治くんは策士 | ナノ

06 一人暮らし


色々あったインターハイがなんとか終了し、バレー部の部活時間が若干短縮されたらしい。
(ちなみにだが稲荷崎バレー部は準優勝というなかなかにとんでもない順位を勝ち取ってきたにも関わらず、侑はとても拗ねていた)
といっても他の平凡な高校のバレー部に比べたらたくさんの時間をさいてると思う。
あくまでインターハイ前の怒涛の部活時間を思えばかなり短くなったと思うという話なのだ。


その影響で、「オフが増えた!」といって治くんが非常に喜んでいたけれど、だからってオフの度に私の後をつけ回すのはやめて頂きたい。切実に。




今日だって私はいつもの様に日用品を求めてドラッグストアに寄った帰り道、夏服を買い足そうと思って近所のショッピングモールへと向かっていただけなのに、気がついたら隣に治くんがいた。
え?意味わからないんだが。


「いやぁ私服の名前もホンマにたまらんなぁ」

「そんなことよりなんでいるの?」

「彼氏なんやからおって当たり前やろ?」

「え、そういう事じゃなくて」

「なんや俺がおったらアカンの」

「アカンっていうか、何故私の居場所を知ってるのかって恐怖を感じてるんだけど…」

「せやから、俺名前の彼氏やん!」



だめだ会話にならない。
もうこうなったら絶対に治くんは帰らないから、とことんスルーの方向でいくしかない。



「そういえば、これ初デートやんなぁ」

「(え、これはデートなのか?)」

「いつも一緒におるからなんや初って感じせーへんなぁ」

「それは確かにそうだね」



主に治くんが私のあとを付け回しているからなんだけどね。
きっとその自覚はないんだろうね。




「ショッピングモールなん行って何するん?」

「そりゃあショッピングだよ」

「何か欲しいもんあるんか?」

「うん、夏服があんまりないんだよね。全部実家に………」

「実家?」



あああああああっぶない!!!!これ以上言ったら絶対ヤバい!!!!
だめだよ普通に考えて治くんに一人暮らししてるなんてバレたら間違いなく不法侵入される自信があるよ!
なんとか言い訳しなくちゃ!




「お、お母さんの実家ね!今までそっちに家族で住んでて!高校からこっちに来たからおばあちゃん家に今まで着てた服とかほとんど置きっぱなしなの!」

「ほ〜、せやったんか!そら服ないと困るもんなぁ」

「そ、そうそう!ほんと困っちゃうよね!」

「ほんなら俺も一緒に行って選んだるわ!」

「え?」

「え?」



………まぁそうなりますよね。
最後まで希望を捨てないようにと思ってたけど、私の隣を何食わぬ顔で歩いてる(しかも手を繋いで離してくれない)時点で当たり前に着いてくるよね、だって治くんだもんね、うんうん。



「いや、なんでもないよ………」

「そうか、ほな行こ」

「うん……」



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なんだかんだ言いつつも、治くんとのショッピング自体はとても楽しむことができた。

さすが女の子からモテるだけあって治くんのファッションセンスはとても良く、「お!!これ絶対名前似合うで!!」と差し出してくる服はどれも私の好みど真ん中だった。

…………なぜ私の好みを知ってるの?


と思わなくもないが、まぁそういう疑問も今更なのであまり気にしないようにしながらショッピングを続けた。

途中で治くんが気に入った何着かをプレゼントしてくれて、それにはちょっとキュンとした。
だって知らない間にお会計済ませてて「初デートの記念や!」なんてあの顔で言われたら普通に照れる。

これでストーカーな部分さえ治ればなぁと思いながら、貰ってばかりでは申し訳なかったのでスポーツ用品店でカッコ良さげなタオル数枚とおやつに飲もうと思ってタピオカを買ってあげた。
治くんは引くくらい喜んでいた。




「俺タオル絶対使えんわ」



ショッピングモールからの帰り道、治くんは悟りを開いたような目をしながらポツリと言った。




「え、使ってよ!暑くなってきたし、部活でたくさん使えるかなぁって思って買ったのに」

「やって名前からの初めてのプレゼントやん!もったいなくて使えんわ!」

「じゃあ私も治くんが買ってくれた服着れない」

「なんっっっでや!!名前に死ぬほど似合うねんで?!頼むから着てくれ!!俺の前だけで!!」

「あれなんか話の方向性変わりそう」



相変わらずぎゅうぎゅうと私の手を握って離さない治くんは、それはそれは幸せそうな顔で笑っていた。
……そんな顔されちゃうとこっちも怒るに怒れないし、突き放すこともできない。


ああ〜私完全に絆されてきてるなぁ…なんて思いながらも、最近はそんなに嫌だと思っていない自分にも気がついている。


もちろん鬱陶しいときもあるし普通に怖いときもあるけれど、いつも一緒にいるせいか治くんの隣はとても落ち着くのだ。
私は自分で思っていたよりも単純だったのかもしれない。




「あ、もう家近所だからここまででいいよ」


当たり前のように家まで送ってくれる治くんは、私の言葉に眉間を寄せた。



「あかん、もう夕方やん!変態が1番出る時間帯やで絶対家まで送る」

「だ、大丈夫だよ!ホントにすぐそこだから!」

「ほんならすぐそこまで俺が送ったってええやんか!」

「そ、れはそうだけど…!」



私の住んでいるマンションはひと目で一人暮らし向けのマンションだと分かってしまうため、治くんに見られる訳にはいかない。
何としてでもここで彼を引き離さなくてはならないのだ。



「ほんならはよ行くで」

「いや、その、ホントにここまでで…」

「これ以上続けて俺が折れると思ってるん?」

「……」

「名前のことで俺が折れたこと今までにあった?」

「……ありません」

「せやろ。ほなはよ行くで」

「はい……」







はい、無事に一人暮らしバレました。











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(名前〜喉乾いてんお茶飲んでええ?)
(って返事の前にもう冷蔵庫開けてんじゃん…)
(お、これもしかして合鍵か?)
(え、ま、なんで見つけられんの?!)
(彼氏やからなぁ)
(ってコラコラさりげなくポケット入れない!)




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