逃げていたのはリヒトも來宵も同じ。リヒトは來宵という存在から、來宵は自分の本心から。
否定ばかりしていては、逃げてばかりでは、何も始まらないのだ。
「……俺を憎むなら憎めばいい。恨むなら恨めばいい。でもな、そのままじゃ辛いのはお前だぞ?」
リヒトはそっと來宵の頭に手を乗せる。くしゃくしゃ、と優しく撫でる。まるであの頃のように。
***
一面の草原。
「とと様ー!! とと様ー!!」
小さな子どもが父親を呼ぶ。
「どうしたんだ?」
ばふ、と抱きつき父親を見上げる。
「えへへーとと様大好きー!!」
父親は息子の頭を優しく撫で、抱き上げる。
「俺も大好きだ。」
二人の笑顔はまさしく、幸せな親子そのもの。
そこは、思い出の草原。
***
「……っ!!」
記憶が蘇る。楽しかった、幸せだったあの頃の記憶。
どうして壊れてしまったのだろう。どうして泣いているのだろう。
來宵は必死に止まらない涙をこらえようとする。しかし、どうしても止まらない。ぽたりぽたりと落ちては、地面に出来た自らの血だまりに波紋を起こす。
「……俺は帰るぞ?」
リヒトが立ち上がり、來宵に背を向け歩き出す。そして、倒れている命を抱きかかえた。
まだ意識は無いようで、命は目を閉じたままだ。
「すまないな、命。巻き込んでしまって……。」
命の髪を撫でる。そしてリヒトは振り返り、來宵に微笑みかけた。