來宵の鋭い爪がリヒトの頬をかする。
「……っ!?」
來宵は自身をぎゅっと抱きしめるその手から逃れようと抵抗する。しかし、今の彼には無理だった。
リヒトの白い服が來宵の血で赤く染まる。
「な……なんの、つもり、じゃ。」
荒く呼吸をしながら來宵はリヒトの服に爪を立てる。
やめろ、やめてくれ……我は、こんな……。
「……あったかいだろう?」
突然リヒトが耳元で呟いた。頭一つ以上背が高いリヒトに密着しているため、來宵の顔はちょうどリヒトの胸元にある。
トクントクンと彼の優しい拍動が聴こえる。
「……っ。」
來宵は眉をひそめた。体はそれを拒むのに、心の奥に押し込めた感情がそれを求める。矛盾する心身が彼を追い詰める。
「ふざけたことを……言うでない!!」
耐えられなくなった來宵は力いっぱいリヒトを突き放した。意外にもリヒトはすんなり手を離す。支えを失った体はぐらりと揺らいだが、倒れることは無かった。
「……何がしたいのじゃ、汝は。」
痛みに顔を歪めながら、リヒトを睨む。まるですべてを見透かしているかのような赤い瞳。心にしまい込んだ感情を引き出そうとしているようなその振る舞い。何もかも気に入らない。
「……何故、手を抜いた? 何故、我を殺さぬのじゃっ!?」
力が入らない体を無理やり動かし、來宵はリヒトの胸ぐらを掴む。その言葉を聞いたリヒトは少し悲しそうな顔をした。
するとリヒトは静かに口を開いた。