大切なもの

 

「ん〜、気持ちのいい朝っすね。」

朝からエプロンを身につけ、せっせと朝ごはんを作るウォッカ。

確かにいい朝だけど…
なんだか今日は、どこか胸がざわつく。

「今日、仕事は?」

「今日は少し遠くで取引がある。」

カチャカチャと器用に手早く愛銃を手入れしながらジンは言った。

「仕事、ついて行っちゃダメ?」

「ダメだ。」

………ジンのケチ。


今日は、ちょっと大変な取引みたいなので
私はお留守番という事になっているのだ。

でも、私がついて行きたいのは
ただジンの側にいたいだけじゃない。


さっきも言った通り、胸騒ぎがするのだ。

「よし。ウォッカ、行くぞ。」

「へい。…じゃ麗華、朝ごはんと昼ごはん作っておいたから食べとけよ。」

「うん……。」

私は、何の根拠もない胸騒ぎを抱きつつ返事をした。

「………。」

しばらくジンは私を見ると、私の頭を優しく撫でた。

「夕方には帰る。」

「うん、待ってる。」







だが、私の胸騒ぎはおさまらなかった。

ウォッカの作ったお昼ごはんを食べながら、テレビの生放送番組を見ていると……


ぐら……


「……?」


グラグラグラグラ…!!!


「!!??」

何!?
私、揺れてる!?

『皆さん、机などの下に隠れてください!!』

揺れてるのは、私だけじゃなかった。


テレビも…
いや、テレビの中も揺れてる。


これって……地震!?


私はとにかく机の下に隠れた。

タンスなどの家具が倒れる。


ジン…

…ジン………







同時刻。

「な、なんだ…!?」

うろたえる取引相手。

いや、うろたえてるのは奴らだけじゃない。

俺はすかさず、相手の持っていたスーツケースを奪い
車へと駆けた。

「ま、待て!!」

バン…バン!!

相手は、銃で狙い撃って来たが
揺れが激しくて弾は当たらない。

やっとのこさで車に乗ると、すでにウォッカは車に乗っていた。


こいつ逃げ足早いな……


「なんすかね、この凄い地震。」

「……とにかく急いで帰るぞ。」

麗華が心配だ…


だが、俺の焦る気持ちとは裏腹に
車は渋滞で全く動かず

電話も繋がらないという状態だった。


「ウォッカ、降りろ。」

「え…何すんすか?」

「歩く。」

「えぇぇぇえ!!??歩くって言ったって、ここから何時間かかると思ってるんすか!?それに車はどうするんすか!!」


そう。
歩けば5時間くらいはかかるだろう。

体よりも愛車よりも
何よりも大切なのは麗華だ。

とにかく麗華の無事を確認したい。


「行くぞ。」

「ちょ…ま、待ってくだせぃ兄貴!!」











ジン…

無事だよね…

どこからこんなに出てくるのか不思議なくらいに
次々と溢れ出る涙。

体内の水分を、もう全て出し切っているんじゃないかと思うくらいだ。

「ジン…」

もう何時間経っただろう。

外はすっかり暗くなり
その闇が、さらに私の心を不安にさせる。


このまま…

……このまま…ずっと…
「もう…会えないの……?」

「バカ。会えるに決まってんだろ。」





………え…




俯いていた顔を慌ててあげる。

すると、綺麗な銀髪が目に飛び込んできた。

「ジン!!」

気がつくと、彼は私を強く抱きしめていた。

そして、その体のリズムから
彼が走って帰ってきたのがすぐにわかった。
「夕方までに帰るって言ったじゃん…」

「悪ぃ、遅れた。」

しばらく私達はずっと抱き合ってた。

それ以上何も言わずに

ただ無言で











しばらくして、落ち着きを取り戻した私はジンに聞いた。

「車は?」

「置いてきた。」

「ウォッカは?」

「置いてきた。」

「えぇぇぇえ!!??」

「あいつ歩くの遅いし、すぐバテるからよ。」





とある町の道端。

「兄貴ひどい…。あ…足が痛い…。もう動けない…。」

バタッ!!!



すぐにウォッカは近くの交番で預けられ

翌日、私達は愛車とウォッカを迎えに行った。






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