。
今この場所も、人の姿は目に出来ませんでした。
しばらくすると、トイレに着きました。
ドアノブは少し錆び付いています。
誰か居ないかと確認のつもりで入りました。
大きな鏡。
自分の姿が写ります。
私は、白衣に似た綺麗な服を身に付けていました。
例えるならば大きな一枚のシャツのようです。
脇腹近くにはポケットが1つ取り付けてあります。
確か、クダリも似たような真っ白な服を着ていたはずです。
左肩の袖口には、"B"の文字がマジックか何かで施されていました。
ゆっくりと鏡に顔を近付けます。
……髪…、…眉…、…瞼……、…睫毛…、…鼻…口……。
特に異常はありません。怪我の痕も見受けられません。
すると、ぱちりと、鏡越しの自身と目が合いました。
自身の、金色に鈍る瞳孔…。
生まれつき、私の眼は右目が灰色、左目が金色、と色違いの非常に珍しいものでした。
医学的にはこれを金銀妖瞳、"ヘテロクロミア"と呼ぶそうです。
同等にクダリも金銀妖瞳の症状を担っていました。
弟の場合は、右目が金色、左目が灰色と、私とは反対の色合いをしています。
サブウェイマスター就任後すぐは、周囲から奇異の目で見られることが多々ありました。
「……誰もいらっしゃられないようですね……」
結局、トイレには人影がありませんでした。
その場を後にします。
一通りこの階を確認したところ、人の気配は閑古鳥が鳴いたようにありませんでした。
病室もいくつか見ておきたかったのですが、鍵がかかっているようで開くことは許されません。
…私たちだけなのでしょうか。
そう思うと、少しだけ心がざわつきました。
…一つ下を降りてみよう。
何かわかるかも知れない。
私は、奥の階段に向かって歩きました。
階段に通ずる廊下。の手前。
物陰に隠れるように小綺麗な台を見つけました。
クッション材がひいてあるそこには、長方形の箱を置いていたような痕跡があります。
その長方形の小ささは、クダリが持っていたオルゴールを彷彿とさせました。
そして周りには、ガラスケースの破片が一面にぎらぎらと散らばっています。
何か固いもので叩き割った跡のようでした。
………クダリがやったのでしょうか…
その場を過ごし、私は、下の階へと足を踏み入れました。
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