「死ぬことは、世界から逃げることだ。俺はそんなこと許さない。」
リヒトが來宵の腕を掴む。真っ赤な瞳が來宵を見つめた。覚悟を決めたような、どこか吹っ切れた目をしている。
「……汝とて、逃げたくせに何を言う。」
ポツリと呟く。苦しい。痛い。辛い。
自分で生み出したくせに、我から逃げたくせに。
「それは認める。自覚はあるつもりだ。だからこうしてこの場に居るんだ。」
來宵の腕がリヒトから離れる。あの時とは違う、その目はしっかりと來宵を捉えていた。
リヒトが來宵に近づく。ふらふらと後ずさりをする來宵。
「俺はもう逃げない。だからお前も……。」
リヒトがまた一歩、來宵に近づく。
「黙れっ!! 汝に何がわかる!? 我を見捨て、幸せに暮らしておった汝に、何がわかるのじゃ!?」
來宵は叫ぶ。溢れ出た感情は止められなかった。頬を涙がつたう。泣きたくなどないのに、感情とともに溢れてくる。
「ずっとずっと、信じておったのに……。汝は我を裏切ったっ!! 我は汝を許さぬ、絶対に!!」
ボロボロの体で訴える。それでも、本心は隠したつもりだった。恨まなければ、憎まなければ、耐えられない。
來宵はぐらりとその場に膝をつく。
「無理はするな。本当に死ぬぞ……?」
顔を上げるとリヒトが優しく微笑んでいた。もう、何もかもわかっているように。その顔を見たら、余計に涙が止まらない。
「……っ。我はっ、逃げてなど、いないっ!」
弱々しく言い放ったその言葉を聞いて、リヒトは呆れたような笑顔を見せる。