浸食







からからに乾いた部屋と

抱きしめたかった暖かい身体


がぶり、と聞き慣れない音が


自分の心を埋めていく


うすらうすらに消えていく景色




お前の愛に
取り込まれてしまいたいと思った








何時からだろうか

こうも歪んでいたのは


何時からだろうか

これを幸せだと感じたのは





修正液にまみれた過保護

削って落とせば気狂いに


世間の不条理に飲まれないこの形は


紛れもなく愛であることに変わりは無かった








「これでもう、俺から離れられないよな」




そう言って笑った、お前



悔しげの涙も
絶望の濤(ナミ)も
流さなかったのは何故だったんだろう




お前がそう望んだのなら
今の俺には


抱きしめる腕がなくても


一緒に歩める足を失っても


涙の粘膜も必要無くて





「…………馬鹿」





それどころか


ふつふつと沸き上がるこの想いは

芳しく、心地好く、甘美な熱さがあって







ああ、今、愛されている






そんな想いがあった











でも一度

すがりつく手が無いことに泣いたことがある

自らの想いを伝えられないことに

自身から、熱を与えられないことに






そう言うと、お前は笑う



優しげな、子供のような表情を見せる



「大丈夫だよ」



その顔を見れば不安は無くなる
ずっとずっとそばに居てくれることを確信する









ずっとずっと そばに












ねっとりと絡み付く赤い糸が

お前の舌の上で踊る

恍惚の表情でそれをなめあげる


俺が見上げれば、また笑う

無邪気でいとおしい笑顔





伸ばす腕も、絡める足もない今
季節と愛情は、揃いも揃って急ぎ足をした


それがこの結果


俺の全てが欲しいと言ってくれたあいつの望み




「誰のところにも行かねえよ」




行けねえよ



まるで甘い果実を食べるようにお前のむさぼる姿が愛しくて

食べられるそれは俺の一部で


俺の愛で。





からからに乾いた部屋と

抱きしめたかった暖かい身体


がぶり、と聞き慣れない音が


自分の心を埋めていく


うすらうすらに消えていく景色


微かに映るメグリの顔と
愛してる、の言葉



お前の愛に
取り込まれてしまいたいと思った










「これで、ずっとずっと、一緒だな」



浸食


*****
やんでれどころじゃないです。かにばっば。
愛が足りないなら愛を食べればいいじゃない的発想のメグリさん。

かろら様のメグリさん、にちりん様のイゥスさんを借りました。
ありがとうございました!



 back
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -