もう少し早く生まれてくればよかった
ずっと取引の仕事しかなかったが、大きい仕事が入ってきた。
私にとっては初めての大仕事。
「本当に私も行っていいの?大仕事なんでしょ?」
「あぁ。最近ニュースで出てる竹浦知事、知ってるだろ?」
「うん。なんか選挙当選のためにお金を渡したとか…」
ニュースは興味がないため、記憶が曖昧だ。
「今日はその竹浦知事を殺し(バラし)に行く。」
「えっ、竹浦知事を!?」
「あの金の受け取り相手が俺なんだ。どの道バレるのは時間の問題だからな。殺る予定だったんだよ。」
今じゃ、こんな恐ろしい会話が普通になってるんだから不思議だ。
「今夜、米花セントラルホールで野山勝っつう画家のパーティが行なわれる。そこに竹浦知事も来るから、そこで殺す。」
「そんな大勢いる中で大丈夫なの?」
「ふん。バレやしねぇさ。」
夕方。
私はベル姐の部屋にいた。
「パーティなんだから綺麗な格好で行かなきゃね。」
ベル姐はすでに着替えていて、紺のタイトドレスを着ていた。
さすがベル姐…
いつにも増して綺麗だ。
変装はしてるけど。
「私のドレスだと…これしか入らないわね。」
そう言ってベル姐は一着のドレスを私に渡した。
広げてみると、漆黒のタイトドレスが現れた。
胸元には黒いふさふさしたものが付いてて、黒い長手袋と肩にかける薄い半透明の布があった。
「ちょっと地味ね。」
とベル姐、頬に手をあてて困った顔。
「いや、十分派手だと思うけど…」
「じゃ、さっそく着てみて!お化粧もしなきゃいけないから。」
胸元のふさふさがかゆい。
「綺麗よ、麗華!よく似合うわ。」
「そうかな…///」
鏡に写る自分の姿を見て少しビックリした。
私じゃないみたい。
「さぁ、お化粧するわよ。」
ベル姐の手さばきにより、化粧は5分もしないうちに終わった。
…凄い。
より自分じゃなくなった気がする。
「これでジンもメロメロよ。」
「な、何言って…///」
そこでドアが開いた。
ジンが呼びに来たのだ。
「………!」
「ふふふ。麗華、綺麗でしょ。」
「…行くぞ。」
やっぱり、私じゃジンの目にもくれないよね。
米花セントラルホール。
広いホールはたくさんの人でにぎわっていた。
壁にはいろんな絵が飾られている。
「あ。兄貴!こっちです!」
先に会場に来ていたウォッカが手を振った。
「…!?麗華なのか!?」
「うん…どうしたの?」
「いや…綺麗だったからわかんなかった…///」
う…ウォッカ。
私はなんだか泣きそうになった。
「ウォッカだけだよ。そう言ってくれるの。」
にしても…
今日のジンはいつになく格好いい…///
スーツにネクタイ。
帽子やコートじゃないジンは新鮮で格好いい。
ジンに見とれていると、後ろから声をかけられた。
「やっぱり麗華だ!どうしたの?こんな所で。綺麗でわからなかったよ。」
「蘭!それに園子にコナン君!!」
まさか、こんな所で会うとは…
「知り合いに呼ばれて…。蘭達は?」
「そりゃもちろん、園子に誘われたのよ。なんたって鈴木財閥の娘だし。」
「そう、そして格好いい男性を探すのよ!!」
園子…
ここまで来て男探すなんて…
私は後ろを振り向いた。
ジンが他の女性に話しかけられてる。
ウチみたいなガキより、綺麗で上品な女性の方が好きに決まってる。
もっと早く生まれてたら大人の女性として、ジンに好かれただろうか。
「ねぇ、麗華の後ろの人…彼氏?」
「え?ち、違うよ!!」
「照れない照れない。」
と、ふいにジンに話しかけられた。
「もうすぐ始まる。行くぞ。」
「あ、うん。…じゃ、行くから。バイバイ蘭、園子。コナン君もまたね。」
「う、うん。バイバイ麗華お姉ちゃん。」
コナン君の様子がおかしい。
ジンを見て固まっている。
本当、何なの…この子。
ベル姐は会場に。
ウォッカは舞台裏に。
私とジンはホールの二階の竹浦知事が見える位置にスタンバイした。
スピーチが始まった。
それから10分ごろ。
会場からざわめきが起こった。
停電したのだ。
それもそのはず。
舞台裏にあるブレーカーをウォッカが落としたのだ。
それからジンがすかさず竹浦知事を射撃…
ピュン!!!
素早い音が小さく鳴った。
ジンが狙撃したのだ。
私はジンから銃を受け取り、シャンデリアへと繋がっている細いワイヤーのフックに、先端にハンカチのついたロープをかけ、銃を通した。
その間にジンは1階へ降りる。
そして、ロープを緩め、会場にいるベル姐がハンカチ部分を狙撃して銃を落とし、それを回収する。
7分くらいたってから電気がついた。会場から安堵の声があがったと思うと、悲鳴が聞こえた。
「た、竹浦知事が…!!!」
作業を終えて会場をでるのに5分もかからない。
悲鳴があがった頃にはもう私達は外へ出ていた。
ポルシェの中。
私はジンに恐る恐る聞いてみた。
「ジン…会場で女の人と楽しそうに話してたね。」
「なんだ急に。あれも仕事だ。」
「やっぱり大人の女性と話す方がジンは好きだろうし、私みたいな子供じゃ一緒に仕事したって足手まといになるだけ…。もっと早く生まれてればジンの役に立つ事くらいできただろうし…」
私がそんな事を言うとジンは信号で停車し、私の方を向いた。
「今のお前がいるから今の仕事も成功したんだ。それに…」
そこでジンは前に向き直った。
「俺は今のお前が好きだ。」
……!?///
「大人だからとかじゃなく、今のお前が一番だ。自信もて。」
…ジン。
「うん!ありがとう///」
信号が変わり、車が動いた。
暗い夜の道路が、少し明るく感じた。
*おまけ*
「ところで、どうだった?ウチのドレス姿。」
「まぁ、豚に真珠だな。」
「ひどっ!!!あ、あれでしょ。あまりに綺麗すぎて、言うのが恥ずかしいとか。」
「バカ。誰がいつお前の事綺麗とか思うかよ。」
(兄貴…ウソばっかり。俺、知ってるんすからね!兄貴が運転中ミラー越しに麗華を見てた事も、会場で女と話してた時も横目で麗華を見てた事も!!)
悔しいくらい綺麗だった。
いつかお前が大人になった時にお前を絶対手に入れてやる。
つづく
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