02 球技大会
5月某日。
今日は球技大会が開催される。
このクラスになってから初めての行事。
私の運動能力に関しては可もなく不可もなくってところかな…。
とりわけバスケだけは小学生の頃から続けていたから、球技なら得意種目はもちろんバスケ。
でもこの稲荷崎高校において球技大会では、ほぼメインの種目として扱われるのはバレーである。
まぁそりゃあこれだけバレーの強豪校であれば、バレーを大きく取り上げても何ら不思議ではないけれど、今年度は宮兄弟の力あってかもはやJ事務所のアイドルのLIVEのような盛り上がりである。
正直私は宮兄弟とか興味なかったし、去年だって好きなバスケを思う存分楽しんで過ごしてた。
けれど、今年はそうもいかない。
なにせ気づいたら治くんの彼女にされていた訳だから、周囲からの「彼女なら応援せな!」という圧に負けて[治頑張れ]団扇を持たされてしまったからである。
……非常に恥ずかしいし、私はまだ治くんの彼女になったことに関して認めていない。
そもそも実際そんな話はしてないし彼女になった覚えもないのだから、認めるもクソもないのだけれど、完全に周りを固められてしまった感が否めない。
私ってこんなに押しに弱かったんだ……
と思わぬタイミングで自分の欠点に気がついたところで、不意に声をかけられた。
「名前!」
「!…治くん」
「俺次試合やねん」
「あ、そうなんだ」
「Cコートやから」
「?うん」
「Cコートやで?分かったか?」
「え、うん」
「応援してくれるんよな?」
「………あ、うん、ガンバレ、」
「っしコレで100倍は頑張れるわ!」
颯爽とCコートへとかけていった治くん。
………何がしたかったのだろう。
しかしいつもより若干嬉しそうな表情の治くんは、100倍頑張れるという宣言通りバッチバチにスパイク決めまくっていて、対戦相手である銀島くんどころかチームメイトである角名くんにまで引いた目で見られていた。
私の隣で観戦していた侑でさえ「あいつ普段の試合でもあれくらいやる気と根性みせぇやクソが!」とキレ散らかしてたから、きっと余程調子が良かったのだろう。
「おい名前」
「なに?」
「お前サムには気ぃつけや」
「え?それもっと早く言ってほしかったんだけど」
「今からでも遅ない」
「いやもう手遅れだよ。気づいたら彼女にされてたんだからね」
「せやから、こんなんまだ序の口や言うてんねん!」
「………え?」
「あいつホンマにヤバいで…朝起きてまずはお前に連絡、ほんで朝飯食いながらお前のことずっと考えよって、学校行く時も授業中も昼飯もずーーっとお前のこと考えてんねん!」
「や、ちょ…それは大袈裟じゃ」
「大袈裟やったらよかったんになぁ」
「………ねぇ、本当に怖いんだけどこの話やめない?」
「ええか名前、サムは一回執着したら死んでも離さんで。メシもそうやねん、せやからお前やってそうや。何があってもぜーーーったいに離したらんねん」
「……(ゴクリ)」
「俺に似てちょっと顔がええだけで、実際はただのストーカーやねん。せやからさっさと逃げなお前取り返しつかんくなるで」
前半部分はちょっと要らなかったけど、とにかく危険を知らされていることだけはなんとか理解した。
双子の人でなしである侑が言うんだ。
同じDNAなのだから治くんだって人でなしだったとしても何も不思議はない。
ただちょっと侑より常識人に見えるだけで、治くんだって普通の人に比べたらきっと危ない思考の持ち主なのかもしれないし。
「う、分かった気をつけるよ…」
「ホンマに気をつけ「名前!!!」
「あ、」
「げぇ」
「なんっっしとんねんこのクソツム!!」
「あ?!なんもしとらへんわアホが!」
「なんでお前が名前に話しかけとんねん俺の彼女やぞ近寄んなや!!!」
「うっさいな同じクラスなんやからしゃーないやろこのストーカー!」
「ストーカーぁ?!彼氏やっちゅーてるやろが!!」
「どこが彼氏やねん!お前告白もろくにしとらんやろが!」
どんどんヒートアップしていく双子の喧嘩に、野次馬が次々と集まってくる。
彼らの喧嘩の内容に私は止まらない鳥肌を隠しながら、なんとかその中心部から抜け出して人の輪の外へと出ると、そこにはバレー部の面々が立っていた。
「苗字さんも災難だよね…あんなのに好かれちゃって」
「お、この子が治のカノジョか」
「いやカノジョちゃうくて治がストーカーしとる女の子やろ」
「あー、いつも「名前〜名前に会いたい〜」て言うてる子か」
「せや、名前ちゃんや」
「え、あ、はい…?」
頭上でよく分からない会話が展開される中、自分の名前が聞こえたのでとりあえず返事をすると、巨人たちの中では1番小さいと思われるのにその貫禄と威圧感がハンパない黒髪の人が私に目線を合わせた。
「堪忍なぁ。治のやつ、相当迷惑かけとるやろ?」
「ぁ、えっと…」
「ほんでも、苗字さんのことホンマに好きみたいやねん」
「は、はぁ…」
「せやからって迷惑かけてええ理由にはならへんけどな、なんやどうにも困ったら俺らにいつでも言いや」
治、相当好きみたいやから。とそう言って黒髪の恐らく先輩であるその人は、子供にでもするみたいに私の頭を二、三度撫でると他のメンバーを引き連れてどこかへと去っていってしまった。
一体なんだったのだろう……
……………というか、なんで面識ないのにバレー部みんな私のこと知ってるの……?
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(おっとここでまた7番苗字選手が3Pを決めた〜!)
((やった、今日3Pの調子良い…!))
(名前〜!!カッコええで!!名前バスケできたんやなぁさすが俺の名前や!!)
(おいクソサムお前のクラスはあっちやろ!)
(あ?!うっさいねんクソツムが!彼女の応援してどこが悪いねん!)
(お前のクラスやてこないだお前に告白してきた子が試合出とるやないかい応援したれや!)
(なんでそんな知らんやつ応援せなあかんねん俺は名前応援するために今日来てんねんクソが!)
(はぁ?!お前性根腐っとんのかホンマに!)
((私は知らない私は関係ない))
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