ドキドキ訓練
ポルシェ356Aの中。
私はいつも後部座席に座っているが、今日はウォッカがいないため助手席に座っている。
ジンがいつもより近くにいるせいか、私の鼓動は最高潮に達しているわけで。
ついジンの横顔をチラチラ見てしまう。
「着いたぞ。」
見ると、そこはとても銃の訓練所には見えないバーがあった。
「え?ここなの?」
「まぁついて来い。」
言われるがまま私はジンの後についた。
バーの中は、そこらへんにある普通のバーと同じだった。
マスターは気のよさそうな顔をした人で、凄くにこやかだ。
「おや?珍しいですね。女性を連れて来るなんて。」
「今日は、こいつをしごいてほしい。」
「ほぅ。この子を。…よほどお気に入りなのですね。」
マスターの言葉に、ふん。と鼻を鳴らして地下への階段を降りてくジン。
私も続いて行くと、そこにはまさしく銃の訓練所と呼ぶにふさわしい装備がなされていた。
「キャンティ、久しぶりだな。」
ジンが奥で銃を構えていた女性に話しかけた。
「ジン!久しぶりだねぇ。ん?そこの可愛いお嬢さんは、愛人かい?あんた、いつからロリコンになったんだよ。」
あははは!と愉快に笑う『キャンティ』と呼ばれた女性。
ジンがロリコン…
あはははっ(o≧∇≦)o
ウケる!!!
「そのよく回る口を撃ち抜いてやろうか、キャンティ。」
半ば本気で言ったジンに少し身震いがした。
「いや、悪ぃ悪ぃ。で?その子を訓練しにきたんだ?」
「まぁな。」
「んじゃ、コイツを使いな。初心者向けだよ。」
一つの銃を渡された。
昨日使った銃に似てるけど、少し違う。
「試しに一発撃ってみろ。」
ジンに言われて、私は銃を構えた。
狙いを定めて…
ズガァン!!!
惜しい。
真ん中より3cmくらい離れた所に穴が空いてる。
「へぇ。筋がいいね。さすがジンが連れて来ただけある。」
キャンティが感心したように言った。
すると、ジンが近づいてきて私を抱くように後ろから銃を構えさせた。
ジンは、私の手の上に自分の手を乗せた。
な、なななっ///
近い近い近いっ!!!
「構えが甘い。もっと脇を締めるように構えろ。」
キャンティが遠くで『ヒュゥ〜』と口笛を吹いた。
ちょっ…見てないで助けて下さいっ!
ジンの顔が真横にある。
ヤバいって…
心臓もたない…
「よし。この体制で撃ってみろ。」
「ぅ…うん///」
集中しろ、自分っ!
ズガァン!!!
今度は綺麗に真ん中に当たった。
「やればできるじゃねぇか。」
やっと離れたジン。
はぁ…
心臓が…苦しい…
その後も、キャンティとジンにアドバイスをもらい、何発か撃った。
2、3発は外れたものの、あとはど真ん中だった。
「今日はありがとうございました。」
「礼には及ばないよ。今度は仕事で会おうね。」
「はい!」
「麗華、先に車に戻ってろ。」
ウチは、キャンティに一礼してポルシェに戻った。
車からジンとキャンティの様子を見ていた。いくつか会話を交わしてる。
キャンティが高笑いした後、別れを言ってジンが車に戻ってきた。
「ジン、ありがとうね。」
「あ?」
「ジンのおかげで上手くなったから。」
かなりドキドキしたけど、楽しかったよ。
ウチは心の中でつぶやき、暗闇の中にポルシェは消えていった。
*おまけ*
麗華を車の所に行かせてから、俺はキャンティに向き直った。
「今日は悪かったな。」
「いいさ。それより大事にしてあげなよ、あの子。」
「どういう意味だ?」
「はっ。隠したって無駄だよ。好きなんだろ?あの子の事。」
……
ウォッカといい、キャンティといい…何故俺の気持ちがわかる?
「わかるさ。あんたがこんな所に女連れて来るなんて初めてだし。…それに、あんたを見てりゃ嫌でもわかるよ。」
「………俺はそんなにわかりやすいか?」
「あはははっ!!なに大丈夫さ。あの子は気づいてないみたいだからね。まぁ、精々頑張りな。」
俺はそう言うキャンティに別れを言って車に戻った。
「両想いってか。いいねぇ。」
キャンティのその言葉は俺には届かなかった。
つづく
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