叶わなかった恋、もたらされた愛

私の方がずっと前から鉄朗を想ってた。
でも、その恋は叶わなかった。

あいつは3年間一緒にいた音駒マネージャーの私より烏野の1年マネージャーの仁花ちゃんに恋をした。そして仁花ちゃんも、鉄朗に恋してた。

2人は春高の対戦後に付き合いだした。

あれから数年。
私たちは大人になり、それぞれの道を歩んでいる。



『ヨル!俺の子供生まれた!!可愛いだろ?!』

私は東京でIT関係の仕事をしている。
その休憩中、過去の想い人が写真付きのLINEを寄越してきた。
写真には生まれたばかりの赤ちゃんを中心に鉄朗と仁花ちゃんが笑顔で写っていた。

「……私の気持ちも知らないで……馬鹿じゃないの」

私は相も変わらず片想いをこじらせていた。
失恋してから恋人は作った。
でも、いつもあいつを重ねてしまう。
そんな恋は長くは続くわけもなくいつも短期間で破局。

馬鹿は、私だ。

「先輩、顔が悪いですよ」
「……それを言うなら顔色が悪い、じゃないの?ツッキー」
「その呼び方やめてください」

同部署の後輩、月島蛍が給湯室に現れるなり暴言を吐く。
かつて烏野男子バレー部に所属していた二個下の月島は高校卒業後上京してきた。
大学も私たちは一緒でその頃からよくつるんでいたが別に男女のそうこうした関係ではない。
ただの先輩後輩。良き理解者。

私の片想いを知る唯一の存在。

「あの人達、子供出来たみたいですね」
「知ってる。今LINE来たわ」
「……大丈夫ですか」
「……たぶん」

月島は冷たいようで優しくて、いつも私を甘やかす。
無神経な想い人が惚気を爆発してくる度に傍にいて支えてくれたのはいつも月島だった。

「先輩も馬鹿ですね。いつまで片想いしてるんですか」
「……本当に馬鹿だよね。自分でも思うわ」

叶わない恋を追いかけても何も起こらないのはわかってる。
でも、でも私はあいつがたまらなく好きだった。

どこが?と聞かれたら迷ってしまう。
……あいつのいい所は無限にあるから。

私があいつを1番よく知ってたはずなのに、なんであの子なんだろう。

嫉妬で狂いそうだった。

「……僕じゃ、だめですか?」
「…………はい?」

月島が何を言っているのかわからない。
でも、私もそこまで鈍感な女ではない。
月島の真剣な瞳に吸い込まれてしまいそうだった。

「……つき、しま?」
「……なんで僕が東京に来たかわかりますか?」
「え、こういう仕事したかったからじゃないの?」
「貴方の傍にいたかったからですよ。あの無神経な人から貴方を守りたかったから、僕は東京に来たんです」

月島は優しいやつだ。
大学から今までずっと一緒にいたからよく分かってる。いつも傍にいてくれたのはあいつじゃなくて月島だったからよくわかってる。
人を馬鹿にした言い方をしたりもするけど、本気で傷つけたりするやつじゃない。
馬鹿な冗談を言ったりするやつでもない。

「僕は貴方が好きだ。初めて出逢った時からずっと」
「……っ」

ここは会社の給湯室。
抱き合っていていい場所ではない。
でも月島の腕の中は心地がよくて、離れられない。

「わたし、は……」
「……知ってます。まだあの人が好きなんデショ。それでいい。あの人の代わりでいい。僕は、貴方の隣にいたい。……貴方の笑顔を見ていたい」

月島、あんたも馬鹿だよ。
なんでこんな馬鹿な女がいいの?
代わりでいいなんて、馬鹿よ。

「……馬鹿じゃないの……」

でも私は、この優しい温もりに縋るしかなかった。



ーENDー

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