市香が正式にマネージャーになったあの合同練習の翌週。
IH予選が近づいてきた頃のお昼休み。
音駒高校の3年の教室がある階の廊下がザワつく(男女共に)

「なな、あの子1年かな??」
「めっちゃ美人!!」
「顔ちっせー!」
「あ、あの子バレー上手い子じゃん!確か今は男バレのマネージャー」
「「「ああ!!」」」

たまたま黒尾のクラスでたむろしていた男子バレー部3年がなんだなんだと教室から廊下を覗くとそこには男バレ愛しのマネージャー、市香がキョロキョロと何かを探しながら歩いていた。

「市香??」
「あ、黒尾センパイ、夜久センパイに海センパイもちょうどよかった」
「どした??」

市香の手元を見ると数枚の書類を束にして大事そうに持っていた。

「これ、IH予選の組み合わせ表と、あと壮行会についての資料です。男バレは運動部4番目みたいですよ」
「おお、わりぃな」
「いえ、じゃあウチは1年と2年にも渡してくるんでこれで」
「え、全員にお前が届けてくれんの?」
「部活前でもいいんだよ?」

そんな3年の気遣いに市香は何を言っているんだという顔をする。

「こういうのは先生から頼まれたら直ぐに渡すもんでしょ?」
「「「ごもっともです」」」

しっかり者のマネージャーに3年すら頭が上がらない。

「じゃあ、ウチはこれで。お昼に失礼しました」

市香は礼儀も忘れずきっちり挨拶して颯爽と3年の教室を後にした。

それから市香は2年の教室へ行き資料を渡してから1年に資料を渡しに向かう。
2年は割と直ぐに全員見つかったのだが、1年の灰羽、犬岡、芝山の姿が教室にはない。

「市香ちゃん、誰か探してるの?」
「希、犬岡とか知らん?」
「犬岡くん?」

とりあえず犬岡達の情報を自身のクラスで読書をしていた希に聞いてみる。

「あ、そういえば、あのー…灰羽くん、だっけ?あの子ともう1人男の子と3人で体育館行くって言ってたよ」
「もう1人って背の低めの黒髪の?」
「そう!ちょっと大人しい感じの」

ならばそのもう1人の男子は恐らく芝山だろう。
3人で一緒にいるなら探す手間が省けた。

「希、ありがとう」
「うん!お仕事頑張ってね!」
「おう」

市香は希に軽く手を振ると体育館に向かって歩き出した。

体育館に行くと割と多くの生徒が思い思いに活動していた。
バスケをしていたり、バドミントンをしていたり、ドッヂボールをしていたり……。その中にバレーをしている灰羽達の姿があった。灰羽のレシーブ強化をしているようだ。

「あんたらがそこまでバレー好きとはな」
「「市香!?」」
「逢坂さん、どうしたの?」
「これ、IH予選の組み合わせ表と壮行会の資料渡しに来た」
「「「おぉ!!」」」

レシーブ練習を中断し灰羽達は市香の元へ駆け寄ってくる。

「うわ、去年の優勝校がこんなとこに……」
「優勝校ってどれ?」
「この井闥山学園って学校だよ」
「勝ち進めば早々に当たるとこやな」

4人でトーナメント表を見る。
すると昨年の優勝校が同じブロック、しかも勝ち進めば早々に当たる所にいる。

「まあ、俺がいるから大丈夫っしょ!」
「は?あんたがおるから余計に不安になるんやろ下手くそ」
「「ブフッ…」」
「(´・ω・`)」

市香の辛辣に灰羽しょぼくれモード突入。

「まあ、あんた素材はいいから練習したら伸びるやろ。オーバーワークに気ぃつけるんやで」
「市香ーーー!!俺頑張る!!」
「うわわ、灰羽くん!?」
「リエーフずりー!!」

市香の優しい言葉に感動した灰羽が調子に乗って彼女を抱きしめる。
そんな灰羽に芝山は慌て、犬岡は羨ましがるという謎の構図。

「だぁぁあ!!誰が抱きつけ言うた!!離せ変態!!しばくぞ!!」
「やだー!てか、市香めっちゃ抱き心地いい!!」
「死ね!」
「ぐはっ…、な、ナイスストレート……」

見事な右ストレートが灰羽の鳩尾にヒットし灰羽は撃沈する。

「「あーあ」」
「ハーフやからってなんでも許されると思うなよ?」
「…ごめんなさい」

そんな愉快(?)なお昼休みは灰羽のレシーブ強化練習に市香が加わりより一層灰羽にとって嬉しくもあり厳しいものになった。



「あ、逢坂さん!」
「?芝山?どしたん?」

そんなこんながあった日の部活。
まだ練習の最中のはずなのに芝山がドリンク作りをしている市香の元へやってくる。

「ドリンク作るの手伝うよ!」
「ええよ、そんなん。練習に集中しぃ」

芝山の申し出に市香は眉間に深く皺を刻み不機嫌な様子になる。

「あ…ごめん」

見た目が良い分迫力がある為に芝山は怒られた子犬のようにしょぼくれる。

「いや、怒ってんちゃうよ。今はウチおるんやし、1年やからってドリンクとかせんでええ。その分ちゃんと練習して強くなって?な?」

そんな芝山を可哀想に思ったのもあるが市香は純粋にマネージャーの仕事は自分に任せて部員の芝山は練習に集中してほしいだけだったのでふわりと優しい笑顔を見せる。

「あ、う、うん!!ありがとう!!(か、可愛いなぁ)」

芝山も男の子のようでそんな市香の微笑みに胸を撃ち抜かれていた。

市香が手際よくドリンクを作り終えた頃はちょうど休憩に入るところで、待ってましたと言わんばかりに部員達は市香の元へやってくる。

「灰羽、あんま飲みすぎたらまた前みたいになるから気ぃつけや」
「うっ……」

灰羽はこの前、市香が作ったドリンクが美味い、最高に美味い!!と一気に飲み練習中に気分が悪くなってトイレに駆け込んでいた。

「市香」
「研磨センパイどないしたんすか?」
「突き指したからテーピング頼める?」
「わかりました。そこ座ってください」

孤爪をパイプ椅子に座らせて救急セットからテーピングを取り出す市香。

「どの指ですか?」
「中指」
「わかりました」

どうやら右の中指を突き指したらしい。
市香はテキパキと孤爪の指にテーピングしていく。
そして、じっ…と孤爪の手を眺める市香。

「…どうかした?」
「いや、研磨センパイも男やなって思て。意外に手逞しいですね」
「……そ、そう?」
「はい」

流石の孤爪もこれには動揺したようで視線があちこちに向きポーカーフェイスが出来ない。

「へーい、市香チャン俺にもテーピングして!」
「黒尾センパイも突き指ですか?」
「いや、予防(俺も市香に触れられたい)」

そんな幼なじみと想い人のやり取りを目撃した黒尾は下心ありありで市香の元へとやってくる。

「はぁ…じゃあ、座ってください」
「おう。俺の手も逞しいだろー?」
「確かに。流石MBですね。……やっぱ女のウチとは全然違う」
「……?!!(は?え?な、な、な?!!)」

テーピングをする手を止め黒尾の右手に自身の左手を比べるように重ねる市香
市香は一切そのような気はないのだが想い人にそんな事をされては黒尾は爆発寸前だった。

「市香、クロが死んじゃうから」
「へ?」
「(……無自覚か)」

そんな出来事があったからか今日の黒尾はミスを連発し絶不調だった。

完璧に見える黒尾も市香の前ではただの恋する健全な男子高校生のようだ。




(…クロ、市香にメロメロだね)
(は?!え?!け、研磨?!)
(分かりやす過ぎ)
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