治くんは策士 | ナノ

01 はじめまして




稲荷崎高校には、宮兄弟という最強の双子がいる。

なぜ最強なのかというと、まず第一に顔が良い。
一卵性の双子だから顔も全く同じで(私にはそう見える)、尚且つそれがイケメンとあれば、世の女性たちは放っておかないだろう。

そして第二に、強豪バレー部で2年にして2人ともレギュラーを勝ち取っている。イケメン+運動神経抜群の組み合わせは、幼稚園時代から女の子の中で好きな男の子の上位を占める部分だろう。

さらに第三に、高身長というスペックまで持ち合わせている。もはや天は二物を与えずどころか三も四も与えられている彼らは一体何者なのだろうか。


まぁ彼らの最強の所以についてはこのくらいにしておいて、私はそんな宮兄弟のやかましい方(これを言うと本人はめちゃくちゃ怒る)と友人である。

……いや、友人と言っていいのかは分からないけれど、1年、2年と同じクラスでそこそこ話すくらいの関係で、今度行われる修学旅行では一緒の班になるくらいには仲良くしている。



しかし、決して恋愛感情は一切ない。
だからこそ彼は私に対して男友達のような態度をとるのだと思うが、それはそれで私も楽なので構わない。
女子のゴタゴタは結構苦手なのである。



だが、ここで一つ言わせていただきたい。
私は宮"侑"の方と仲が良いのであって、片割れの"治"の方とはこれまで一度も関わった記憶はない。





のに、なぜだろう。


「名前おはようさん」

「今日も可愛ええなぁ、後ろ寝癖ついとんで」

「お、今日の弁当手作りか?!俺もひと口もらってええ?」





最近急に絡まれるようになったのは。




初めは余りにも急すぎて、もしかして侑がドッキリか何かで治くんに変装しているのかと思ったが、何食わぬ顔で登校してきた金髪の同じ顔を見て目の前の銀髪が間違いなく治くんであると判明した。



「あの、宮治…くん?」

「せやで」

「えっ、と、」

「なんや初めて名前が俺の名前呼んでくれた…!」

「……」

「ちゅーかなんで俺らクラス違うん…クソツムばっか2年間も同じになりよってアイツまじしばこ」

「……」

「はぁ〜授業中も昼飯も休憩時間もずっと名前がおる生活したかったなぁ」



と初っ端からマシンガンが止まらない彼に私はどうすればいいのか全く分からなかったけれど、ちょっとトイレに行くだけで「名前どこ行くん?」
ちょっと購買行こうとするだけで「購買か?俺も行く一緒に行こ」
ちょっと友人に呼ばれただけで「今俺が話しとるやん。俺の時間や邪魔すんなや」

こんな生活が1ヶ月も続けばそりゃ慣れる。
人間の順応性ってすごいね、と身をもって実感しましたはい。

その証拠に、今日だってクラス別なはずなのに授業が終わる度にこちらの教室に来ては、私の隣の席の持ち主である侑を蹴飛ばしてその席に居座り、「今日も可愛ええなぁ名前」なんておにぎりを頬張っている彼に違和感はもうない。
慣れって怖い。

最近では治くんがいないと
「名前〜治どこにおるん?」
なんて私に聞いてくる人が増え、その度に「あ、トイレ」とか「今購買行ってる」と答えられてしまう私も私である。
それもこれも「名前〜俺部室行ってくるわ」と一々行き先を教えてから行ってしまう治くんのせいだと思いたい。絶対わざとだと思う。



そしてそんな私だが、今1番困っていることは
「えっ、2人って付き合ってへんの?!」
という問いかけである。


まぁ、確かに分かる。治くんの距離感おかしいし私だって第三者だったら付き合ってると思うレベルなことも分かってる。
けれど、決して付き合おうとかそういった話は一切されていないし、私だって別にたった1ヶ月で恋愛感情を抱いてもいない。

つまるところ、本当に付き合っていないのである。

……いや、本当そのはずなんだけど………、




「は?付き合っとるけど。お前何言うてるん」


否定したの私なのに、まるで視線だけで射殺さん勢いの目付きを質問者に向けた治くんは間違いなく激おこ。


「付き合っとらんかったらこんな一緒におるわけないやろ」

「せっ、せやなぁ!俺何言うてんねやろ、は、ハハッ、!」

「つか今俺と名前の大事な時間やねん。邪魔すんなや」







あれ、どうやら私、知らない間に治くんの彼女になってたみたいです。



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(おいサム、お前完全にストーカーやぞ)
(はぁ?うるさいねんクソツムこの童貞が)
(あ?!童貞ちゃうわお前こそ童貞なんやろが!)
(俺は誰でもええ訳ちゃうねんお前と違うてな!)
(それをストーカーやっちゅーてんねんこのクソサム!)
(アンタら近所迷惑や!!晩メシ抜きやぞ!!)



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