愛lovesister! | ナノ




むせ返るような甘ったるい匂いに俺は起こされた。はっとして時計を確認。朝練までまだ時間はある、ほっと一息ついてソファから体を起こした。と、そこで、もうひとつのソファにちょこんと座る春奈ちゃんが視界にはいる。まだ早朝なのに、早起きな子だ。欠伸を噛み殺し、頭を掻いて居間と併設されている台所へと向かう。そこでは、母さんが機嫌良さそうにパンを卵の黄身に浸していた。テーブルの上の皿にはソレの完成形であるフレンチトーストが置いてある。茶焦げがついたそれを一切れつまみ口のなかに入れると、馬鹿みたいに甘いトーストがじゅわりと溶けた。


「あ、莢君!つまみ食いしないの」
「…母さん、これ甘すぎ。砂糖の分量間違えたんじゃないの?」
「あら、わかる?」


わかる?じゃないよと呟く。ただでさえ甘い筈のフレンチトーストは、今では砂糖の塊になってしまっている。「実は袋のお砂糖全部いれちゃってー」市販の袋をひらひらさせて母さんは笑った。それだけ入れれば普通は食卓には出せない筈だが、母さんは違う。そこまで料理は下手ではない母さんが台所にあまり立てないのは、こうしたドジな所とドケチすぎる性格のせいだ。だから、朝はいつも父さんが何かしら作っている筈だったんだけど、当の本人はどこかにでかけているらしかった。


「父さんは?」
「銀行にお金降ろしに行ってるの。今日は春奈ちゃんの生活必需品揃えるからね」
「ああ」


ちらりと春奈ちゃんの方を見る。そこでふと、彼女は何歳なんだろうと疑問が浮かんだ。容姿は幼いが雰囲気は少し見た目にそぐわない大人っぽさを持っている。俺の疑問は当然のもののように思えた。心なしか声のボリュームを下げて母さんに問うと、母さんはびちゃりとパンを液につかしながら答えた。


「うーんと、小学2年生だからー、」
「えっ小学生」
「あらー、わかんなかった?」


唖然とする俺を母さんはクスクスと笑って、顔をしかめた。「孤児院は、お世辞にも裕福とは言えなかったらしいからね」成る程、と俺は思う。幾らか心当たりはある。春奈ちゃんのところは、衣食住を整えるだけでも精一杯だったんだろう。もしかして母さん達はそれもあって春奈ちゃんを引き取ったんだろうか。…まあ、彼等の(といっても大方の首謀者は母さんだが)突飛で唐突な行動にはもう慣れているし、理由を聞くだけ無駄な話なのだろうけど。フライパンにじゅわりと音をたててパンを乗せながら、母さんはにこりと微笑んだ。「だから、これからたくさん食べて、年相応に大きくならなきゃね!」うん、と頷いてもう一度フレンチトーストに手を伸ばす。


「だけどこんなに甘くなくてもいいと思うよ」
「こ、子供は甘いもの大好きでしょ」
「砂糖の塊は食えたもんじゃないけどね」


甘党も真っ青。



_________




あれから直ぐに父さんは帰ってきて、家族でげろ甘いフレンチトーストを齧りながら今日の予定を話し合った。我が家ではいつもこうして朝食の時間皆の予定を把握する。その方が何かあったとき余計な混乱を招かずにすむからだ、とは父の弁だ。「俺今日数学の小テスト」「まあっ頑張ってきてね!」にこりと笑って母さんは話を進めた。


「今日は春奈ちゃんと私とパパとでお店行ってくるからね!多分5時過ぎには帰ってこられると思う」
「そんなにかかんの」
「だってー、ベッドに毛布に机にー、買うものいっぱいあるもの」


春奈ちゃんが来る前に買って置けばよかったのに、とは思ったが口にしないでおいた。あー甘いなー甘い。


「あ、春奈ちゃんは何か欲しいものある?」


母さんが唐突に、フレンチトーストをちまちま口にいれていた春奈ちゃんに話をふる。自然と俺と父さんの視線は小さな妹へと向かい、居心地が悪いのかうつむきながら彼女は呟いた。「お、おにんぎょ…」「え?」真向かいにいる母さんと父さんは聞き取れなかったらしく、首を傾げる。その反応に春奈ちゃんは「やっやっぱりなんでもないです!」と答えてまたフレンチトーストをかぷりとくわえた。俺も同様に砂糖の塊を食べきり指を舐め、ソファに置いてあった鞄を持ち上げる。


「じゃあ朝練行ってくる」
「いってらっしゃい」
「お夕飯は任せたわよーっ。母さんカレーが食べたいなー」
「はいはい」


苦笑しながら廊下へと飛び出し、ふ、と思い出して遠慮気味に此方に視線を向けている春奈ちゃんを見る。小さく手を振ると、彼女は慌てて片手をぶんぶんと振った。なんだか可愛いな、とか思っちゃったのは俺が母の影響を受けているからなのだろうか。


スウィート・デイ




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -