03 お昼ご飯
双子以外のバレー部と融解したあの球技大会から数日。
当たり前であるが稲荷崎高校は日常の生活へと戻り、毎日の授業が再開された。
隣の侑は今日も盛大なイビキをかましながら夢の世界へと旅立っている。
私だって昨日夜遅くまで治くんからのメッセージが止まらなくて寝不足なのに…。
そんな私の苦労も知らずに、ぐーすかと気持ちよさそうに寝ている侑に苛立ち、数学の教師が板書のために黒板へと向かったタイミングを見計らって寝坊助の椅子を蹴ってやった。
「ふがっ!!北さんすんまっせん!!」
「宮〜俺が北に見えるんか?」
「あれ?!夢か?!」
「あほ。そないに睡魔に勝てへんならこの問題解いて目覚ましいや」
「げっ、今数学やったんか」
「(ぷぷ〜ざまあないわ〜)」
案の定侑は衝撃と共に目を覚まし、夢と現実の区別が付かずに混乱していた。
残念なことに教師にもバレ、そのまま応用問題を当てられていたので私の苛立ちも幾分おさまった。
私を差し置いて寝てた罰だよまったく。
「おい、お前授業中俺の椅子蹴ったやろ!」
午前中最後の授業であった数学を終えた途端、眉間に皺を寄せて見るからに怒ってますオーラを纏った侑が私に詰め寄った。
「え?なんの事?」
「しらっじらしいヤツやなお前!あの衝撃は絶対椅子を蹴られたやつや!」
「私以外の誰かかもしれないでしょ。なんで最初に私を疑うの」
「名前以外誰がおんねん!近くの席で俺の椅子を蹴る勇者はお前しかおらんやろが!」
「はぁ?冤罪です〜」
まぁ実際私だけども。
私だって眠かったのに必死に我慢してたんだから、侑だって我慢しなきゃフェアじゃなくない?
私じゃなくても腹立つでしょ。
「そもそもさ、寝てた侑が悪いじゃん」
「遅くまで部活やったんですぅ〜」
「私だって寝不足ですけど〜?侑だけ寝れるなんて私が許さない」
「ほれみぃやっぱりお前やんか!」
「おっと。え〜ナンノコトカナ〜」
「こんのクソ女…!!」
侑が怒りでワナワナと震えだしたので、さっさとズラかろうと鞄の中からお弁当を引っ掴んで教室の出入口へと急ごうとすると、振り返った瞬間に何やら固くてでも人肌に温かいものに激突した。
「わ、っ!」
驚いて目を見開くと、私の目の前には白いワイシャツと学校指定のカーディガンがあったのですぐに人にぶつかってしまったのだと気がついた。
急いで謝ろうとすると何故か私の背中にぶつかってしまった誰かの両腕が回って、そのままぎゅっと抱きしめられてしまったのでそれだけで相手が誰なのか分かってしまった。
「ただでさえ幸せな昼飯の時間やのに、名前から抱きついてくれるなんて俺幸せ死するわ…」
「…治くん」
「にしてもやっぱり名前ええ匂いやなぁ、食べたなってくる」
「……」
忘れていた。
お昼の時間になると、この男が毎日のようにうちのクラスにやって来るのを。
侑と言い合っていたせいだ。
くそう、油断した。
「お、治くん…?」
「ん〜?どした?」
「そ、そろそろ離してほしいな〜、なんて…」
「あかん」
「え、なんで」
「今日俺の朝練長引いて授業前会えへんかったやん。せやから充電せな午後もたへんねん」
「昨日あれだけメッセージのやりとりしたんだから十分なのでは…?」
そのおかけで寝不足だと言うのに、私の言い分など一蹴して治くんは腕の力を強めるだけ。
「(あ、つ、む、!)」
このままではお昼を食いっぱぐれてしまいそうな勢いだったのでどうにかしなくてはと思い、とりあえず近くにいた侑に口パクで助けを求めた。
「(……な、ん、や)」
「(た、す、け、て、!)」
「(は?、い、や、や、!)」
「(はぁ?!、な、ん、で、!)」
「(ばーか!)」
「あ、ちょ!」
最後に暴言を吐くなり意地の悪そうな顔をしたまま教室から出てった侑。
ねぇちょっとこれで完全に逃げれなくなったんだけど。
唯一治くんに対抗できるの侑だけだったんだけど。
あれ?これ詰んだってやつ?
「……今名前ツムのやつと目で会話しとったやろ」
「へっ?!し、してないしてない!」
「うそや!見えとったぞ!」
「そんな目で会話なんて高度なことできないよ!しかも侑なんかと!」
「………なぁ、前から思ってたんやけどなんでツムは呼び捨てで俺はくん付けなん?」
「え、(だって突然彼女にされたんだもん…)」
「俺が彼氏やんか。なんでツムが呼び捨てなん?なぁなんで?俺は呼び捨てにしたないん?」
「いや、ちょ、落ち着いて治く…」
「名前、呼んでや呼び捨てで」
このあと呼び捨てするまで離してくれませんでしたとさ。
案の定お昼ご飯食べる時間なくなったし、なのに治くんはめちゃめちゃに大きいおにぎり3口くらいで食べ終わってて自分はちゃっかりお昼食べてたし、なんだろもう散々だなぁ。
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(はぁ〜もう昼休憩終わりかいな、授業たる〜)
(侑!さっきはよくも見捨ててくれたね!)
(はぁ?…あ〜サムに捕まっとったやつか)
(お陰であの後大変だったんだから!)
(そんなん俺が知るか!俺の椅子蹴った罰や!)
((ほんっと人でなしのクソ野郎め…!))
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