“大事な家族”
その言葉を聞いた途端、來宵の表情が変わる。
「大事な家族なら、もう少し痛めつけてやるべきじゃったの……。」
命たちがリヒトにとって大事な家族なのはわかっていた。だが、リヒトの口から直接その言葉は聞きたくなかった。
本当に血が繋がっている自分ではなく、繋がりも何もないその弱い者を彼は家族と呼ぶ。何故?
「來宵。それ以上ふざけた事を言うのなら、俺は本当にお前を……。」
悲しみと怒り、悔しさが混ざった言葉。
違う。そんなものを聞きたいのではない。我が聞きたいのは……。
「殺す、か? やってみればよかろう。我はもう、汝の息子では無いからのう。」
気持ちを隠した偽りの言葉。
何故そんなことを言うんだ。……俺はただ、お前を愛していたいだけなのに。
互いに想いを心の奥に押し込み、二人は対峙する。
「残念だ。」
その言葉が合図だった。
リヒトは宙に浮いている剣二本を來宵に向かって放つ。悲しげな顔で剣を放ったリヒトを見て、來宵は唇を噛みしめた。
「……。」
無言のまま、來宵は自分に向かってくる剣を見つめている。どこかリヒトに似た雰囲気の悲しみに満ちた顔だった。
「……我に家族などいらぬ。仲間などいらぬ。父親など……いらぬ。」
自分に言い聞かせるようにつぶやく來宵。心の奥底にしまい込んだ感情が、父親を前にして溢れ出そうな気がした。