ピッ…… ピッ………… ピ………ッ…… ピ…ッ………ッ……… ピッ…―――………
瞑った記憶の無いまぶたを開けました。
きりりと被さる光に思わず目を閉じます。
照明が瞳に馴染んだころ、もう一度開きます。
白い天井が目の前に広がりました。
………おかしいな……。
……先ほどまで仕事をしていたはずなのに…………。
自身の体は横たわっているようでした。
手元を持ち上げると、手首から包帯が巻かれ、細く赤い筋の通る半透明のチューブが映ります。
視線を右にそらせば、点滅する電気的な光が見えます。
清白とした景色と、どこか色味の感じられない太陽。
その光が窓に反射して部屋を青白く照らして。
響くのは脈拍数計の一定で狂わない信号音だけでした。
…――何が起きて、いる………?……
ふと、弟を思い出しました。
クダリは何処でしょうか。
目玉だけをぐるりぐるりと動かして探してみます。
そうすると足元に弟の銀色の髪が見えました。
自分が寝ているらしきものに手をついて起き上がりました。
案外身体は自由が効くようです。
寝ていたモノに体重を乗せると、ぎしりと歯軋りのような音をたてました。
彼が気になったので背中をほんの少し伸ばして首をもたげるように覗き込みました。
弟は自分に背を向け何かをしているようでした。
そっと、声をかけると
今は10時23分だよ と
振り向きもせずに言います。
ああ、時計でもあるのかと思って、辺りを見渡しました。
見当たるものは見つかりませんでした。
どうやらここは病室のようです。
白く光沢のあるシーツが丁寧にかけられたベッドがあります。
窓の棚にはあまり見かけない植物の鉢が置いてありました。
中の植物はまだみずみずしさを保つように、ぴん、と葉は上を見上げています。
弟とは向い合わせのベッドとなっていて、
彼は自分の目の前で身体を私に見えないように向けていました。
何をしているのか気になったので、病床からそっと下ります。
点滴の枝を掴みがてら
足元のスリッパに履き替え近付きました。
「……何してるんですか?………」
「…別に。」
彼の手元からは、小さな白いオルゴールが見え隠れしました。
外側の削り込みは細かく、とても上質なものであることがわかりました。
しかし、それはドライバーを使われたのか細かくねじが散らばり分解されていました。
「 ………何故バラバラに?………」
「……別に。
いいじゃん。」
弟の淡々とした声と音量は部屋の中に自棄に響きます。
「……後で、それ、直していただいたら……私…鳴らしてみてもよろしいでしょうか?………」
その時、弟はぐるりとこちらを振り向きました。
「だめッッ!!」
白い部屋に響く大声。
彼は強い形相でこちらを憤怒に近い表情で睨みます。
ぐっと力を込めたような声色で。
手がオルゴールを隠すように指を這わせ包み込んだのがわかりました。
「……も、……うしわけ、ございません…」
私はその迫力に気圧され、恐怖故か思わず口をつぐんでしまいました。
その次の言葉も見付けるに探しきれる脳味噌では無かったのです。
そんな私の表情を見て、クダリははっとした後、再び背を向け言いました。
「ノボリは駄目だよ。」
…―思い出してしまうからね…
あの時、
彼がそう言った意味はわかりませんでした。
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