愛lovesister! | ナノ




「莢さん!」
「おっと」


先生方の会議やらなんやらで、いつもより少し早めに終わった学校の帰り。合い鍵もあるしグラウンドで練習でもしたかったのだが、整備を行うらしくぽいっと追い出された。有人君は家の用事があるらしくていないし、寄り道をする気も起きない。こんな日くらい普通に帰ろう、そう思って、風が心地よい河川敷を歩きながら自前のサッカーボールを器用に(自分で言うのもなんだが、ボールの扱いは得意なほうだ。パワーこそないが、コントロールは得意だし)ドリブルしていると、誰かに名前を呼ばれ、思いっきり抱きつかれた。…まあ、正確に言うなら、飛びつかれたの方があっているかもしれないが。…更にいうなら、うん、どつかれた?ただ俺だって男だしいきなりの圧力に重心を傾けバランスを取り、はあ、と息を吐いてからすこしだけ振り向いた。


「円堂、びっくりするからいきなりはやめろ」
「びっくりしてるか?」


まあそこまで驚いてないけど。そう付け足すと、円堂はだよな!と笑顔を見せた。


にへら、と元気な笑顔を見せてくれる彼、円堂守は、俺の友達だ。…とはいうが、円堂は小学三年生、春奈ちゃんよりひとつ年上だ。学校が近い訳でもないし、普通は特に接点なんて持たない筈なのだが、くしくも、彼と…あと、もう一人と出会ったのはこの河川敷だった。小学生の彼らと、恐らく小学校高学年であろう変な奴らに絡まれているところに声をかけてから、俺たちはたまにこうして一緒に過ごすようになった。しかしまあ、俺は中学生で円堂らは小学生、めったに下校時間に会うことはないのだが…、今日はいつもより早い時間帯だからな。


「久しぶりだな、莢さんと会えるの」
「まあ、最近は忙しかったから」


春奈ちゃんや有人君と交遊をしていたし、つい先日はテストもあった。小学生の頃とは違い、てんてこ舞いな毎日を送っている。それでも楽しいと思えるのは、きっと、毎日が充実しているからだろう。円堂の頭をぽんぽんとたたいていると、「莢さん!」と円堂とは別の声が俺を呼んだ。円堂が来た方向から少し息を切らせてかけ寄ってくる女の子。彼女は、前述にあったとおりの、もう一人の友達、小野冬花ちゃんだ。元気いっぱいで礼儀正しい、円堂の可愛いクラスメート。そんな彼女の手にはボールがあって、それを見て思い出し足元を確かめると、先ほどまで蹴っていたボールはなくなっていた。もしかしなくても、彼女がいま持っているのは俺のボールだろう。


「これっ、転がってきたの!」
「ありがとう冬花ちゃん」


かけ寄ってボールを差し出した冬花ちゃんから白黒のそれを受け取り、代わりといってはなんだが、優しく頭を撫でる。俺の友達は、同世代よりいくらか年下の子のほうが割合が高い(悲しくはないが、少し恥ずかしいことではある。なんせ同世代の友達は九重含め片手で数えられるくらいの人数だからだ。多いほうが良いとは言わないが。…ちなみに、年下の友達の数は両手でも足りないくらいだ)。そんな彼らと接していくと、こういうしぐさは自然と身についてしまう。悪い事とは思わないけど。この前、有人君にやってみたら真っ赤な顔で頬を膨らませられた。正直、狙っているのかと思った。…そういう話はいつか別の機会にするとして。


冬花ちゃんは目を細めて、にこにこ微笑んだ。知り合いの中でも特に、冬花ちゃんは俺になでられることを好む。正直俺の右手はゴッドハンドという訳でもないし何が良いのだろうとは思うのだが、そこはそれ、温かさを好むのだろう。彼女はあまり交友関係は広くない、だからこそ、円堂や俺を本当に慕ってくれる。…感謝してもしきれないくらいだ。


「莢さんは今日学校は?」
「ん、もう終わったよ。今日は少し早いんだ」
「じゃっじゃあっ、暇か!?」
「まあ、用事はないぞ。…サッカーやるか?」
「おう!」


じゃあ早速、とでもいうように空き地の方へとかけていく円堂を、嬉しそうに冬花ちゃんが追いかけていく。「転ぶなよー」そう声をかけた瞬間、芝生で派手に転んで地面にダイブする円堂を見て、苦笑しながら追いかけていった。




_________




「ただいまー」


あれから俺と円堂と冬花ちゃんは日が暮れるまで遊んだ。皆泥だらけになって別れ、くたびれた制服を整えながら玄関のドアを開けると、フローリングの床には買ってもらったばかりのスケッチブックを手にして横たわる春奈ちゃんがいた。寝ているのなら起こさないようにとなるべく静かに靴をしまいながら、それでもこのままじゃあいけないよなあと首を傾げていると、夕刊を取りにきたらしい父さんと鉢合わせした。


「あれ、今日休み?」
「ああ。…莢、この子にちゃんと謝っとけよ」
「なんで?」


父さんは薄い紙の束を手にしながら「今日はお前が早く帰ってくると母さんに聞いて、ずっと待ってたんだぞ」とすうすう寝息を立てる彼女を見た。


「…そっか」


なんとなく、嬉しくなる。ゆっくり優しく春奈ちゃんを抱き上げると、彼女はもぞもぞとさせて薄く目を開けた。


「…莢君、おかえり」
「ただいま。じゃあ、何する?」
「絵をね、かきたいの!」


空色スケッチ




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